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一日の授業も終わり、ホームルームの時間。
席の近い奴らで雑談をしていた。

「噂の新入生の子を見てきたけどさ、マジ可愛かったぞ」
「本当に可愛かったな。話しに聞いたところだと、あの子性格もいいらしいじゃないか」
「お前も一緒に見に来ればよかったのに。かわいい子とか好きじゃんお前」

何言ってるんだか。こんな硬派な僕に向かって。

あまり興味ないそんな話しを聞き流しながら、僕は窓の外をぼんやりと見ていた。
ふと、校門の方に何となく目をやると、そこに一人の人物が立っているのに気付いた。


そこにいたのは、見るからに不良っぽい怪しい風貌の人物だった。

不良の御来校か。
だとしたら、最近では珍しいな。
我が校に語り継がれている昔話では、昔はそうやって殴り込みに来る不良連中とよくやりあっていたそうだ。
時代は変わって、今現在そんな光景は全く見たことが無い。
だから、今となっては非常に珍しいこの光景に、思わず見入ってしまった。


・・・なんて、呑気に考えていられる時間は短かった。

そこにいる人物をよくよく見て、僕は固まってしまうことになる。
黒いパーカーのフードをすっぽりとかぶっていて不気味な雰囲気を醸し出しているが、そのスカート姿でこの人物が女の子だということが分かった。
この凶悪ラッパー・・・まさか・・・まさか!!


その凶悪そうなラッパーは校門を通り過ぎて校内に侵入すると、何故か校庭のど真ん中までゆっくりと歩いていった。
そして、そこで仁王立ちになり、こちらの校舎を堂々と眺め回している。

パーカーのフードを頭からすっぽりとかぶっているから顔がよく見えないが、この人物僕には見覚えがあるよ。
その青いチェックのスカートのその制服。
そして、何といっても、その長身。


熊井ちゃん・・・・・


何してるんだよ!
うちの学校になんか何しに来たんだ。しかも、その格好かよ。
どこかのDQN生徒が殴り込んで来たと思ったら、まさかそのDQN生徒が僕のよく知っている人とは。
これは一体どういう展開なんだ。


案の定、先生が数人血相を変えて飛び出してくる。そこには、さすまたを持っている先生も。
そりゃそうだ。学校に不審者が入ってくるなんて、今どきそんな行為に対しては大騒ぎになるに決まっているのだから。


この教室でも、次第に外の様子に気付きはじめた。

「なんだ、あれ。ひょっとして殴り込みか?」
「今時こんなの珍しいぞ。こりゃ楽しいことになりそうだな、おい」

当校の生徒は、こういうのを見ると祭りの予感に血が騒ぐらしい。
興奮気味に話している奴もいたりする。
そいつらが無責任に盛り上がっているのを聞いて、僕はますます気が滅入っていく。

「一人で乗り込んで来たのか。すごい度胸のあるやつだな」

何も知らずにそんなことを言っているのは、僕と小学校が一緒だった友達だ。
うん、いま見ているあの人は、実は君も知っている人なんだよ。
乗り込んできたその人物の正体を教えてあげたら、どういうリアクションになるのだろう。


駆け寄ってくる先生たちを見ても、凶悪ラッパーは全く動じるところがなかった。
熊井ちゃんに声をかける先生。それに対して、凶悪ラッパーは不良らしく決して先生には迎合しなかった。

熊井ちゃんなりに不良生徒を演じているのだろう。
そして彼女はそれを楽しんでいるに違いない。
いま彼女の表情は、彼女が考える不良生徒の表情というものになっているのだろう。
熊井ちゃんの演じる不良の表情か、ちょっと見てみたいな、と思った。
だが、パーカーで影になっていて、その美しいお顔を拝見することはできなかった。

頭が混乱の極致にあるときに限って、そんなどうでもいいことを考えてしまう。
精神の平衡を保つため、無意識のうちに現実逃避をしてしまうのだ。

現実を認めたくないあまり思考停止に陥りそうになるが、かろうじて踏みとどまった。
固まっている場合ではないのだ。
現実を直視しよう。この学校に熊井ちゃんが来ているという現実。
早くこの現実を受け入れて、早急に対策を考える必要があるのではないだろうか。
だが、対策を立てるにはあまりにも情報が少なすぎる。

熊井ちゃんがいったい何のためにうちの高校にやって来たのかが分からない。
いや、だいたい彼女の考えなんか凡人である僕の理解の範疇に収まっているはずがない。
他校の校庭をど真ん中で独り占めできるようなメンタリティの持ち主なんだ。

熊井ちゃんの堂々とした立ち姿。
いま彼女は殴り込みのようなことをやってる自分の不良っぽい行動に酔っているんだろう。

でも、うちの学校はバンカラな気風だから、他校の生徒からちょっかい出されるような、こういう行為に対してはとても厳しいのだ。
應援團(以下、応援団)の人達とかが黙ってないんだよ、こういうのには。


予想通り、先生方に続いて、こわもての男子生徒がおっとり刀で駆けつけてきた。
その人達を相手にしても、全くひるんだ様子の無い熊井ちゃん。
さすが熊井ちゃんだ、なんてちょっと誇らしい気分になった。
いやいや、状況はそんな呑気な事を考えている場合ではない。

なるほど、先生方を相手にしなかったのはこういうことか。
この凶悪ラッパーが待っていたのは、この高校の生徒だったのかもしれない。
相手をするのは対等に生徒同士でなければ、というわけだ。
かっこいい仁義だが、いかんせんミスマッチな組み合わせなのだ。話しが全くかみ合ってなさそうなのが一目瞭然。
当校の応援団相手に、ラッパー熊井がくまくまトークを展開して、コミュニケーション不全を起こしている状況が僕にはハッキリと見て取れた。

そうだろうな・・・・
あの熊井ちゃんが何を言ってるのかここからでは分からないが、応援団の人が納得できるような説明を彼女がするわけがない。

埒が明かないと思われたのだろう。
とりあえず、校舎内に誘導されるラッパー熊井。あくまでも威風堂々。

彼女の姿は、そうやってこの高校の校舎内に消えていった。

「すげえな今の。うちの学校の応援団に囲まれても全く動じてなかったぞ」
「どっかの高校の名のある番長かもしれないな」

友達が興奮気味に話している会話が耳を通り過ぎていく。

僕はもう目眩が止まらなかった。
なんだってうちに学校に。
何しにきたんだよ、熊井ちゃん。

どうか、どうか僕には無関係でありますように。



祈りも空しく、ほどなくして教室のドアが乱暴に開かれた。
そこに立っているのは、見るからに怖そうな応援団の上級生だった。
その上級生の大きな声が教室に響きわたった。


「○○って奴は居るか!」


教室にいる全員の視線が僕に集まる。


やっぱり・・・


僕はもう泣き出したい気分だった。



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