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その日の放課後。
私はお嬢様と2人で、図書室へ資料を返却しに来ていた。

「御返却ありがとうございます」
「いえいえ。・・・じゃ、帰ろうか。今日林道通るし、送ってくよ。たしか、誰か一緒なら徒歩下校でもいいんでしょ?」
「まあ、一緒に帰ってくださるの?嬉しいわ」
「千聖様。」

そんな話をしていると、ふいに後ろから呼び止められた。

「あ・・・」

初等部の制服。
大人びた顔立ちの女の子が、丁寧に一礼をして、私とお嬢様を交互に見た。

「ごきげんよう、宮本さん」
「ごきげんよう、千聖様」

どうやら、知った仲らしい。
賢そうな子だ。背筋をピンと伸ばして、お嬢様に倣うように、口元を微笑の形に固めている。
だけど千聖お嬢様のようなお金持ちのお嬢様、という感じではなくて、ごく普通の女の子が、生真面目に話す相手に合わせて背伸びをしているという感じ。
それが余計に、彼女の優等生らしさを際立たせているみたいだ。
細い腕に今年の中等部・高等部の推薦図書をがっちり抱いていて、読書家のようでもある。


「ずいぶんたくさん借りるのね、宮本さん」

お嬢様は深い茶色の瞳で、じっと宮本さんを見つめている。

「いえ、それほどでも。・・・あ、御挨拶が遅れました、須藤生徒会長。私、宮本佳林といいます。初等部の6年生で、クラスは・・・」
「ああ、そんな気にしないで。よろしくね、宮本さん」


――すごいな。ここまできっちりやれる小学生って、そうはいないだろう。
私の方が圧倒されてしまって、きちんと挨拶できてない気がしなくもない。


「宮本さん、初等部の生徒会に入ってたりする?」

何の気なしにそう聞いてみると、ビクッと肩が跳ねて、宮本さんの顔色が変わる。


「あ、ごめん!別に深い意味があるわけじゃないんだけど」

それまでの、落ち着き払った宮本さんの態度からすると意外な反応で、何かまずいことを言ったのかと、私は一人でうろたえてしまった。
一方、宮本さんはすぐに動揺を笑顔で封じ込めて、またハキハキとした声で喋り出した。


「いえ、こちらこそすみません。
生徒会には入っていません。私には、あまり向いていないようなので」
「そんなことないと思うけど・・・」
「あの、それより、千聖様」

宮本さんは半ば私の話をぶった切る感じで、今度は千聖お嬢様にまっすぐ向き直った。


「今朝の話の続きなんですけれど」
「あ・・・私先行ってようか?」

内緒の話ならと、席を外そうとしたのだけれど、「いえ、須藤先輩もここにいてください」と引き止められた。


「こういうことは、証人になってくださる方がいたほうがいいと思いますし」
「証人?」


「・・・千聖様、私の姉になってくれませんか?」


よく通る声で、宮本さんは唐突に言った。
私たちの半径2mぐらいの空気が、ピタッと止まったのがわかる。


「どうでしょう、千聖様」

だけど、宮本さんはそういう空気も気にせずに、さらにずいっとお嬢様に顔を近づける。


いや・・何だか意外だ。
姉妹ごっこブームのことは知っているし、お嬢様が人気者なのもわかっている。だけど、宮本さんのような子なら、例えば愛理タイプのほうがしっくり来る気がするんだけど。一緒に本を読んだり、勉強したり。
結構活発な面もある、不思議ちゃんなお嬢様だとちょっと違う気が・・・なんて、余計な事を考えてしまう。


「・・・いかがでしょう、千聖様」

ハキハキした宮本さんの声で、妄想の世界から心が戻ってくる。
お嬢様の顔をチラ見すると、目をパチクリさせたまま、固まってしまっている。・・・さては、面と向かって妹志願されたのは初めてだな。


「千聖様はまだ、学内には妹をおつくりになっていないと聞いています。でしたら、私を」


しかも、なぜだかわからないけれど、宮本さんは返事を早急にもらいたがっているようで、ぽわんぽわんなお嬢様の頭はショートしかかっているように見受けられる。

「えと・・・その、ふがふが」
「私、きっとお役に立てると思います。どうかお願いします、千聖様。この場でお返事を」
「で、でも、そんな、千聖は・・・」


その焦り気味のオーラが余計にお嬢様を慌てさせ、遠巻きに見ている周囲の空気と相俟って、収集のつかない雰囲気になっている。
この場に舞ちゃんがいたら修羅場だろうな。熊井ちゃんじゃ放送事故。栞菜なら放送禁止。


「・・・まあまあ、そんな急には、ねえ?」

とりあえず、マトモ組として助け舟を出してみることにした。


「今、その姉妹になりましょうっての、流行ってるんでしょう?でも、私とかお嬢様は結構慎重派だから・・・」
「私、別に流行だから言っているわけじゃありません」


すると、意外なほど鋭い声で反論が返って来た。


「私は本当に、千聖様と・・・」
「宮本さん」

その声をさらに遮るように、しばらく黙っていたお嬢様が口を開いた。
乾いた声。緊張感がこちらにまで伝わってくる。

「・・・千聖のことを、姉と思ってくれても、構わないわ」
「本当ですか!」
「ええ」
「ええ。って、ええっ!?」


何だこの展開。
お約束どおり、両手を挙げてズッこける私をよそに、あれよあれよと言う間に、2人は姉妹の契りを交わしてしまった。


「ちょちょちょ、お嬢様」
「嬉しい、千聖お姉様。ああ、そうだ。私のことは、かりんって呼んでくださいね」
「ええ、わかったわ、かりん。
では、私と茉麻さんはまだ、生徒会のお仕事があるから、今日はこのへんで、ね」

会釈とともに、弾けるような笑顔で去っていく宮本さん。
対照的に、周囲の生徒も私も、事態を飲み込めずにざわめいている。・・・焼け石に水かもしんないけど、新聞部がネタにしないよう、ちなみやびにクギさしとかないと・・・。


「・・・お嬢様、本当にいいの?」
「ええ」
「でも、」

言いかけて、私はぐっと言葉を詰まらせた。
たった今、妹を得たとは思えないほど、お嬢様の表情は強張っていたから。

「今日、一緒に下校していただけるって、先ほど・・・」
「あ、うん。もちろん」
「良かったわ。聞いていただきたいことがあるの、茉麻さん」



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