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「お姉ちゃん、姉妹ごっこって知ってる?」

夕食後、食堂でくつろいでいる時に、いきなり舞から発せられた言葉。

「姉妹?」
「あー、今高等部で流行ってるんでしょ?さっき栞菜に聞いた。
“あたしは来るもの拒まずだかんな!去るものは追う!”だってさ。まったく、あの子は」

反応が遅い私のかわりに、えりがニヤニヤと笑いながら答える。


「へー、それってどういうことするの?」
「仲良くなりたい上級生や下級生に、“私と姉妹になってください!”って申し込むんだよ。
無事思いが届いたら、他の生徒たちよりも親密な、特別な先輩後輩になれるってわけ」
「あとは個々の関係で変わるんだろうけど、休日一緒に遊んだり、まー、デート的なこともあるんじゃない?」
「そうなんだ、すごいね!」

違う学年の生徒さんたちとも仲良くなれて、いい制度じゃないか!
と、思ったんだけれど、なぜかえりは呆れたようにため息をついた。

「・・・そうなんだ、って。
舞美、あーた高等部のときにあれだけ姉妹の申出があったのに、忘れちゃったの?」

そう言われてみると、そんなことがあったような気もするんだけれど・・・あはは、3日より前の出来事なんて、すぐに忘れちゃうよ、うんうん。

「今ね、その姉妹ごっこっていうのが、また流行ってるの」

何が楽しいんだか、と眉をしかめる舞。

「キュフフ、舞ちゃんったら。
お嬢様がいる時は、私は気にしてないでしゅみたいな顔してたくせに、本当はお嬢様がモテモテなのむかつくんでしょー」
「ちょっと、余計なこと言わないでくれる」

へー、お嬢様、人気があるんだ。
でもわかる気がする。子犬みたいな愛くるしさと、ぽわーっとしたあの空気には引き込まれるものがある。
嫉妬してる舞も可愛いな。でも、舞だって・・・


「舞だって、マゾヒストの皆さんから支持を受けそうじゃない?」
「・・・みぃたん、正式名称で言うとなんだか重いケロ」

あれ、使い方違ったかな。えりの顔も半笑いだ。


「ふん。舞はそういうガキっぽいことには興味ないの」
「でもさ、例えば舞がお嬢様の妹になるのは?それなら・・・」
「は?絶対やだ。そういう変な枠でくくられたくないんだけど。おねーちゃん、何にもわかってない」

お、怒られた・・・。
なんだよー、私のことは“お姉ちゃん”なんて呼んでくれるのに、お嬢様はだめなの?あんなに仲がいいのに。
舞ったら、反抗期なのか(いつもだけどね。とかいってw)最近言葉がキツいんだから。


「お姉ちゃん、いい?舞とちしゃとはね・・・」


「ちょっと、千聖!!」

いきなりの大声が、私たちの会話を中断させた。


「え、今の・・・」


続いて、ドスドスと床を踏み鳴らす音。
どんどん近づいてきたと思ったら、おもむろに食堂のドアが全開になった。


「・・・あら、皆さんいらしていたのね」

唇をギュッと噛み締め、拳を握り締めているのは制服姿の千聖お嬢様。
部屋着ではない、ということは、まだ帰ってきたばかりなのだろう。
確かに今日は、茉麻と話をしてから帰ると電話で伺っていたけれど・・・もう20時近い。
ずいぶん話し込んでいたんだろうな。こんな時間になるなんて。


「千聖ったら!」

そんなことをボーッと考えていると、続いてめぐぅが姿を現した。


「来ないでちょうだい!」

でも、お嬢様はピシャリとそう言い放って、めぐぅを凍りつかせた。


「・・・めぐならわかってくれるって、信じていたのに」
「だから、それは」
「もういいわ。仕事にお戻りなさい。命令よ」

お嬢様は深くため息をつき、漸く私たちの方を見た。

「お嬢様・・・」
「・・・ごめんなさい、お騒がせして。お水でもいただこうかと思ったのだけれど、皆さんがお使いになっているならいいわ。」
「あの、良かったらご一緒に」
「いいえ、少し休むわ。千聖のことは気になさらないで」

いつもどおり、穏やかな口調ではあるものの、こっちからの質問を一切許さないような、緊張感を感じる。
鈍感に定評のある私でもわかる。お嬢様は、今何か思いつめている。

いつもふんわりと笑っていて、寮生の心を癒してくれるお嬢様。こんな姿を見るのは、痛々しい。
そうだ、“あの時”もそうだった。こういう厳しい表情で、誰も寄せ付けないようなオーラで・・・


「それでは、失礼します」
「待ってよ、ちしゃと・・・」


踵を返したお嬢様を、舞が追おうとする。


「舞ちゃん」

それを引き止めたのは、愛理だった。


「あのさ、愛理」
「適材適所。ね?」


にっこり笑いながら愛理がそういうと、舞はおおげさに肩をすくめて、乱暴に椅子に座りなおした。

「じゃ、私行ってくるから」
「え?あ、うん!いってらっしゃい!」

テンパり気味に愛理を送り出した後、えりと顔を見合わせて首をかしげた。


「・・・今の会話、意味わかった?」
「わかんない。年長者コンビ、だめだめだねー、とかいってw」
「とかいってwじゃないですよ、全く」


愛理のかわり、というわけじゃないだろうけど、メイド服のめぐぅが食堂に入ってきた。


「ギュフーッ!」

お尻でなっきぃをぼいーんと押しのけると、手前にあった椅子に脚を組んで深々腰掛ける。
こめかみを押さえためぐぅは、乱暴にテーブルの足を1回蹴った。

「ふふん」

舞はニヤニヤと笑っている。私たちは慌てているのに、舞の笑いのツボって時々よくわからない。
それにしても・・・勤務中は真面目なめぐぅが、こういう状態になるのはとても珍しい事だった。よほどのことがあったに違いない。


「・・・ったく、千聖の奴」
「・・・めぐぅ、お嬢様、どうしたの?」
「帰りが遅いと思ったら・・・気持ちはわかるよ?だけどね、不確定事項をそーやってぺらぺらと他の人に」

私たちなんて目に入ってないかのように、めぐぅはぶつぶつとつぶやいている。


「これ、いい?もらうよ」


かと思うと、置いてあったなっきぃのみかんジュースに手を伸ばして、ガーッと飲み干してしまったり、どうもいつものめぐぅとは違う感じがした。


「ギュフーッ!ひどいケロ!ひどいケロ!」
「え?・・・あ、ごめん。ちょっと変だわ、私」
「ケロ・・・めぐぅ、本当にどうしたの?」

なっきぃの半泣きの抗議で我に返ったのか、めぐぅは少し照れくさそうに笑った。
「あのさ・・・。何があったか、ウチらには、話せない?」


状況を整理しようと、優しい声で問いかけるえりに賛同して、私もうなずいた。
みんな、お嬢様とめぐぅの強い信頼関係を知っている。2人は言い争ったり、小さなケンカをすることもあるけれど、いつだってこんなに深刻な状態にはならなかった。

「ふふん。メイドなのに、仕えてる家のお嬢さんにそんな態度でいいわけ?
舞がちしゃとの扱い、教えてあげてもいいけど」


舞だって、茶化すようなことを言っているけれど、真剣な眼差しでめぐぅを見つめている。

「・・・いや、私が勝手に言うわけにはいかない」

しばらく考え込んでいためぐぅは、そう言って頭を掻いた。

「だって・・・簡単に言っていいことじゃない。それは千聖だってわかっていたはず・・・でも、千聖が苦しいのは・・・」


大きな目を見開いた、めぐの声にどんどん熱が篭る。
止めなければ。わかっているのだけれど、頭が真っ白になって、体も動いてくれない。



「めぐ、わかった。何にも聞かないから、今日はウチの部屋で一緒に寝よ?」


そんなこの空気を切ったのは、えりの声だった。



「新作のお菓子もあるからさ。ね?ウチもお嬢様みたく、たまには添い寝してくれる人がほしいな」

冗談交じりに、でもはっきりした声で、えりは言った。


「あ・・・じゃあ、あの!私も一緒に寝ていい?3人で!わー、何か、久しぶりだね、こういうの!」
「・・・お姉ちゃん」

――私の一言は、ちょっと違ったらしい。
舞に瞬時に目線で窘められ、私はしょんぼり腰を下ろした。


「ふふ・・・もう、舞美は。」

でもめぐぅは少し笑ってくれて、「あとで、えりの部屋行くね」と仕事場に戻っていった。

「じゃあ、うちらもそろそろ」
「うん」

そのままの流れで、何となくお開きになり、みんな自室に戻る仕度を始めた。

「舞ちゃん、お嬢様のとこ行かないの?」

なっきぃと舞が話をしている。
今日は失言率が多い気がするので、黙ってみていると、舞はなっきぃの問いかけに首を横に振って答えた。

「まだ、聞かないほうがいいんだと思う。特に舞は」
「どういうこと?」

それには答えず、なぜか舞は私をじっと見た。


「・・・お姉ちゃんが行って。」
「んん?」
「ずっと考えてた。愛理が適材適所って言った意味とか、鬼軍曹がみんなに言わない理由。
多分、舞の予想は当たってるから。だから、お姉ちゃんが行って」

相変わらず全然、舞の言葉の意味はわからないけれど、舞がそういうのなら、そうなんだろう。
もともと断るつもりなんてないし、私はうなずくと、3階のお嬢様の部屋を目指した。



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