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「ねー、ちしゃとは?」

いつもどおりの、食堂でのまったりタイム。
そんな中、さっきから250回ぐらい耳にしている、舞様の不満そうなお声。

「お部屋にはいないの?」
「いない。てか、舞それさっきも答えたよ!おねーちゃん、話聞いてるの?」

自分のことは棚にあげて、そんな八つ当たりをする舞ちゃんを、汗をかきかきなだめる舞美。


「・・・お庭は?あと、入れ違いで寮のロビーとか・・・」
「いなかった。トイレもお風呂もついでに車の中も覗いてきたけど、どこにも」

――ああ、そうですか・・・トイレって・・・もう、梅さん舞ちゃんのことがよくわからないよ・・・。

「オメー、探してこいよ。何のための執事でしゅか」

おやつのチョコケーキを配ってまわっている若い執事さんも、あえなく舞様の八つ当たりのターゲットになっている。


「ふ・・・ふん。僕は巻き寿司の下ごしらえがあって忙しいんです。
お暇そうなははは萩原さんが行かれてはどどどうですか?」

お、反抗した!めっちゃ足ガクガクしてるけど反抗した!


「あ?今なんて?」
「ひぎぃ!で、では村上さんに申し付けてみてはいかがですか?彼女、お嬢様の専属メイドですし」

今日は粘るな、執事さん。
お屋敷の新年会のスピーチでは「今年は男らしく肉食系でいきたいと思います!(キリッ)」「「プギャー(萩有)」」という大変心温まる出来事があったから、てっきり心が折れているものかと思いきや、頑張ってるじゃないの。

「ったく、誰の入れ知恵だか知らないけど、舞の下僕のくせに、立場をわきまえるべきでしゅ」
「で、ですから、僕は」
「でも、お嬢様も執事さんの美味しいお手製ケーキ、早く食べたいんじゃないかなぁ。ケッケッケ」
「ヒャッホー!いってまいります!俺がケーキだ!」

――あ、もう負けた。しかもわけのわからないセリフつき。
まあ、愛しの愛理ちゃんの介入があったらしかたないか。


「愛理さぁ・・・まあ、いいや」
「へ?ほ?ケッケッケ」

お代官様笑いで、パチンとハイタッチをする2人。・・・舞様はともかく・・・愛理ちゃん、恐ろしい子!


「まあ、そんなに気にする事もないんじゃない?
行方知れずといっても、確実にお屋敷か寮の敷地内にはいらっしゃるだろうし」
「そこは別に舞も心配してないけど。ただ・・・」

舞ちゃんはふと、窓の外に目をやって舌打ちした。
その方角で、なんとなく理解できた。
寮の三角屋根の、右端のお部屋。舞ちゃんの天敵?親友?のお住まい。


「・・・舞ちゃん、そりゃあ栞菜はちょっと、っていうかだいぶ変わった子だけどね?仮に、お嬢様と一緒にいたとしても、別に何か変なことをしているとは」
「えりかちゃんがそーやって甘やかすから、有原のやつがちょーしのるんじゃんか。
あいつの添い寝・・・あれだけは今年中にどげんかせんといかん」

ぶつぶつとつぶやきながら、舞様は檻の中の猛獣の如く、うろうろと食堂を行ったり来たり。
栞菜・・・。お姉ちゃん的立場の私から見れば、ちょっと小生意気でマセてるけど、友達思いのいい子だと思う。
ただ、舞ちゃんが危惧するように(っていうか舞ちゃんもですよね!)お嬢様のこととなると大暴走がすぎるところはある。

「大体ね、あいつは肉欲に溺れすぎなんだよ。
ちしゃとの魅力ってのはねえ、たゆんたゆんやぷりんぷりんだけじゃなくってぇ、挑発するとすぐに怒るとことか、難しい話してると赤ちゃんみたいな顔で眠っちゃうとことかさあ」


果たして舞ちゃんの萌えポイントが健全なのかどうかはおいといて、心配しながらも軽口を叩くその様子はなんともほほえましい。

「肉欲ってなに?お肉食べたいってこと?」とゴールデンレトリバー特有の純粋な瞳で聞いてくる舞美をなだめていると、さっきの執事さんが食堂に戻ってきた。


「ちしゃとは?」
「・・・ドゥフフw」

舞ちゃんの殺戮ピエロな視線が突き刺さったというのに、なぜかものすごい顔で微笑んでいる。
なんていうか、お嬢様の下着(お胸のほうね)のサイズの話をするときの栞菜に似ている。・・・それ、超だめじゃん!


「おい、聞いてんのかよ!」
「・・・違うそんなはずはない。僕は何か都合のいい夢を見ているんだ。そうだこれは全部夢なんだ。目が覚めたら12歳の夏休みでラジオ体操に(ry」


ロボットみたいなカクカクした動きで、眼鏡越しに濁った笑みを浮かべたまま、調理場の方へと去っていく執事さん。
あまりのキモ・・・挙動不審な様子に、さすがの舞様もドン引きだ。


「何あれ・・・」
「あー、いたいた!みんなやっぱおやつ食べてたんだー、キュフフ」

続いて入ってきたのは、なっきぃ。

「あれ、なっちゃんいなかったの?」
「ギュフ!それヒドくね?いたの?よりヒドくね?」
「てか、ちしゃとしらない?」


抗議は当然のように無視され、少々不本意そうではあるものの、なっきぃはすぐに笑顔に戻った。


「ふっふっふー」
「何その笑い」
「てかー、今日なんの日だか知ってるー?」

今日?何だっけ?
携帯を開くと、ぴょこんと覗き込んできた愛理がケッケッケと笑った。


「節分だねえ」
「あー、そっか!」


だからさっき、執事さんは巻き寿司がどうのと言っていたんだ。
女子としては、その約10日後ぐらいに控えているチョコの祭典のほうが重要事項だから、うっかり伝統行事のことは頭からすっぽりと抜けてしまっていた。


「で?それとちしゃととどう・・・」
「おーい、入っておいで!」

「ほーい」

その呼びかけに答えて入ってきたのは、私のかわゆい妹、栞菜。


「・・・なんだよ、有原には用は・・・ぷぷ、何そのカッコ!」

赤い虎柄のノースリーブに、ミニスカート。
頭からはツノが一本生えている。


「あは、栞菜、鬼?」
「そうだかんな。悪い子はいねがー!」
「それ、違うし。ふふん、良く似合ってるけどね。有原の人間性が現れてるでしゅ」
「はーん?そんなこと言っていいのかなー?」

舞ちゃんの憎まれ口も何処吹く風、栞菜はなぜか一旦顔を廊下に向けると、「さあ、こちらへ!」と誰かに声を掛けた。


「でも、あの私」
「いいだかんな最高だかんな!さあ!お嬢様!」


そのまま肩を抱かれて登場したのは、千聖お嬢様だった。
探していた愛しの人にあえて、舞ちゃんもさぞかし・・・と思ったけれど、その格好を見た寮生は、全員固まってしまった。

栞菜と同じ、鬼さん・・・なのはいいんだけれど。
青い虎柄のそれは、チューブトップのキャミソールとショートパンツのセパレートタイプで、何と言うか、その・・・おヘソ丸出しの、大変セクシーな衣装だった。
貞淑で恥ずかしがりやさんなお嬢様なのに、そのお胸はとってもとっても豊かで、小さめの生地で押さえつけているから、いつにもまして大変な状態になっている。

「ギュフー!かんちゃんっ、ちゃんと附属の鬼さんパーカーを着ていただくようにいったはずだかんな!」
「はーん?あんなの全然可愛くないかんな。このセクシーできゅーとな格好こそが、お嬢様をチャーミングに彩るんだかんな」

なるほど、執事さんはおそらくこの格好を見て・・・
愛理ちゃん命みたいなことを業務用ホワイトボードに書いてたくせに、男の人ってこれだから!


「・・・」

そっと、舞ちゃんの方を見る。

「おぅふ」

思わず変なため息が出た。

舞ちゃんは大きな瞳をぱちくり見開いて、口を半開きにしている。
いつでも余裕綽々の天才っこの、滅多に見れない姿。
黒愛理ちゃんはそれを見てケッケッケしていらっしゃるけれど、私は一人でアワアワと慌てていた。
舞美とか、上手い言葉が見つからなくて、「すごーい!」とか言ってるし。

「あ、あの・・・」


一方、自分のせいで食堂を凍りつかせてしまったと思ったのか、お嬢様はオロオロしている。
そして、何を思ったのか、両手を大きく上げて、ためらいがちに口を開いた。


「が・・・がおー・・・」



舞ちゃんが目を見開いたまま、床に倒れこんだ。



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