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自分のすることを注意されたりしても反抗的な態度を取らないなんて、熊井ちゃんはこの生徒会長さんにずいぶん懐いているんだな。
どうすれば熊井ちゃんをそんなに御することが出来るのだろう。茉麻さん、只者ではないな。
そんな彼女に見惚れていると、いきなり明るい声が聞こえた。

「みんな、おっはよー!」

朝のこの時間、次々と生徒さんがやってくる。今もまた2人。
いま挨拶をした人の、その横に立っているのは僕も知っている人だった。

み、雅さんだ。
間近で見る雅さんは、それはそれは美しかった。
こんなに美しい人だもん、そりゃここにいるりーちゃんの目も輝くわけだよ。

「梨沙子ちゃん、おはよう」
「夏焼先輩!お、おはようございますっ!!」
「おいおいりーちゃん、徳永先輩には挨拶なしかい?」
「おはよ、ちー」
「何だ、そのテンションの違いは!」

「ちー、みや、おはよー」
「おぅふ熊井ちゃん。今日もまたずいぶんと個性的なメイクだね」


あの雅さんが今目の前にいるとは、何か信じられない思いだ。
Buono!ライブであのオーラを放っている姿、そしてあの歌声を思い出す。その雅さんが目の前に。
それにしても、本当に何という美しさだろう。しかもこのクールな感じがたまらない。見とれている梨沙子ちゃんの気持ちがよくわかる。

そしてもう一人、隣の雅さんとは対照的なニコニコ顔の明るそうな人。
徳永さん、でいいのかな。

「おー、もぉ軍団の残党が集合してるねー」
「残党て。もぉ軍団はうちを新しいリーダーに今も進化し続けてるんだけど!」
「そうなの? じゃあ、その新リーダーの熊井ちゃんにそのうちインタビューしてみよっかな。面白い記事になりそうだね」
「違うよ、ちぃ。あくまでも“自称”新リーダーだゆー」

りーちゃんのつぶやきは聞こえなかったのか、徳永さんにおだてられた熊井ちゃんはあからさまに機嫌がよくなった。

「うちが学園新聞の一面トップかー。もちろん写真付きだよね。あ、それならさ、今日撮ってよ」
「いや熊井ちゃん、一面はないから」
「ぐんだんちょーが聞いたら怒っちゃうよ、熊井ちゃん。勝手なこと言って!って」
「そういえば、桃のことしばらく見てないわー。どうりでここのところ平和だと思った」
「たぶんまたすぐ会えるよ、この学園の中で。それも近いうちにねー。徳さんによろしくって言ってたし、もも」
「なんで私を名指し? うっぜーな、相変わらず」


僕に気付いた徳永さんが、熊井ちゃんに続けて尋ねる。

「ところで熊井ちゃん、その子が例の舞ちゃんに告白して玉砕した少年かな?」
「そうだよ。でもあきらめきれなくて、それで今日も舞ちゃんに会うために来たんだって。こんな時間にわざわざここまで」

ちょ、、、それ、違う! 
そんな言い方されたら、まるで僕がストーカーみたいじゃないか。
僕は一方的に熊井ちゃんにここまで連れて来られたんだ!

でも、熊井ちゃんのその発言を聞いても、彼女達はそれで僕に変な目を向けてくることはなかった。
良かった。茉麻さんもそうだったけど、この人たちは熊井ちゃんの性格や人となりをよく知っているようだ。

「舞ちゃんに告白するなんて、それこそ学園新聞の一面なんだけどね。あー、記事にしたいわ」
「ちょっと、ちぃ。そんなことしたらまた舞ちゃん新聞部に乗り込んできちゃう」
「あの・・・ そーいうの、そっとしておいてあげたほうが。あまり舞ちゃんをそのことで刺激しないほうがいいんじゃないかと」
「梨沙子はさー、この間から何か冷めてるよねー。せっかくみんなが一緒になって楽しもうとしてるのにさー」
「まぁまぁ熊井ちゃん。私も梨沙子と同じ意見。そういうのはさ、他人がどうこう口を挟まない方がいいよ」

本当にみんな知ってるんだな・・・ 僕が舞ちゃんに告白したこと。
今のみなさんの発言も、何かいろいろとツッコみたいんだけど(特に熊井に対して)、この人達に対して僕ごときが口を差し挟めるような雰囲気ではなかった。
梨沙子ちゃん頑張れと心の中で応援することしか出来ない僕。

すると、その僕と同じスタンスの人がいた。

「梨沙子ちゃんの言うとおりだと思う。いま茉麻も言ったけど、そういう口出しは余計な御世話だよ。当事者じゃないならね」
「夏焼先輩!(はあと)」

「それと関係あるのか分からないけど、実はわたし見ちゃったんだよね。ちょっと前に舞ちゃんがね・・・ あ・・」

言葉を切った雅さんが僕のことをチラっと見る。

「みや、何を見たの?」
「うん、春休みになる前のことなんだけどね。でも・・・・」

雅さんがやはり言いよどむと、熊井ちゃんが僕に言った。

「ねぇ! ちょっと向こう行ってて」

席を外すように言われてしまう。
まあ、そうだろう、それはしょうがない。

が、それ以上に今の光景は僕に驚きを与えてくれた。
だって、熊井ちゃんが、雅さんの言葉を濁した断片的な発言だけで、その言わんとすることを察したのだから。
僕の経験上、熊井ちゃんに腹芸というものは一切通じないと思ってたから。
あの熊井ちゃんが場の空気を読むなんていう高度な気遣いが出来るとは、僕にとって驚き以外の何者でもない。

雅さんが舞ちゃんの何を見たのかは気になる。その話しを聞きたい。
でも、舞ちゃんのために、僕はその場をはずして少し距離を置いた。





少年が場をはずすと、みんなの視線がいっせいに私に集中した。

「え? そんな注目される程のことじゃないんだけど」
「何を見たの?みや」
「いや、まあホント大したことじゃないんだ。でも、やっぱり珍しい光景だったから」
「もったいぶるなよー、みや」

「舞ちゃんが、って言うより、お嬢様のことなんだけど、ずっと舞ちゃんと一緒にいるんだよね。私が見かけるときは、いつも一緒なの」
「えー!? そんなのいつものことじゃんw」
「違うよ。分からない?いつもは舞ちゃんがお嬢様にくっついてるでしょ。でもそのころ私が見るといつも、ずっとお嬢様が舞ちゃんのそばにいる。この違い分かる?」

笑っていたみんなの顔が真剣な眼差しに変わった。
そんな中、熊井ちゃんだけは表情が変わらず、焦点の定まってないような、あいまいな笑顔を浮かべていた。

あぁ、分かってないな、熊井ちゃんだけ。
だから少し解説するような話し方になってしまった。

「そう、お嬢様の方から舞ちゃんのそばについてあげてるの、ずっと。
舞ちゃんもいつもの舞様舞様な感じじゃなくって。元気が無いっていうわけでもないんだけど、何か思い込んだような顔に見えて。
しかもね、お嬢様が舞ちゃんの手を包み込むように握ってあげたりもしてるんだよ。そんなの有り得ないでしょ。あのスキンシップは好きじゃないお嬢様が」
「お嬢様、スキンシップ好きじゃないんだ。よく知ってるねー、みや」
「熊井ちゃんは知らなかった? お嬢様のそばにいる人ならたいてい知ってるよ。私も昔お嬢様の付き人みたいなことやってたから知ったんだけど」
「そうなんだ。あのお嬢様がそこまで舞ちゃんに」



うん、あとね、実はまだあるんだ。
この前、舞ちゃんに会ったとき、私は舞ちゃんに聞かれたことがある。

でも、これはみんなにも話せない。
だって、あのとき聞かれたことは私と舞ちゃんの間だけのことだから。


* * * *

あれは新学年になってから一日目、始業式の日。
舞ちゃんと私はバッタリ出会った。目が合ったとき、ジロっと睨まれたような気がした。
まぁ、新聞部は舞ちゃんからは快く思われてないだろうから、その時もそのまま穏便に通り過ぎようとしたんだけど。

それがどういう風の吹き回しか、舞ちゃんが私を呼び止めてきた。
そして私は、思いつめたような表情の舞ちゃんからこんなことを聞かれたのだ。


「夏焼さんなら分かるんじゃないかと思って」
「え? 分かるって、何が?」
「男の人ってそういうことを簡単に口にするのかな」
「そういうことって?」
「好き、っていう言葉を言ってくるのって、それってどういうことなんだろう、夏焼さん」

どういうことも何も、そんなの文字通りの意味じゃないのかな。
・・・って、そこは置いとくとして、今の質問、それって・・・

「舞ちゃん、ひょっとして、好きだって言われたの?男の子に?」
「舞は千聖のことが好き。大好き。舞美ちゃんも好き。なっちゃんも好き。だけど、じゃあ例えば栞菜はどうだろ。舞は栞菜が好きなのかな」

天才さんの話しは論点がすぐに飛んでしまうから、言わんとすることを理解するのは難しいな。
でも、そこで真面目な顔をしたまま有原さんの名前を出してきたことで、私は舞ちゃんの真剣さを察することができた。
いつもの舞ちゃんだったら、“栞菜?あんな℃変態のこと好きな奴なんかいるんでしゅか”とでも小バカにした表情をするだろう。
なのに引き合いに出したりして、舞ちゃん本当は結構好きなんだろうな、有原さんのこと。

「栞菜・・・もちろん嫌いなんかじゃない。嫌いじゃないなら、それって好きってこと? 好きと嫌いの差ってなんだろう?」

また随分と哲学的なことを。
そう聞いてくる舞ちゃんのその目は、全く笑ってなんかいなかった。
彼女の言っていること、これは決して冗談なんかじゃないのだ。私は反射的に背筋が伸びた。



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