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「いじめなんて絶対だめだよ!!!!!11」

窓ガラスを破らんばかりの熊井ちゃんの絶叫に、千聖と茉麻ちゃんがそろって仰け反った。


「あ、あのね、熊井ちゃ」
「まーさ!これは見過ごせない問題だよ!生徒会としても、それから悪を討伐するもぉ軍団としても、そんなならず者は許しちゃおけねえぜ。さっそく今日の昼にでも全校集会を」


――あーあ、だから熊井ちゃんに話すのは後にしたほうがいいって言ったのに。


あの、宮本さんっていう下級生。
千聖の妹になりたがっていて(いや、なったのか?むかつくから聞いてないけど)、今朝も林道で待ち伏せていた。
しかも、なぜか初等部の校舎の道を曲がらないで、わざわざうちらの校舎に遠回りするという意味不明の行動をしていた。
千聖はその時は何も言わず、宮本さんを見送ってから、おもむろに私にこう言った。


“舞。私、かりんを助けてあげたいの”


千聖の考えだと、宮本さんは苛められているということらしい。
昨日、舞美ちゃんや愛理に話したのもそのことなんだろう。
すでに茉麻ちゃんにも相談済みらしく、授業の前に生徒会室でその話の続きをする約束で、一緒に来て欲しいといわれて着いていったら、そこには熊井ちゃんもいた。


「舎弟に配らせる、他校用もぉ軍団ポスターを作ってるんだよ」

くまくまスマイルでそんなことを言う熊井ちゃん。

出直せばよかったのに、なぜか千聖はそんな熊井ちゃんにまで、宮本さんの件を話し出した。
で、冒頭の熊井火山大噴火に至ったわけだ。


「・・・まあまあ、熊井ちゃんちょっと落ち着いて」

そのあまりの憤りっぷりにドン引きしながらも、茉麻ちゃんはすぐに気を取り直して熊井ちゃんを諌めた。
そして、すぐに千聖のほうへ向き直る。


「・・・あのさ、お嬢様。
昨日もその話をしてくれたけれど、どうしてお嬢様は、宮本さんがいじめられているって思ったの?」
「それは・・・えと・・・」


その問いかけに、千聖はすぐには答えなかった。
私みたいに口達者で頭が回るタイプじゃないから、本当に慎重に考えているんだろう。
他の子のことで頭がいっぱいな千聖なんて気に食わないけど・・・仕方ないな。
私は千聖の手を握って、口を開いた。


「・・・今朝、後ろから見て思ったんだけど、宮本さん、コート汚れてたね。っていうか、足跡みたいなのが着いてた」

千聖が息を呑んで私を見た。

「あんなに優等生っぽいのに、変な感じ。あとさ、前に舞とちしゃとが一緒にいる時、あの子話しかけてきたけどさ、何でスリッパ履いてたんだろうね。
初等部との連絡通路使えば、そのまま上履きで来れるのに。
それにさ・・・」
「かりんは、図書館で、授業で使う教科書を借りていたわ」


上ずった声で、千聖がようやく口を開いた。


「覚えてるかしら、茉麻さん」
「えっと・・・図書館でバッタリ会ったときかな?ゴメン、ずいぶん読書家だなとは思ってたんだけど、借りてる本までは・・・
ほら、あの時、かりんちゃんお嬢様に姉妹の申し出をしたじゃん?そっちのほうが衝撃的でさ」
「そう。
でも、千聖ははっきり見たのよ。かりんが抱えている本の中に、初等部の教科書が数冊含まれていたのを」

千聖は細く息を吐き出した。


「違う日には、体育があったわけでもないのに、なぜか髪や制服が濡れていた事もあったわ。
それにね、かりんはいくら聞いても、初等部のお友達のお話をしてくれなくて。去年もらっていた、かりんからのお手紙には、お友達のことがたくさん書いてあったのに、最近は全く書いていないの。
これでも、千聖の勘違いなのかしら。
ああ、でもそれなら、どんなに嬉しい事か。私の一人相撲に、皆さんを巻き込んでしまったのは申し訳ないけれど・・・」


生徒会室に、静寂が訪れた。

あの熊井ちゃんですら、口を閉ざして、何かを考え込んでいるみたいだった。
私も知っていることは全部話したし、あとは静観しようと決めた。


沈黙の中、感覚が無駄に研ぎ澄まされて、熊井ちゃんがポスターを書くのに使っていたマジックのシンナーのにおいが、やけにキツく鼻についた。


「・・・お嬢様」

しばらくして、茉麻ちゃんが席を立って、千聖の隣に座った。
そのまま、ゆっくりと千聖の体を抱きしめた。

「あ・・・」

一瞬硬直しかかった千聖の体は、茉麻ちゃんのポンポンと背中を叩く仕草によって、すぐに和らいだ。

「大丈夫。
もし仮に、お嬢様の勘違いだったとしても、誰も怒ったりなんかしないよ。・・・むしろ、勘違いだったって笑いたいよね。みんな、お嬢様と同じ気持ちだよ」

千聖の肩が、小刻みに震えるのがわかった。

・・・ちょっと悔しいけれど、私はこんな言葉はかけてあげられない。
こんな風に、千聖の気持ちの何もかもを受け止めるなんてこと、茉麻ちゃんにしか出来ない。
だから、黙ってその背中を見つめた。
次に千聖が何かを求めたとき、すぐに応じられるように。


「・・・でも、うちちょっと気になったんだけどね」


すると、ずっと何かを考えていた熊井ちゃんが喋り始めた。


「舞ちゃんが、その、宮本さんっていう子のコートに踏んづけられたみたいな跡を見たのは、今朝なんだよね?」
「うん」
「んー。あと、お嬢様が、宮本さんの髪とか体が濡れているのを見たのは、初等部の校舎で?」

千聖は茉麻ちゃんの腕の中で、首を横に振った。

「そっか。じゃあ、こっち側の校舎で見かけたってことだよね」

ふーむ、と唸って、熊井ちゃんはまた思案顔。

「仮にコートを踏んづけちゃったとしても、そんな汚れなんて、すぐ取れるでしょ。
それに、髪や制服が濡れてたっていうのも何か・・・こっちの校舎に何か用事があったのなら、拭いたり拭ったりしてから来るんじゃない?宮本さんって、優等生タイプなら、余計そうすると思うんだけどな」


お、熊井ちゃんにしては鋭いじゃん。
でも考察できたのはそこまでで、また殺し屋みたいに鋭い目で、ぶつぶつと独り言を唱え始めてしまったから、私は言葉を引き継ぐ事にした。


「・・・まあ、仮にだよ?仮に、宮本さんが、誰かに嫌がらせを受けているとしてね」
「うん」
「いじめられた痕跡を見せることで、千聖に気がついて欲しかったんじゃないかなって、舞は思ったんだけど」

――まあ、私だったら、100万倍エグい報復をしてやるパターンだけど、誰もがそうじゃないっていうのはさすがにわかっている。

「でね、そう考えると、宮本さんが純粋に千聖を慕っているのか、ちょっと疑わしい部分もあるよね」
「どうして?」
「ん、それは・・・」

少し言葉に詰まって、千聖を見る。
すると、私の考えを察したかのように、千聖はゆっくりと顔を上げた。

目とほっぺたは真っ赤になっているけれど、もう泣いてはいなかった。
そして、ほんの少し微笑すると、千聖は口を開いた。

「かりんは・・・私に、大きな権力があると期待して、助けを求めているだけなのかもしれない、って、舞は考えているのね。私の近くにいれば、とりあえずの安全は保証されるから」


私は大きくうなずいた。
千聖の深い瞳の前で、ごまかしなんてできるはずがない。


「・・・それで、舞ちゃんは、もしかりんちゃんがそういう動機でお嬢様と姉妹になったとしたら、どうするの?」

依然、子供を守るママみたいに千聖を抱きしめている茉麻ちゃんが、私にストレートな質問をぶつけてくる。

「そんなん、姉妹とやらをやめさせるに決まってるじゃん」
「おいおい」
「って言いたいところだけど・・・舞もそこまで外道じゃないでしゅから。
さっさと問題を早く解決させてからいろいろ考えるかな。ちしゃとを利用した報いとか・・・」


「・・・宮本さんは、そんな子じゃないよ」
「うおっ」


いきなり、頭上から声が降ってきて、私は思いっきり飛びのいた。


「・・・なっちゃん。いるならいるって言ってよ」
「キュフゥ・・・」


いつからそこにいたのか。
私の声にもろくすっぽ反応せず、なっちゃんは背中を丸めたまま、空いてる席に倒れこんだ。


「・・・てか、なっちゃん知ってるの?宮本さんのこと」
「もー、私、サイアク・・・。副会長の癖に・・・愛する学園の生徒をだよ?ほんっと、クソヤローだよ、私って・・・」

優等生らしからぬ、ものすごい自虐的な自問自答を繰り返すなっちゃん。何このコ、いきなり入ってきて。


なかさきちゃんはクソヤローなんかじゃないよ!とか言って、熊井ちゃんが“ウ○コとなかさきちゃんの違い”を解説しているのをニヤニヤ見ていたら、ツンツンと腕を突っつかれた。


「ん?」
「舞、ちょっと、一緒に来てくださるかしら」

千聖が2人分の鞄を持って、ドアのほうへ私を引っ張る。


「・・・ん、わかった」

わざわざ言われなくてもわかる。
行くんだろう、彼女のところへ。
まだホームルームまでは時間がある。今はちょうどいいタイミングだ。

茉麻ちゃんが“行っといで”とジェスチャーで私たちを促す。

「いい?なかさきちゃん。
長いものに巻かれないのがなかさきちゃん、長いモノは巻k」
「いわせねーよ!」


――ま、あっちも強力なカンフル剤のおかげで、すぐに立ち直れそうだし、いっか。

私は少し汗ばんだ、千聖の小さな手を握りしめた。



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