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いつもの通学コース。
駅でバスを降りて、ここから高校までは電車で二駅。
その改札口へ向かっていると、そこで見知った人を見かけた。
通勤通学の人波の中でも、ひときわ目立つその二つ縛りの髪型。

この人は何も変わらないんだな。
このフリフリの格好で大学にも行ってるんだ。キャンパスをこの原色の色使いで闊歩していると。
なんというか、さすがです。

その人も僕に気付いてくれた。

「桃子さん、おはようございます」
「おはよ、少年。これから学校?」
「はい、そうです。桃子さんはこれから大学ですか?」
「うん。だけど、その前にちょっと学園にね」

これから学園へ?
何しに学園へ行くんだろう?

「午前中は授業が無いから、学園に遊びに行こうと思って」

学園に遊びに行くって、この人なにか勘違いをしているのではないだろうか。
学園ってのは学校であって、大学生が暇つぶしのために遊びに行くような、そういう場所じゃないと思いますけど。


目の前の桃子さんは僕を見て何かを思いついたように、ニヤッと笑った。
嫌な予感がする。早々に退散しよう。

「そうですか。それじゃ僕はこれで」
「何言ってンの? 少年も一緒に行くんだよ」

学校に向かっているという僕の意向は完全無視ですか、そうですか。
このあいだの熊井ちゃんといい、この人達は僕の通学を邪魔するという行為に対して何の疑問も感じていないんだな。

「僕も一緒に? 何しに僕が学園に行くんですか」
「学園に着けばわかるよ。さあ、レッツゴー!」



再びバスの車内の人となり、今やって来たルートをまた戻って行く。

しばらくは静かな車中だったが、桃子さんが話しを切り出してきた。

「そういえば少年、その後どうなってるの?」
「それですよ。聞いてください桃子さん。この間なんて僕の学校にいきなり乗り込んで来たんですよ。たった一人で!」
「乗り込んで来たって、舞ちゃんが?」
「舞ちゃん? 違いますよ。舞ちゃんがそんなDQN行為をするわけ無いじゃないですか」
「もぉは舞ちゃんのことを聞いたつもりなんだけど? 誰の話をしてるの?」

あ・・・
舞ちゃんのこと聞いたのか。

「あ、いや、熊井ちゃんのことですけど、えっと・・・」
「ふーん・・・?」

桃子さんがじっと僕を見つめる。
な、なんですか、その顔は?

でも、いま僕は何で熊井ちゃんのことを考えたんだろう。
桃子さんの聞いてきたことに対して、一番最初に思い浮かんだ人が熊井ちゃんだなんて。
ひょっとして僕は・・・まさか・・・・


・・・なーんてね。
つい先日、僕が学校で目の当たりにしたのは、もぉ軍団の人が起こしたあれだけ強烈な出来事なのだ。
そりゃあ、軍団長である桃子さんに報告もしたくなるじゃないか。


この間のメチャクチャな出来事を桃子さんに話す。
その話を軍団長は楽しそうに聞いてくれた。
そりゃあ聞いてても楽しいでしょうよ、当事者じゃなくて他人事なんだから。


「くまいちょー、頑張ってるねー。でも、そろそろもぉがいなくて寂しがってるんじゃない?」
「はぁ。どうでしょう」
「あれ?どうしたの? ため息みたいのついちゃって」

桃子さんが僕の顔を覗き込んでくる。
こうやって普通にしててくれると、優しいお姉さんに見えるんだけどな。
そんな年上の人を前にして、つい気持ちの弱いところをさらけだしてしまいそうになる。

軍団長・・・
その熊井ちゃんなんですけど・・・
彼女のことを考えると、神経が高ぶってきてしまう。

「桃子さん!」
「な、なに・・・?」
「熊井ちゃん、ここのところもう完全に僕のことを子分扱いなんですよ・・・」
「あははは。すっかりその立場なんだ少年は」
「子分、舎弟、奴隷、召し使い。あんまりです」
「でも、そんなの今に始まったことじゃないんだし。くまいちょー、いったん決めたことはそう簡単には変えたりはしないよ。あきらめたら?」

「考えてみれば、僕が熊井ちゃんの舎弟というのは、とても体裁が悪いんじゃないだろうか・・・舞ちゃんの彼氏たる者が熊井ちゃんの舎弟では・・・」
「何をブツブツ言ってるの?」
「やっぱり僕が熊井ちゃんの子分では都合が悪いんです」
「えー? いつまでももぉ軍団の舎弟でいいじゃん、少年」
「それじゃダメなんです。僕はもっと強くならないと。舞ちゃんのためにも!」
「そ、そっか・・・うん、そうだ強くなるんだぞ少年。頑張ってもっとやりあってね。くまいちょーと少年のやりとりは面白いからねウフフフ」
「はぁ。だといいんですけどね」


なんか熊井ちゃんのことを考えると気分が乱高下してしまう。
これって、パニック症候群とかいう奴ではないだろうか。
僕はそんなに精神的負担を感じているっていうのか。
そんな僕を、桃子さんは(いつものように)心ゆくまで楽しんでいるように見えた。


「で、話し戻すけど、舞ちゃんとはその後どうなってるの?」
「そう、舞ちゃんの話しをしましょう!」

“舞ちゃん”
そうだ、その固有名詞こそ僕の希望。

「お陰様で、最悪の事態だけは避けられたようです。あの後、一応僕に顔を合わせてくれましたから、舞ちゃん」
「そうなんだ。舞ちゃんは思ってることストレートに態度へ出す子だから、じゃあ本当に嫌われてはいなかったってことかー」
「はい!」
「じゃあさ、気持ちを伝えられた上でそれなら、それって進歩したってことじゃないの? 良かったじゃん」


桃子さんが優しく微笑んでくれる。


「桃子さん・・・」


桃子さんの見せてくれた優しさに、思わず感動しそうになる。

だが、僕もいいかげん学習した。
桃子さんがこのような優しい笑顔をくれる時、そこには必ずもう一つ裏の意味を含んでいるのだ。
そして、今回もどうやらその例に漏れないようだった。

「もぉに感謝してよね」
「え、えぇ、もちろん」
「言ったね。その気持ち、この後しっかり見せてもらうからね」




正門の近く、学園の塀沿いまで来ると、桃子さんは立ち止まった。
こっそりと正門の様子を探るように覗く桃子さん。

「思った通り。今日は風紀チェックやってる」
「風紀チェックある日とか、何で知ってるんですか?」
「もぉぐらいになると、カンでわかるんだよ。やってるかどうかぐらい大体の所は」

「あの、僕を連れて来たのって、ひょっとして・・・」
「さすが少年、話しが早いね。そう、いいんちょさんの気を引き付けておいて欲しいの」
「む、無理ですよ、そんなの。僕はなかさきちゃんから完全にチェックされてるみたいだから」
「そんなの知らないよ。さっき言ったでしょ。もぉへの気持ちを見せてもらうからね」
「そ、そんな・・・」

「ちょっとここで待っててね」

そう言うと、桃子さんは一人で正門に赴き、そこにいた風紀委員の人に声を掛けた。
その風紀委員の生徒さんたちは、桃子さんの姿を見ると一斉に狼狽した様子だった。
さすが桃子さん、有名人だなあ。
なーんて。他人事のように事態を見ていられた。まだこの時は。

そして、その生徒さんがあわてて報告に走った先は、風紀委員長さんのところだったようだ。
報告を受けやってきたなかさきちゃんは、桃子さんの姿を認めると、この遠目からでもわかるくらい顔がひきつっていた。
それに対して、ニッコリと笑う桃子さん。

ふたりは何かやりとりをしている。
あまり楽しそうなやりとりじゃないのがここからでも分かる。


すると、桃子さんがこっちを指差した。そう、この僕のことを。
こう言っている様子がありありとわかるその感じ。

(あそこで校内を覗き込んでる不審な男の人がいるんだけどぉ)

視線をこっちに向けたなかさきちゃん。
すると、なかさきちゃんは即座に行動を起こした。
彼女は鬼の形相になって僕に向かってきたのだ。

ひょっとして、桃子さんが言ったのはその程度のことじゃないのかも。
もっとひどい言いがかりをでっち上げたのかもしれない。
だって、なかさきちゃんがあの桃子さんを放置してまで僕に向かって来るぐらいなんだから。

いったい何を言ってくれたんだ、桃子さんは。


なかさきちゃんがずんずんとこっちに小走りで向かってくる。
風紀委員の人達も委員長さんをフォローするように後に続く。

僕には見えていた。
風紀委員の人達の後ろ側で、桃子さんがしてやったりという笑顔を浮かべながら、僕に軽く手を振っているのを。
誰もいなくなった正門を、桃子さんがくぐっていくのが見えた。
そして、その姿はゆっくりと学園の中に消えていった。


(なかさきちゃん、後ろーっ!!)

そう叫びたかったが、迫ってくるなかさきちゃんの物凄い形相のその迫力に声が出てこない。


「ちょっとッ!! そこで何をやってるんですか!!」


誰何するなかさきちゃんの甲高い声を聞きながら、僕は無い知恵を絞って必死に考えていた。
いったい、この場をどうやって切り抜ければいいのだろう。



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