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「・・・」

私からの言葉を受け、聖ちゃんは、しばし言葉を切った。

「あ・・・知らない子だった?なら別に」
「宮本佳林。日本の中学生で、当校初等部に在籍。公式ニックネームは「カリン」。現在、6年生。
趣味は読書と人間観察。クラブは演劇部。
成績は上位クラス、スポーツ万能。
4年前、岡井さんが林道のお屋敷に戻ってこられ、中等部に入学されたときから、ずっと憧れを抱いている」

――wiki○ediaですか、あんたは。


「・・・前に、小もぉ軍団だったっていう話を聞いたんだけど」
「ああ、その件ですね。かりんちゃんはたしかに、小もぉの子達と一緒に活動はしていましたが、所属していたことはないですね」
「どういうこと?」


「・・・あんなくだらない奴ら、かりんから見切ったってこと」
「へ?」

いきなり、ちょっとハスキーな声が、私と聖ちゃんの会話を遮った。


「うふふふ、遥ちゃん」

聖ちゃんが手招きし、私の前に現れた子。・・・どこかで見たことある。その独特な声と、乱暴な言葉遣いにも、覚えが・・・


「あ!あなた卒業式の時、聖ちゃんと一緒にいたよね?」


あの日、この子は写真クラブの聖ちゃんと行動を共にしていた。
まだ初等部だった聖ちゃんと一緒に、関係者席で式を見ていたのを覚えている。


「さすが中島先輩。ほら、遥ちゃん」
「・・・ッス」

そうだ。こんな感じで、この子はあの時もぶっきらぼうな挨拶をしてきたんだった。
明るい茶色の髪。見るからに気の強そうな、三白眼気味のタレ目。
例えば「芸能活動をしている」などと言われたら納得してしまいそうなほどに華やかで、人目を引く容姿だとは思う。
だけど、制服の紐リボンはぞんざいに結ばれ、ソックスは片方くしゃっと下がってしまっている。ソックスは踵を踏み潰すスタイル・・・。
小もぉ軍団とは違うけど、これはこれで厄介なタイプであろうことが、一目でわかった。


「うふふふ、彼女も、岡井先輩のことが好きなんですよ」
「えっ!」
「あぁ?よけーなこというなよ、みずきちゃん!」


お嬢様ったら・・・宮本さんだの、この子だの、はぐれ悪魔超人コンビだの、一癖も二癖もあるタイプに好かれるんだから。マトモ系なのは私だけ!(ケロキュフッ)

「遥ちゃんは、人魚姫なのよね。
愛する人に近づいた代わりに、声を失ってしまった。だって、もし喋ってしまったら・・・」
「はっ、あたしが姫とか。ばかじゃねーの、みずきちゃん。くらえっ、おっぱいキック!」
「うふふふふだめでしょう?」


ああ・・・聖ちゃんったら、優しい顔して容赦ない。

「はーなーせー!」
「うふふふ。うふうふうふふふ」


小枝のように細い、その子の足をガシッと掴んで、お尻ぺんぺんをかましている。
何その微笑み・・・ダメだケロ、聖ちゃん!こっちへ戻ってくるケロ!


「あ、あのさそれより、遥ちゃん、だっけ?」
「ああ?・・・ッス」

私が呼びかけると、遥ちゃんはおしりをさすりながら、かるーく会釈を返してきた。


「あのね、“ッス”って。挨拶は人との関わりの中でも最も重要な・・・まあそれはいいとして。
さっきの、くだらない奴らって何?」


私からの問いかけに、さもめんどくさそうに後ろ頭を掻く遥ちゃん。・・・なんか、すごく似ている。いつもお嬢様の隣を死守している、でしゅましゅ口調のあの覇王に。
この子とあのお方が対面することにでもなったら、間違いなく血で血を洗う構想となるだろう。


「・・・何って、くだらないからくだらないって言っただけなんで」
「だから、もうちょっと具体的にね」
「つか、かりんもかりんだよ。何が姉妹だ、あー、それもくだらない。そんなだから・・・あ、うち、こっちなんで。さーせん」
「ちょっとぉ」


ケロ・・・最近の私の無視されキャラはどうしたことか。
遥ちゃんは初等部の校舎へ続く道側へ曲がり、前を歩くお友達に体当たりをくらわせたりしてはしゃいで、もう一切こっちのほうを振り向かなかった。

「うふふふ、遥ちゃんたら」

そんな奔放な彼女を見ても、聖ちゃんは相変わらず涼しい顔で笑っている。
さっきの暴力への反撃といい、かなり親しい間柄なのだろう。おっとりお嬢様に見えて、聖ちゃんの交友関係というのはなかなかあなどれない。


「・・・案外よく喋るんだね、あの子。
優等生とか嫌いで、関わろうとしないタイプなのかと思ってた。
まあ、聖ちゃんと仲いいならそれはないか、キュフフ」
「うふふふ。遥ちゃん、いい子なんですよ。
シャイなだけで、すごく友達思いだし。・・だから、今、中島先輩に伝えたかったんだと思います」

聖ちゃんが足を止めたと同時に、私たちの間を、突風が吹きぬけた。
風に巻き込まれた長い髪の隙間から覗く、聖ちゃんの静かで真っ直ぐな目。

その視線の先にいるのは、お嬢様とかりんちゃん、そして、後ろをじっとついて回る舞ちゃんだった。
かりんちゃんは遥ちゃんみたいに、初等部の校舎へ足を運ばず、わざわざ遠回りになる中・高等部校舎側の道を選んでいる。
それについて、お嬢様も、舞ちゃんさえ何も言わない。
私の理解の及ばないところで、何か大きなことがゆっくり動き出しているかのようで、気持ちが落ち着かない。


「これだけは信じていただきたいんですが」

しっとりと熱を帯びた目つきのまま、聖ちゃんは私へ向き直った。

「かりんちゃんは、お嬢様を利用しようとか、騙して傷つけようとしているわけではないんです。
本当に、純粋に慕っているだけで」


心臓がドクンと鳴った。


私の考えを見透かされているような・・・ううん、そうじゃなくて、つまり、私は初等部の下級生を無意識に“そういう目”で見ていたのだと、聖ちゃんの言葉で思い知らされてしまったから。

学園の生徒と、お嬢様。
どちらが大事と比べられるものじゃないけれど、生徒会の幹部としては、適切な考えではなかった。


「どうか、あたたかく見守ってあげてください。
お話できることがあれば、私からもまた言いますので」
「あ・・・うん」
「そうだ、去年の学園祭のビンゴゲームでお約束した、デートの件で・・・」


聖ちゃんはいつものふんわりした笑顔に戻ると、もう何事もなかったかのように、違う話を始めた。
楽しげなその声に相槌を打ちながらも、私の頭の中は、漠然としたもやもやに包まれたままだった。



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