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大人数が一気に僕の前を去り、みずきちゃんだけが僕の前に残った。
みずきちゃん、見れば見るほど落ち着きのある子だ。中等部の生徒とは思えないほどに。

それにしても、このみずきちゃんとやらは、さっきはどういう理由で僕の味方に付いてくれたのだろう。
さっき、この子は僕に嗣永さんの知り合いかと聞いてきた。
桃子さんのことが何か関係があるんだろうか。

「さっきはありがとう。何だか助けてもらっちゃって」
「フフフ、いいんですよ。嗣永さんのお知り合いの方なんでしょう。嗣永さんのお力になるのは、私の努めですから」

凄いな桃子さん、卒業しても後輩の子からこんなに慕われてるんだ。
しかも、慕っているのが、こんなにしっかりとした感じのいい子だなんて。
あの桃子さんの学園での振舞いを考え合わせると、それはちょっと信じがたry

まあいい。桃子さんのことなんかどうでもいい。
それより今のお嬢様のことだ。


「ところで、あの、今の方は・・・ひょっとして千聖お嬢様の・・・」

言いかけたけど、その質問は飲み込もうとした。
やっぱり部外者が気軽に聞いていいような質問ではないかもしれない。


すると、僕の言いかけた質問のその名前を聞いたみずきちゃんが、静かな微笑みを浮かべたまま僕に向き合ってくれた。


「千聖お嬢様のこと、ご存知なんですか?」
「え? はい。桃子さんがまるで妹のように接してましたから」
「そうですか・・・」

僕の答えにちょっと思案顔になったみずきちゃん。
一呼吸おくと、彼女は語り始めた。

「岡井明日菜(おかい あすな)。5月14日生まれ。中学2年生。血液型A型。
公式ニックネームは「あっすー」。高等部の岡井千聖お嬢様の妹。
実妹にも関わらず顔は似ていない。が、喋り方は姉とそっくりである。
姉妹校の小川紗季と顔が似ていると千聖お嬢様から認定されている」

ウィキ○ディアですか、あなたは・・・


「やっぱり・・・ 千聖お嬢様の妹さん」
「そうです。そして、この学園でお嬢様方を知らない人はいません」
「そうなんだ。中学2年生ってことは、舞ちゃんの一個下か・・・」
「舞ちゃん?」

みずきちゃんが小首を傾げて僕を見た。

「あ、いや。何でもないです。えっと、みずきちゃん、っておっしゃいましたっけ?」
「はい。何か?」
「教えてくれてありがとう。あなたに御迷惑を掛けるようなことはしませんので、ご安心下さい」

僕の言葉に、みずきちゃんは柔らかな微笑みを浮かべてくれた。
本当に品のいい子だな。


この上品な表情はそう簡単に身に着くものではないだろう。
彼女の育ちの良さが目に見えるようだ。この子もそれなりのお嬢様なのかな。


「また、何かありましたら。私にできることであればお力になりますので」

そんなことまで僕に言ってくれるみずきちゃん。
実際、それでさっきも僕を助けてくれた彼女。
この子がそう言って助けてくれたりするのは嬉しいが、僕は今ちょっとした疑問を感じていた。

だって、こんなかわいい子が面識も無い僕を助けてくれたりするなんて。
そんな上手い話しはやっぱりおかしいでしょ。
嗣永さんの知り合いだから助けてくれる、って?
嬉しいけど、そこには何か裏があるんじゃないだろうか。


「あの、僕が桃子さんの知り合いというだけで、何故そこまでしてくれるんですか?」

真顔で僕の質問を聞いていたみずきちゃん。
だが、僕のその問いに対して、彼女は何も答えてくれなかった。
僕の言ったことを聞き終わっても、静かに微笑を浮かべて僕の顔を見つめるだけだ。

「うふふうふふふ・・・・」

彼女は笑うばかりで、僕の質問に否定も肯定もしなかったわけで。
彼女の意図が全く読み取れない。なのに表情だけはその笑顔。
みずきちゃん、怖いよ。

今のその反応は、どういう意味なんだろう。
考えても全く意味が分からない。
僕に関わってきたのは、やっぱり只の親切心というわけではないのだろうか。

そう考えると、大人びて見えるこの子、二面性のありそうな雰囲気をなーんとなく漂わせている。
この子に心理的に優位な立場を完全に取られてるな。彼女の方が年下の、まだ中学生の女の子なのに。

それに何と言っても、引き合いに出されている名前はあの桃子さんなんだ。
それらを考え合わせると、猜疑心が頭をもたげてくる。
そして、漠然とした恐怖感のようなものが襲ってくるのだった。

こんなところまで桃子さんの呪縛は追いかけてくるのか。
あの人はどこまで僕を精神的に圧迫して楽しむつもりなんだ。


でも、いいや。なるようになるだろう。
だからもちろん、彼女のその親切心は有難く受け取っておこうと思った。


それより、なかさきちゃんだ。

さっきのなかさきちゃんの反応。僕に初めて笑みのようなものを向けてくれたのだ。
これをきっかけに、あのなかさきちゃんと仲良くなれる予感でいっぱいじゃないか。
さっきの、ちょっとはにかんだようなあの表情、かわいかったなあ。

同い年の彼女ともっともっとお話しがしたい。
彼女のことをもっと知りたい。そして僕のことも知って欲しい。
そんなことを強く思っていた。


気付くと、またまたみずきちゃんにじっと見られている。
そんな彼女が僕にこう告げた。

「それでは、そろそろ私も行きますので。この辺で失礼しますね」
「あ、はい。いろいろとありがとうございました」


みずきちゃんか。上品な子だったな。
いかにもこの学園の生徒さん、って感じの子だった。


みずきちゃんの後ろ姿を見送っていると、そんな彼女にいきなり、ちっこい子がキックをかましてきたのが見えた。
あの上品なみずきちゃんに足を上げてきたりするなんて・・・ あの子はいったい何者なんだ。
その子の細っちい体格の割りには妙に鋭い攻撃を受け止めたみずきちゃん、上品な笑顔のままその子の腕をひねり上げている。

僕はあっけにとられてそれを見ていたが、彼女達はそのまま正門から入っていってしまったから、その後どうなったのかはわからない。
何だったんだろう、今の・・・


さて、僕も学校に向かうとするか。今日も学校には遅刻だけど・・・

でも、いま僕は自然と笑みがこぼれてくるのであった。
だって、あのなかさきちゃんが僕に微笑んでくれたんですよ!
そんな幸せを感じている僕は、僕をここに連れてきた人のことなど、すっかり忘れていたのだった。



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