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ツインテールを束ねるリボンの大きさが変わるとともに、私の“ももち”っぷりはエスカレートしていった。


「かりんー、この前嗣永さんが持ってたバッグってさー」
「んふふ、あれはねぇ、駅ビルの・・・」

準構成員にもかかわらず、私は誰よりも嗣永先輩を上手にやりきっていた。
嗣永先輩の新情報を仕入れるときは、私から。
嗣永先輩の新しい仕草を取り入れるときも、私から。
いつの間にか、私は小もぉ軍団の中心人物となっていた。

正直、こうなるのは当然だと思った。
だって、私は誰よりも嗣永さんのことをよく観察して、その動きや口調を真似するために、努力をしたから。
時間があれば高等部の校舎を覗きに行ったし、こっそり帰り道をつけていったこともある。
そんなにももち先輩のこと好きだったの?何て言われると、返答に困る部分はあったけど・・・まあ、模倣に対する情熱はみんなよりもあったはずだ。


「もー、かりんったら、5分遅刻ぅ」
「許してにゃん♪」
「・・・しょうがないな、可愛いから許す!」

そして、私が嗣永先輩になりきればなりきるほど、クラスのみんなから慕われるような気がした。
多少のことは笑って許されるっていうか、いろいろとお得なことが増えたように感じる。

今までだって、決して嫌われていたわけじゃないと思う。
だけど、私たちのグループはどっちかっていうと、マジメで目立たない存在だった。
それが、一気に人気者ポジションへとステップアップして、華やかなグループの子たちとも交流が生まれた。

自分の望み以上のものを手に入れた私は、すっかり舞い上がってしまっていた。

それは、私が6年生に進学してからも、変わらなかった。


そんなある日。

「かりん」
「はぁい?」

廊下で名前を呼ばれ、いつもどおりももち口調でニッコリ振り向くと、「キモッ」と思いっきり舌打ちをくらってしまった。

「もぉー、遥ちゃんキッツイなぁ」

そこにいたのは、1学年下の友達の、遥ちゃんだった。


「久しぶりじゃない?元気ー?ウフッ」
「・・・それ、やめてくんない」

遥ちゃんは心底嫌そうに言い捨てた。
それで、私は一旦ももち状態を封印して、久しぶりに“素”の状態に戻った。

「何怒ってるのよ。怖いなあ」
「別に。これがあたしの普通だから。かりんだって、そんなキモイ行動してないで、普通にしてればいいのに」
「だって、楽しいんだもん。ももちごっこ。最近は軍団員も増えてきたしね」

そう。
日が経つにつれ、小もぉ軍団は、勢力をどんどん拡大していった。
クラスの大半が私たちに肩入れし、いまや初等部の3分の1が、小もぉ軍団という情況になっていた。
私は・・・その中でも、特に嗣永先輩を上手にやりきる(準)軍団員として、結構名の知れた存在にまで上り詰めていた。

見知らぬ子に話しかけられたり、ファンですなんて言われちゃったり。
そういう私の現状、遥ちゃんは知らないわけないのに、全然、ほかの子みたいにおだてたりチヤホヤしたりしてくれなかった。

「真似するやつが増えたって、別にかりんが偉くなったわけじゃないじゃん。くっだらない」

一体、何だっていうんだろう。
遥ちゃんはものすごく不機嫌そうで、私はすごく不安な気持ちになった。

いつも口調はキツイし、乱暴ものでやんちゃな子だけれど、遥ちゃんは筋の通らないことは絶対に言わない。
物事の道理のわかっている、とても賢い子だから。
その遥ちゃんが、こうまで私の行動を非難するんだから、これはただ事じゃない気がする。

だけど、私にだってプライドはある。
ここまで自分を殺して、他人を演じて、みんなに慕ってもらえて、・・・もしかしたら、“あの人”にも覚えてもらえたかもしれなくて。
なのに、何も知らない遥ちゃんに、頭ごなしに非難されるのは納得がいかなかった。


「遥ちゃんも、もぉ軍団入る?一緒にやったら、楽しくなるかもよ?今人数いっぱいになっちゃってるけど、私の友達だし、入れてあげてもいいよ」


遥ちゃんの性格上、こういう言い方をすれば、どういう反応が返ってくるかは想像できた。
暴言でも、暴力でもかまわない。ストレートな彼女に思いっきり感情をぶつけられて、私も久しぶりに、黒い感情を出し切りたかった。


「・・・かりんさぁ」

だけど、返ってきたのは、意外なほど醒めた声だった。


「んなことやってると、マジで嫌われるよ」
「どういう意味、それ」
「わかんないならいいよ。
その遊び、やらなくなったらまた遊ぼーぜ」


じゃ、と遥ちゃんは、私の横をすり抜けて、5年生の教室に戻ろうとした。


「ちょっと待ってよ、何でそんなこと言われなきゃいけないの」


私の声に、足を止めた遥ちゃん。
黙っていれば、初等部で一番可愛いんじゃないかってぐらい、整った顔立ち。
たれ気味で、二重の幅の広い色っぽい目が、私を小馬鹿にするように細められる。


「・・・かりん、ホントはそのももナントカって人のこと、どーでもいいと思ってるくせに」


* * * * *


「え・・・また体育、見学?」
「そ。マラソンとか、髪がグシャグシャになったら困るぅ!」

数日後の休み時間。
運動着に着替えもせずに、みんなはあっけらかんと言い放った。

「かりん、走るのぉ?うちらとおサボりコースでいいじゃーん」
「だって、授業は出るのが普通でしょ?」
「ほらぁ、また口調が戻ってるぅ。もぉ軍団なんだからさぁ」


――ああ、何だろう、この気持ち。

私はみんなに見えないよう、密かに深いため息を漏らした。

小もぉ軍団は、段々とおかしな方向へ突き進んでいる。
授業中に騒ぐ、校内に小さな落書きを残す、校則ギリギリの範囲でやっていたはずの制服改造もエスカレートしている・・・。

準構成員の位置から、動かなくてよかった。
みんなには悪いけれど、私はそう感じていた。

そうでなくても、遥ちゃんと話したあの日から、私は迷っていた。・・・嗣永さんを演じていても、以前のような楽しい気持ちにはなれなくなってしまっていたから。
多分、当の遥ちゃんは、私の本当の目的自体は知らない。・・・あの子は、学園の先輩なんて全く興味がないから。
だけど、彼女の指摘自体は全く持って正しく、・・・私の心の中で密かにくすぶっていた感情を、見事に言い当ててしまった。


「かりん?」
「あ・・・ウフフ、私、長距離走好きだからぁ、とりあえず先に行ってるにゃん♪」


まだ、演じること自体は容易い。
そう、これはいわば・・・社交術というやつだから。
みんなと仲良くするための、そして・・・



「・・・おじゃましまーす」


グラウンドに行く前、私はこっそり、中等部の校舎へ向かった。
昇降口には、誰もいない。
私は迷わず右端の下駄箱へ赴き、少し目線より上の位置にある、個人用の靴入れを開けた。


“出席番号が若い数字だから、靴入れの位置が高くて困るわ”

少し困ったような笑顔で、・・・千聖お嬢様は、靴を取ってあげていたとても背の高い人(よく嗣永さんとも一緒にいる・・・)に話していたのを見たことがある。

「ふふ」

まさか、毎日毎時間、あの大きな背の人に、靴を取ってもらっているわけでもあるまい。
あの小さな体で精いっぱい背伸びして、一生懸命靴に手を伸ばしている姿を想像すると、何だかくすぐったいような気持ちになる。

せめてすぐ目に止まるようにと、私は持参した手紙を下駄箱の手前に入れた。

その時。


「あれー?ちさとのげたばこなのぉ?ウフフ、もぉじゃなくてぇ?」


私の手から、青い便箋がひらりと落ちた。



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