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「好きっていう言葉は知覚過程における肯定的な感覚を表現するデジタルな記号にすぎないと思ってた。違うのかな?」

相変わらず難しい言葉を駆使してくる舞ちゃん。私にはその質問の意味からしてよく分からない。
でも、こんなことを私に聞いてくるなんて。舞ちゃん、私に心を開いてくれてるのかな。
それが嬉しかったから、私も舞ちゃんの言葉に誠実に答えようと集中を高めた。

「好き、っていう言葉の中にもたくさんの意味があるんだよ、きっと。LoveとLikeの違いもそうだしさ。
その中でも自分が一番大切にしている気持ちがあるよね。その気持ちだけは相手に真っ直ぐ伝えたいと思えるような。まあ、実はそれが一番難しかったりもするんだけど」
「それなら、舞にとってその言葉を使うのは千聖だけ。そこだけは責任を持ってそう言える自信がある」
「だよね。いま舞ちゃんが言った通りだと思う。好きって言葉を口にするってことは、つまりそれだけの覚悟を持ってるってことなんだよ」
「覚悟・・・」


「舞ちゃん、ひとつ聞いていい? 何でそれを私に? 新聞部の人間なんだよ、わたし」

舞ちゃんはじっと私の顔を見た後、今度はいつもの見慣れた舞様の表情を作られてこう言った。

「夏焼さんは、男の人と付き合ったことありそうだから」

おいおい、私という人間のことをどう思ってるんだか。まあいいけどね。それ、当たりだし。
はぐらかしてもいいところだが、真っ直ぐに話してくれる舞ちゃんを見ると、ありのままを話してもいいかと思う。

「うん、あるよ。もうずいぶん昔のことだけど。ちょっとの間だけだったけどね」
「別れちゃったんだ、その人とは」
「いろいろあってね。まぁ、いい経験、だったのかな」


舞ちゃんは私の話を真剣に聞いてくれた。
そんな舞ちゃんだったが、ふいに彼女の表情がニヤリと歪んだ。

「それで今は鬼軍曹とでしゅか」
「・・・・・」
「後夜祭では随分といい雰囲気だったでしゅね。ふふん」
「・・・・・」


* * * *


そんな、舞ちゃんと交わした会話を思い出した。
去り際には「ありがとうね、夏焼さん」とまで言ってくれたのだ。
あの舞ちゃんが私に心を開いてくれたこと、それがとても嬉しかった。
そうやって知ることが出来た舞ちゃんの気持ちだから、私はそれを心の中で大切にしていたい。


「だからさ、私は梨沙子ちゃんや茉麻の意見に賛成かな。他人の私達が口出しすることじゃないし。
今はデリケートな時期だろうから、しばらくは舞ちゃんをそっとしておいてあげた方がいいと思う」

私が同調すると梨沙子ちゃんは、そのかわいらしいお顔をほころばせてくれた。
他のみんなも、だいたい同意見のようだ。

でも熊井ちゃんだけは、みんなとはちょっと違う方向にベクトルが向いているようだった。
私の話したこと、そこに熊井ちゃんなりの独特な解釈を行ったのか、彼女は一人とても盛り上がっていた。

「そっかー。舞ちゃんもそんなに思いつめてたんだ! 友情純情oh青春だね!! ♪とまら~ぬ せ~いしゅんに 規定は無し~さ」

そう言った熊井ちゃんは、とても楽しそうな、そして、温かさを感じるとてもいい表情をしていた。
こういう意外と情に厚いところも熊井ちゃんのいいところなんだろうな。

でも、私の言ったこと分かってるのかな?
舞ちゃんに変なちょっかい出したりしないよね。

心配ではあるが、真っ直ぐな性格の熊井ちゃんのことだ、決して舞ちゃんの嫌がるようなことをしたりはしないだろう。
この熊井ちゃんの情熱の向かう先はあれだ。たぶんこれからも熊井ちゃんの餌食になるのは、きっとあの少年なんだろう。


「高まるー!! 何か歌いたくなっちゃったねー、あははは」






離れたところに、話している雅さんとそれに真剣な表情で聞き入っている他の人達の姿が見える。熊井ちゃんだけは緊張感に欠ける表情だ。
どんな内容の話をしているのだろう。落ち着かない気分。

真剣な表情の彼女達は凛々しく美しかった。
寮生の人達も美しくてかわいい人揃いだけど、この人達もなかなかだよなあ。
この人達の方が学年が上の分、ちょっと大人っぽくて。
カッコイイ人達だな、遠目で眺めながら、そんなことを思う。

一人離れたところに立っているというのも手持ち無沙汰なもので。見るとも無く回りの風景を見回す。
そんな中、一人の中等部の子がそばにいることに気付いた。


あれ? この子、さっき熊井ちゃんをケイタイで撮っていた子だ。
一旦学園内に入っていったのに、また戻ってきたのか。

さっきとは違って、今度は本格的なカメラを構えている。
ずっとファインダーを覗き込んだままの彼女。そのカメラは、僕も見ているあの5人の美少女に向けられていた。
そのカメラに付いている長いレンズ、あれは望遠レンズだ。離れているこの距離でもかなりアップで撮れているはず。

いま流行りのカメラ女子ってやつか。
なるほど、かわいらしい女の子がカメラを構えているというのも、なかなか絵になるものですね。
彼女は撮り慣れているようで、聞こえてくるシャッター音もテンポが良く心地いい。
撮影することに没頭しているのか、そばに僕がいることなんかお構いなしだ。
ファインダーを覗く彼女からは「ヌホホホ」なんていう声が漏れ聞こえてくる。
何故か栞菜ちゃんを連想してしまった。彼女のその艶やかな黒髪といい、その辺が似ているように見えるからだろうか。

みなさん、撮られているのに気づいていないのかな?
ま、いいか。僕には関係ないことだ。


視線を戻すと、熊井ちゃんが手招きしている。雅さんの話しは終わったのかな。
5人のもとに行くと、皆さんは僕のことをじっと見つめてくる。

こ、怖い・・・
この人達が固まって立っているのを見ると、ぶっちゃけちょっと怖い。


今ここにいる5人の女子生徒さん。5人とも皆さん背が高くて、そして、みなさん揃って美人系のお顔。
だからなのか、この人たちの存在感は際立っていて、そこには何かとても迫力が感じられる。

大いなる貫禄を漂わせながら、5人の美少女が集っているのだ。
通り過ぎていく中等部の後輩さん達がチラチラとこっちを遠慮がちに見ていく。
高等部の人達でさえ、この5人の横を通っていくときは緊張気味になっているようだ。挨拶する姿も直立不動だ。

学園の人達でさえそんな反応をするこの5人に囲まれて、僕は今本当にちょっと怖いんですけど。


そんな僕の緊張を徳永さんが解いてくれた。
僕のことをじった見た徳永さんは、ニッコリと話しかけてくれたのだ。

「ふーん、いろいろ面白い話を聞けそうだよね。今度、一度詳しく取材させてもらおうかな」
「ちょっと、ちぃ。個人的な興味で取材したりしちゃダメだよ。学園新聞はゴシップ紙じゃないでしょ」

茉麻さん、いい人だなあ。
さっきの熊井ちゃんとのやりとりでもそうだったが、結果的に僕をかばってくれたのだ。
なんていうかお姉さんって感じの人(おかみさんって感じ、とも思ったけど、いくらなんでもそれは失礼でしょ)。
そんな彼女に僕の(熊井とのやりとりとかで)疲弊した心を癒して欲しいという気持ちになる。ちょっと甘えてみたいな、なんてことも思ったり。
茉麻さん、いいなあ・・・ 彼女を見ていると心が落ち着くよ。

それに何といっても熊井ちゃんの扱い方の上手さ、それだけでも敬服してしまう。
会ったばかりのこの生徒会長さん、僕にとってさっそく一目置く存在になったのだ。

「今日の放課後、久しぶりにカラオケにでも行かない? 佐紀ちゃんも誘ってさ」
「やったー! でも、生徒会長が学校帰りにそんなところへお誘いなんかしていいの?茉麻」
「やることきっちりやって遊ぶときは遊ぶ。それでいいでしょ、明日は休みだしさ」
「さすがまーさだ! よーし、歌うぞー。ひろーいーーーん」
「ももはどうする?」「誘う?どうする?」
「桃はいいんじゃね?来られるとウザいし」


徳永さんがそう言ったまさにその時、彼女のケイタイが短い着メロを奏でる。

「あ、メール」

徳永さんはケイタイを開くと、その画面を凝視して固まってしまった。

「・・・・桃からだ」


「メール、なんて書いてあったの? 千奈美?」

茉麻さんの問いかけに、徳永さんが抑揚の無い声でメールを読み上げる。


(やっほー、千奈美ー。今日の放課後、もぉと遊びに行かない?)


「「「「「もも、怖えー・・・」」」」」


熊井ちゃんが僕に向き直って命令を下す。

「聞いたでしょ。そういうことだから、放課後この近場でカラオケ出来るところ押さえておいて。人数は7人で、時間は(ry」


「さて、そろそろ行かないと。この話しは後でね。さぁ、ちゃんと切り替えて授業も集中するんだよ。わかった梨沙子?」
「わかってるもん。いちいちうるさいなぁママは」
「梨沙子ちゃん、高等部の勉強、大変だと思うけど頑張ってね」
「はいっ!夏焼先輩。りぃ頑張ります!!」

茉麻さんが皆さんを促して校内に向かう。
楽しみだねー、なんてわいわい言いながら彼女達は学園の正門をくぐって行った。


ちょっと熊井ちゃん・・・

僕を今から舞ちゃんに会わせてくれるって言ってたことなど、もうとっくに忘れ去ってしまったんだね。
結局、僕は何をしにここへ来たのだろう・・・

正門前に一人取り残された僕。
今からでは、もう遅刻確定なのだ。今更あせっても仕方が無い。優先順位を考えて行動しよう。
そう思って、まず熊井ちゃんに言われた条件に合うカラオケボックスを探すべく検索をかけるのだった。



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