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初等部と中・高等部を繋ぐ中階段。
そこでわいわいと集まっていた初等部の生徒たちは、私たち(っていうか千聖)の顔を見た途端、悲鳴を上げて道を開けた。

「ふふん、相変わらずだね。さすがちしゃとお嬢様って感じ」
「もう、舞ったら」

注がれる、羨望や畏敬の眼差し・・・。ま、予想通りだけど。
四六時中一緒にいるからよくわかんないけど、例えばりーちゃんとかが言うには、“岡井さんは、オーラがハンパない”と。
背は小さいし、例えばえりかちゃんや舞美ちゃんみたいな、飛びぬけた超絶美人ってわけじゃないんだけど・・・なぜか、どこにいても目立っている。
現に今だって、下級生たちは揃いも揃って、千聖を凝視して硬直している。


「ごきげんよう。6年生の教室は何処かしら?」
「は、はひぃ!」


ふん、超ビビッてやんの。
けどこれ、舞のなんだからね。
彼氏気取りで腰に手を回すと、千聖に軽く睨みつけられた。


* * * * *

「・・・それにしても、相変わらず有名人だね、ちしゃとは」

6年生の教室に向かう最中、私はしみじみつぶやいた。

あの後も、廊下ですれ違う下級生が、いちいち頭を下げたり恐れおののいて飛びのいたり。
私が想像していたよりずっと、千聖は有名で、顔の知れた存在だったらしい。
たとえば先生みたいに、学校という場において、絶対的な権力者ってわけではないのに。・・・いや、だからこそ、かえって妙なカリスマ性があるのかも。中等部のころ、千聖が変に祭り上げられていたときみたく、噂だけが一人歩きして。

「えと・・・クラスは・・・」

千聖はキョロキョロと辺りを見回して、尋ねられそうな生徒を探している。
だけど、そこらに居る子はみんな千聖にビビッてしまっていて、目が合うとすぐにそらしてしまう始末だ。

ったく、あんまりちしゃと困らせないで欲しいんだけど。

私は千聖の手を引っ張って、廊下をずんずん進んだ。


「舞?」

さっきから、蛍光色が目について止まらない、ヒソヒソ話をしている集団の前で立ち止まる。


「・・・ねえ、そのカッコ、ももちゃんのファンでしょ?」

瞬時に、場の空気が凍ったのがわかった。

あえて、“小もぉ軍団”という名前は出してやらない。
この子たちのことは、知っている。なっちゃんがたまに、愚痴っているのを聞いたことがある。あまり、マナーの良くない集団だとか。

ま、なっちゃんが歓迎してない存在なら、舞が受け入れてあげる必要はないだろうし。
まずは、一人一人の顔をインプットしていこうか。

ピンク、フリル、でかリボン、ツインテ・・・まあ、たしかによくももちゃんを真似てるなとは思うけど。個性的にしようと思って、かえって没個性になってるって感じ。これ、ももちゃん本人はどう思ってるのかな。


「ねえ、聞きたいことあるんだけど」


おまけにこの子ら、この舞様が(!)話しかけてやってるっていうのに、怯えたようにうつむくだけで、何のリアクションもない。


「何で答えないわけ?さっきまで、こっち見て何か言ってたじゃん」


今の私の状態を一言で表すなら、・・・“おとなげない”これにつきるだろう。
わかってるんだけど、どうもこういうネチョネチョしたタイプは苦手だ。
ももちゃんみたいに、中の人が男らしかったらウケるしいいんだけど。


「ねえってば」
「ウフフ、舞ったら、そんな怖い顔をして」

尚もムキになって問い詰めていると、千聖がやんわりと私の腕を握った。
千聖のほうからこうしてスキンシップをしてくるのはとても珍しく、柄にもなく心臓が高鳴る。
どうすれば私が落ち着くのか、経験的にわかってるんだろう。照れくさいような、なんとも言えない気持ちになって、私は下級生への追及を一旦飲み込んだ。
すると、そのまま千聖は下級生たちに話しかけた。


「ごきげんよう。可愛らしいリボンの髪留めね。ももちゃんも、このお色のを使っていたわ」
「ほんとですか!ありがとうございます!」

――おいコラ、舞のときとリアクション違いすぎだろ。

「桃子様、元気ですか?最近は学園にも全然来てくださらないし」
「ウフフ、今は大学生活がお忙しいから。
千聖からも、ももちゃんに話してみるわね。お暇があったら、遊びに来てって」

すっかりこの、ピンク色の集団を手なづけた千聖。
こういう子たちって、ステイタスや地位・権力を気にする傾向があるから・・・天上界の超絶お嬢様だと思っていた千聖に気さくにされて、すっかり舞い上がっているみたいだ。


「あ・・・そうだわ。あのね、私ね、妹に会いに来たのよ。お知り合いかしら?宮本・・・」


「千聖お姉様!」

突然、鋭い声とともに、ちしゃとと軍団の間に体を割り込ませる初等部の生徒、一人。

肩で揃えたまっすぐな髪と、その声でわかった。宮本さんだ。
今朝、散々後ろから観察してやったから間違いない。


「まあ、かりん。
よかったわ、探していたのよ」

千聖の声にも、宮本さんは振り返らない。
お尻を向けられてるから、表情は見えないけれど、何となく感じる。
多分、今、すっげー怖い顔してるんだろうなって。
それが証拠に、ももちゃんのコスプレの子達の表情が強張っている。

なんだなんだ、知り合いなのかな?
優等生タイプの宮本さんと、この子たちじゃ、まったく住んでる世界が違いそうなのに。


ふと千聖の方を見ると、止めるのかと思いきや、黙って様子を見ているようだった。

こういう時の千聖の顔には、何の感情も表れない。
喜怒哀楽の激しい“お嬢様”の、掴めない瞬間。
大抵の事は何でもわかっちゃうし、特に千聖のことは全部把握しておきたい私としては、ちょっと面白くなかったり。

「・・・お姉様、彼女たちに何か御用でも?」

しばらくすると、宮本さんはくるりと振り向いた。
千聖といる時は、微笑を絶やさなかったはずなのに、今は完全に真顔になっている。
それで、私は宮本さんとこの軍団の関係を、大体理解できた。


「いいえ、そうではないの」

千聖は・・・どうなんだろう。何を考えているのか、あいかわらずよくわからない。
微笑して、いつものように、宮本さんの紐リボンを軽く結びなおしている。


「私はかりんに会いに来たのだけれど、クラスがわからなかったので、皆さんに伺っていたのよ」

ようやく、宮本さんの顔に笑顔が戻った。


「わあ、わざわざ会いに来てくれたんですね、嬉しい。
それなら、ここじゃなくて、違うところに行きましょう」
「そうね。それなら、千聖の好きな場所があるから、そちらで。舞も一緒に来てくれるかしら?」
「ん。あそこでしょ?先行ってて」


仲良く並んでお喋りしながら歩く、千聖を宮本さんを見送って、私は依然固まったままのももちゃんのレプリカたちに目をやった。
その中で、一番大きい子の全身をじっくり眺める。


「・・・背、高いね。足のサイズは?」
「25㎝、です・・・」
「ふーん。じゃあ、布とか踏んづけたら、すぐにバレちゃうよね。足型の大きさで。
あと、参考までに言っとくけど初等部の上履きって、靴の裏の模様、うちらとは違うから」

私がジッと見ていたその子が、ぺたん、と廊下にお尻をついた。
カマかけてやったら、案の定だ。理詰めで逃げ道なくして、意地悪かもしんないけど、フォローなんてしてやらない。間接的とはいえ、俺の嫁を泣かせやがって。


「まあ、どうでもいいけど、ももちゃんが好きなら、ももちゃんに恥じない行動したら?そーゆーの、すっごい嫌がるからね、あの人」
「・・・」


反論も来ないし、大体、私が予想していることは合っているんだろう。
ま、お子様相手だし、こんぐらいにしておこうかな。私だって、暇じゃないし。


「じゃ、そういうことで」


ヒラヒラと手を振って、その場を後にする。
おおいやだ、まるでなっちゃんみたいだ。正義の味方はガラじゃないっていうのに。

ホームルームが始まるまで、あと10分もない。
私は少し駆け足で、先を急いだ。
2人がいるであろう、千聖の大好きな礼拝堂に。



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