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めぐぅという人間兵器を手に入れたお嬢様、さっきのおどおどした態度はどこへやら、勝気な眼差しで私たちをぐるりと睨みつけた。

「ウフフ、今年の節分は、人間対鬼の豆まき合戦ね」
「それ節分の意味ないじゃん。てか、ちしゃとがこっち来ればいいじゃん。鬼はキャラにあったそこの2人にまかせて」
「あら、舞ったら。そもそも鬼が悪だなんて、一体誰が決めたことなの?
鬼から見れば、豆を投げつける人間こそが悪なのではないかしら」

おお・・・お嬢様が何かようわからんけどかっこいいことを語っている。
これには舞ちゃんも面食らったらしく、一瞬言葉に詰まる。


「そうだかんな。大体、鬼は誰の心の中にもいるんだよ萩原。貴様の、そして私の心にもな!(キリッ)」
「いや、ちしゃとの中にはいないから」
「完全同意ケロ」

どうでもいい舌戦を繰り広げる面々をよそに、さっそく舞美とお嬢様は、ワンちゃん特有のうずうずした表情でストレッチを始めている。
お互いの背中を、ぐいぐい押し合って、とっても楽しそうだ。


「そうだわ、舞美さん。予め逃げていい範囲を決めておきましょう。あとでメイドたちが片付けるとき、手間になってしまうわ」
「じゃあ、外にしませんか?お屋敷に遊びに来る鳥さんたちが喜ぶかも」

これから豆をぶつけ合う2人とは思えない、和やかトーク。
ああ、お嬢様ったら!そういう格好で前屈をすると、胸元に隙が・・・!


「えりは準備運動しなくていいの?」
「だって、誰もウチなんて狙わないでしょ。・・・え、大丈夫だよね?ウチはそういう立ち位置だよね?」


ケッケッケ、ふっふっふ。

意外と張り切ってる愛理とめぐぅが、不気味な笑いを漏らした。
あれ?あれ?そういえばウチって、結局・・・


* * * * *

「はい、というわけで、今から仁義なき抗争を始めたいと思います!」

鬼のめぐぅの掛け声に、拍手で応える一同。


「・・・ちしゃと、大丈夫だからね。何があっても舞が守ってあげるから」
「舞・・・。」

ああ、何て感動的な!
敵の姫(鬼)と恋に落ちた武将。待ち受ける過酷な運命。砲弾(豆)も、2人の堅い誓いを引き裂くことはできない・・・


「・・・何泣いてるんだかんな、えりかちゃん」
「おだまり!あーたも、人の恋路を邪魔するんじゃないの!」

その言葉に、勘のいい我が妹は、ピクリと反応した。


「はーん?まーたそうやってだまされて・・・。いい?おねーちゃん。お嬢様が誰の腕の中で・・・」
「よけーなこと言うなってば!」
「痛いよ!まだ始まってないのにぶつけないでよっ」

まったく、仲がいいんだか悪いんだか。
再び喧嘩を始めた二人を眺めていると、「えりかさん」と声をかけられた。

「どうしました?」
「ウフフ。ちょっと、頭を屈めてくださる?」

茶色い瞳を眇めたお嬢様。

「こう?」
「ええ。そのまま、目を閉じて・・・」


指示通りお嬢様に顔を寄せて、軽く目を伏せる。
すると、頭の上に何かがポンッと置かれる感触がした。

「ん?」
「ウフフ、えりかさん、千聖とおそろいね」


どうやら、お嬢様は私の頭にカチューシャを乗せたようだ。
そのてっぺんには、鬼のツノ。お嬢様は2本で、私は1本と少々趣は違うものの、立派に鬼の仲間となれたみたいだ。
・・・ん?鬼?


「えー、ウチも鬼?」
「ええ、さきほど舞美さんとチームわけを考えて、えりかさんには千聖の味方になっていただくことにしたの」
「そ。今年は、鬼が一方的に豆をぶつけられるんじゃなくて、鬼からもやりかえすっていう趣向だからね」

めぐぅがドヤ顔で説明してくれて、なるほどと妙に納得してしまった。
鬼チームはお嬢様、めぐぅ、栞菜と全員身体能力が異様に高いのに対し、人間チームで特筆すべき運動神経の持ち主は、舞美ぐらいしかいない(愛理は戦力だとは思うけど・・・ブラックメンタル的に)。
となると、握力7・精神力マイナス50の私を鬼側に入れれば、バランスが取れるということか。

非力な私を、心お優しいお嬢様が、守ってくれると信じて・・・私はその小さな体の後ろに隠れるように、鬼さんの陣地に立った。

「さ、始めましょうか。ルールは特にないでーす。鬼は人間に、人間は鬼に豆を投げつけるだけ」
「ケロ・・・じゃあ、どうやって決着がつくの?」
「んー、そうだなあ。“まいった!”って言ったら終わりでいいんじゃない?」

ひじょうにざっくりした、しかしめぐぅだから、と思うと納得のいく男らしい御説明。

「それじゃ、どっちかが全滅するまで・・・はい、スタート!!」


きっぷのいい声とともに、まずは舞ちゃんが動いた。


「鬼はー外!鬼はー外!」
「え・・・ええ!?」



天敵の栞菜か、目の上のたんこぶ軍曹鬼を狙うかと思いきや、舞様はおもむろにお嬢様に豆を投げつけ出した。
“ちしゃとに豆ぶつけるわけないでしょ”そんなことを言っていたのは、梅田の気のせいだったのでしょうか?
好きな人に理不尽な意地悪を堂々とやらかせるというシチュエーション、舞ちゃんのS心に火をつけずにはいられなかったみたいだ。


「きゃんっ!よくもやったわね、舞ったら!」

だけど、おてんばで負けず嫌いなお嬢様だってやられっぱなしじゃない。
最初はバチバチと顔にぶつかる豆に驚いていたけれど、すぐにいつもの(キリッ顔になって、応戦し始める。


「あってめー萩原!あたしのお嬢様いだだだだ」
「あんたの相手はこっちだよ!ったく、いつもいつもお屋敷に変な風俗を持ち込みやがって」
「え、なに?ちょっとどういうこと?」

お嬢様を救出しようと意気込む栞菜に攻撃を仕掛けたのは、どういうわけかめぐぅだった。

「ちさとの部屋の壁に掛けた縄梯子撤去しろって言ってんだろうがー!」
「なんだとー!めぐぅこそ、割ったお皿何枚部屋に隠してるんだよー!そーゆー態度ならメイド長さんにチクッてやるかんな!」
「ちょ、やめなって2人とも!」

止めに入ろうにも、2人の超絶高速豆ぶつけ合いの間になんて入っていけない。蓮○ラみたいになっちゃう!


「ギュフー!!!!!」

そんなヘタレ梅田の後ろで、今度は聞きなれたあの悲鳴が響き渡った。


「や、やめるケアガガガ」
「あははあはあはあははははなっきぃガーッ!」


ああ、去年の悪夢再び・・・。
舞美ちゃんたら、スイッチが入ると一気に舞様クラスの℃Sになっちゃうんだから。ちしゃまいも一旦手を止めてドン引きやで!


もはや、鬼とか人間とか関係なく、みんな欲望の赴くままに、豆を投げ、ぶつけ、流し込んでいる。
節分って、なんだっけ・・・。


「舞、覚悟なさい!千聖の必殺技・トルネードスピンソイビーンズをお受けしてもらうわ!」
「もー・・・体力ありすぎなんだよちしゃとは!わかったよ舞の負けでいいよ!・・・おい、聞いてんの!痛い!」

「はあ・・・元気なことで」
「・・・ケッケッケ」


ふいに、耳元で笑い声がした。


「ぎえええ」

その可愛らしいたれ目と、人間だけど鬼さんライクな八重歯を確認した途端。私はエク○シストのような体勢で飛びのいた。


「逃げないでよぉ~えりかちゃぁ~ん」


愛理のふわふわした声は、いつもならお嬢様と並んで、寮生の心を癒してくれる魔法の音色。
だけどこの状況においては、それは悪魔の響き。それが証拠に、その女の子らしく白く可憐なお手手には、たっぷりと豆が握り締められている。


「あ・・あのー、梅さん、まだ召されたくないなぁ、なーんて」
「・・・ケッケッケ?」


この可愛らしい笑顔が、私の気力を奪う。
おかしい。角がはえてるのは、私の方なはずなのに・・・この圧倒的な威圧感。
ああ、そうか。鬼は誰の心にもいるんだったね、お嬢様!愛理の鬼と、私の鬼・・・。勝負の前から、決着はとうについている。


「えりかちゃぁ~ん」
「は、はひぃ」


もはや、覚悟の座禅で出迎える私の頭に、コツンと1粒だけ豆が落ちてきた。


「あ・・・あれ?」
「ケッケッケ、鬼はー、外!」

ふわんふわんと妙な動きをしながら、愛理はちょこんちょこんと豆を投げてきた。
どうやら、成敗するほどの鬼じゃないと判断してくれたらしい。・・・い、命拾いした!

「よ、よーし、こっちもいくぞー!鬼はー外!」
「わぁー、ケッケッケ。にげろにげろー」

そう、これよこれ!女子校らしい、のんびりしたふいんきの節分。梅さんこういうの望んでた!


「どるるるる」
「キシャー!!!」

もはや人間の言語を超越した音声で戦う、めぐぅと栞菜。


「なっきぃ?もう一袋いくー?あはははは」
「キュフゥ・・・」

癒しの膝枕・・・と思いきや、首をヘッドロックしたまま、大きな手で豆を掬う舞美。なぜか恍惚の笑みを浮かべるなっきぃ。

かわゆいちしゃまいちゃんたちは、はしゃぎ疲れてお嬢様の鬼さんパーカーにくるまれてお昼寝を始めてしまった。

「アハハ、鬼はー外!」
「待て待てーえりかちゃん!ケッケッケ」


誰か、私たちの正統派の節分を見なさいよ!なんて思いつつ、私と愛理はバカップルの海岸イチャイチャダッシュのテンションで、キャッキャウフフと豆を投げ合って楽しんだのだった。


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