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お昼休みの屋上。
給水塔に登り、舞とごはんを食べる。
私が生徒会の正規役員ではなかった頃は、ごく当たり前のことだったのに、こうしてここで肩を並べるのは、随分久しぶりだと気がついた。

舞はいつになく、上機嫌な様子で、私の鞄に手を入れ、重箱型のお弁当箱を先に開けてしまう。

「あ、インゲンと豚肉のカラシ醤油あえ。
舞のお弁当にはいれてくれなかったくせに、あの執カス」
「しつかす?」
「ううん、こっちのこと。それ、ちょーだい。舞の唐揚げあげるから」

私の返事も待たずに、舞はインゲンの和え物を取っていってしまう。
もう、私も食べたいのに・・・と思いつつ、こうして思うがままに振舞う舞を見ているのは、安心する。

頭のいい舞は、いつも何か考え事をして、神経を研ぎ澄ましているように見える。
だから、こういう等身大の中学3年生らしい振る舞いは・・・とても可愛らしく感じるのだと思う。舞に言ったら、きっと怒られてしまうけれど。


「そーいえば、千聖。手紙は?」
「ええ。今日のはね・・・」


いつからか舞は、私が学園の生徒からいただくお手紙の内容を、とても気にするようになっていた。
最初は全部読ませてほしいと言われていたのだけれど、それは良くないことだと思ったので、プライバシーに触れないような内容だけ、私がお話している。
今日のは・・・そうだ。少し面白いことがあった。


「ウフフ、千聖の妹になりたい、と言ってくださる下級生が何人かいたわ。奇特な考えね」
「妹?・・・ああ、小川さんの影響だろうね、それ」


そうなのかしら?私は曖昧に首を捻って、鮭のおにぎりを少し齧った。
舞の言う、“小川さん”というのは姉妹校の生徒で、2個年下の明るい子。
彼女が学園に来たときに、ちょっとしたご縁があって、仲良くさせてもらっている。

「あの子、学園来るたびに、“ちさとおねーちゃーん!”って飛びついてるじゃん。そーゆーの見たら、自分もちしゃとの妹になりたいって思う子も増えるんじゃない?別に、不思議なことじゃないよ」
「そうかしら・・・」

確かに、舞が言うように、紗季は私を「お姉ちゃん」と呼んで、元気に飛びついてきてくれる。
だけど、ボーッとして頼りない私を姉にしたい下級生が、他にも・・・?お父様が聞いたら、大笑いされてしまいそうだ。


「ちしゃとはさ、もっと自分の事を理解した方がいいよ。人気者なんだからね」
「そんなことはないと思うけれど・・・。皆さん、物珍しく感じているだけだわ」

私がそう答えると、舞はなぜか嬉しそうに笑った。

「ふふん。・・・ま、いいけど。
てか、多分小川さんの事抜きにしても、今流行ってるんじゃないかな。学園で。姉妹になりましょう、みたいなごっこ遊びが」
「・・・舞も、そういうお申し出を受けたのかしら?」

私の勘は、珍しく当たったらしい。
舞は一瞬、びっくりしたように肩を揺らして「・・・明日、大雪でも降るんじゃない」とつぶやいた。

「最近多いんだよね。妹にしてください、姉にしてください。何でよりによって、舞に」
「あらあら、ウフフ」

妹ならともかく、この天邪鬼な天才さんの姉になりたいだなんて。
ああ、そういえば、舞には実のお姉様がいたのだった。一体、おうちに帰ったときは、どんな妹になっているんだろう。


「・・・ちしゃと、また余計なこと考えてたでしょ」

心を見透かしたように、ジロリと睨まれて、私は首をすくめた。

「クフフ。・・・それで、舞は、どのようなお返事をなさったのかしら?それとも、保留に?」
「決まってるでしょ。舞はおままごとには付き合ってらんないの。直接言われたら、その場でごめんなさい。
手紙なら、すぐ返事書いてごめんなさい。早いほうがいいでしょ、こういうのは」

一見、そっけなく突き放すような言い方だけれど、私にはわかる。
これは舞の優しさなのだと。
望みがないのなら、思わせぶりな態度で、答えを引き伸ばさないほうがいい。そういう考えなのだろう。


「舞はつんでれなのね」
「・・・それ、微妙に使い方違うから。ごちそーさまでした」

舞はお弁当箱をナプキンにくるむと、今度は大好きなキャラクターがプリントされたブランケットを広げた。

「舞?」
「ちょっと、お昼寝したい」

御丁寧にネックピローまで取り出して、本格的に睡眠を取りたいみたいだ。

最近の舞は「総務」や「運営」に関する本を、熱心に読んでいると栞菜が言っていた。
萩原も生徒会に入って、いろいろ考えているんだかんな、と。
頭のいい舞のことだから、考える事がたくさんあるのだろう。その分、疲れてしまっているのかもしれない。

私はちゃんと、舞の疲労や苛立ちを、解消できているのだろうか。こうしてそばにいてさしあげることしか、思いつかないのだけれど・・・。


「・・・ごめんね、ちさと、暇になっちゃうね・・・」
「あら、いいのよ。ウフフ」
「んー・・・」

横になった舞は、すぐにスースーと寝息を立て始めた。

あどけない寝顔。丸いほっぺたに、上品な小さい唇。何となく、遠く離れて暮らしている、末の妹を思い出した。
そんな私の心を読み取ったかのように、舞の手が、私の太ももの辺りに添えられた。

「まあ・・・ウフフ」

舞は結構、人に触れるのが好き。愛理の腕に手を絡めたり、舞美さんの膝枕で甘えたり。
きっと無意識の中でも、過度に触れられるのは苦手な私を気づかって、「ここまで」と決めているのだろう。
時々意地悪だったり、私をからかうこともあるけれど、舞はとても優しい心の持ち主だと、こういう時に改めて思う。


――それにしても。

「お姉様、ね・・・」

さっきの手紙の事を思い返す。
舞はお断りしたというけれど、私には紗季がいる。
紗季は明るくて無邪気で可愛い。「お姉ちゃん」といわれるのも嬉しい。
だけど、全く面識のない中等部の生徒を、突然“妹”にするというのは、何かが違う気がする。
でも、それをどう言ったらいいのか、よくわからない。

以前にも、こんなことがあった。
舞が“お取り巻き”と呼んでいた、私を過度に気づかってくださっていた、上級生。
そんなことはしなくていいのに、とちゃんと伝えられなかった。
今とは状況が少し違うかもしれないけれど、私が伝えるべきことを飲み込んでいれば、また同じことになるのは間違いない。


ああ、そういえば・・・兄弟や姉妹といえば・・・


“弟ができたみたい。年下の、男の子の友達・・・”

随分昔の思い出。“彼女”の可愛らしい声が、急に耳元に甦って、心臓がキュッと痛む。

「・・・嫌だわ、私ったら」


一人座り込んでいると、昔の関係ないことまで思い出してしまう。


「難しいわね、舞」
「んー・・・?」


舞の髪を梳かしながら、私は考えた。
放課後、生徒会の集まりのとき、皆さんの意見を聞いてみようかしら、と。



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