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「ねー、梨沙子って、千聖お嬢様の事嫌いなの?」

ある日のお昼休み、熊井ちゃんが唐突に言い放った言葉。
全く予想していなかったその問いかけに、私はスープ代わりのラーメンを喉につまらせてしまった。


「けほけほ」
「えー、大丈夫?むせるってことは、やっぱり図星なんだねー」

何その超絶熊井理論。意味がわからない。


「・・・え、てか何でそう思ったの?」
「どうして?同じ学年なんだから、仲良くしないと」

――あー、そうか。熊井ちゃんには質問に質問で返す、みたいなのはダメなんだった。
問いかけている時点で、もう彼女の中では結論が出ているから、相手からのクエスチョンというのは全く意味を成さないんだろう。
だけど、岡井さんのことに関しては、大いに反論の余地がある。
とりあえずラーメンを一気に流し込むと、私は熊井ちゃんのほうへと向き直った。

「私、岡井さんのこと、嫌ってないよ」

まず、違う部分があるならはっきり言わなければ、熊井ちゃんとの会話は成立しないんだった。順序良く、順序良く。


「今日だって、朝ずーっと夏・・・Buono!の話で2人で盛り上がってたし」
「そうなの?ならいいけどさ、誤解されないように気をつけなきゃだめだよ、梨沙子ったら」
「えー・・・」

何で私が悪いみたいな話になってるんだろう。相変わらず、熊井ちゃんの思考はよくわからない。
だけど、とりあえず誤解は解けたみたいだ。それなら次は、私の質問。

「でも、何で私が岡井さんを嫌ってるって思ったの?」
「んー」

熊井ちゃんは大きめのからあげにかぶりつきながら、なぜかニヘッと笑った。

「あのねー、この前、小学校の同窓会があったんだよねー」
「んん?うん」
「でー、あ、ほら、前にラーメンおごってくれたあいついるじゃん。あいつももちろんいてー、ラーメンのことまだグチグチ言ってんだよー。てかー、もうすぎた事はしょうがないんだからー」
「・・・ねー、それ岡井さんのことと関係ある?」
「え?お嬢様?なんだっけ」
「・・・いや、もういいよ」


もう、熊井ちゃんの頭の中ってほんっとわからない。
一応同じもぉ軍団だし、他の子より熊井ちゃんの扱いには長けてるつもりなんだけど・・・その思考回路は独特すぎる。

いったい、なんだって、私と岡井さんの関係に疑問を持ったりしたんだろう。
仲の良し悪しという話なら、昔よりずっといい関係になってるはずなのに。

端的に言えば、私は岡井さんのことが好きだ。
魔女好きとしては、あの千里眼のような深い茶色の瞳には魅了されずにはいられない。
それに、お嬢様の名に恥じないあの独特のオーラ。品のある仕草。だけど、好きなものを語ってるときはどこまでもテンションがあがってしまう。そういうとこも可愛いと思う。

たしかに昔は、岡井さんのことはぶっちゃけ苦手だった。
みんなが異常に特別扱いするし、岡井さんは寮の人達ばっか頼るし、話してても会話がかみ合わない事が多いし・・・。
だけど、接する機会が増えていくうちにわかってきた。
岡井さんはちょっと、いや、かなり天然なだけで、その実態は赤ちゃんのように素直な優しい子。
ま、そうじゃなきゃ、あの気難しいももがそばにおいておくはずもないってわかってるんだけどね。どうも、私は人に対する警戒心が強いみたいだ。

「あ、そうだそうだ。何でそう思ったかっていうとね」
「へ?何の話?」

私が少し物思いに耽っていると、また熊井ちゃんが唐突に語り出した。


「え、だからお嬢様と梨沙子の拗れた人間関係の話だよ」
「だから別に、こじれてないってば」
「あのね、思ったんだけど、梨沙子はいつまでたっても、お嬢様の事“さん”づけで呼ぶじゃん?
よそよそしいなあって思って」
「・・・あー、なるほどね」


今日は珍しく、熊井ちゃんと意志の疎通がスムーズにできている(スムーズなときで、これですよ!)
熊井ちゃんって、大雑把なくせに妙なとここだわるんだよなぁ。そんなとこに目をつけるとは。私とは正反対な性格だ。


「で、同窓会っていうのはなんだったの?」
「うん。その、同窓会に行ったら、小学校のとき以来会う子も結構いたのね。
で、前はゆりなちゃんって呼んでたはずなのに、“熊井さん、久しぶり”とか言われて、あれ?って感じしてさー」
「えー、別に呼び方なんてどうでもよくない?だって5年ぶりぐらいでしょ?そりゃあ気も使うって」
「よくないよ!名前っていうのはね、お父さんとお母さんからもらった最初のプレゼントで(ry」
「今その話かんけーないから。
だいたい、“お嬢様”なんて呼び方で区別するほうが、仲悪そうに梨沙子には思えるんだけどぉ」
「なんでなんで?うちとお嬢様仲いいよ!そr(ry」


「はぁ~・・・」

結局、その後のランチタイムは、熊井ちゃんからの謎のお説教タイムとなってしまった。
好きなら梨沙子がちゃんと態度で示さないと、お嬢様だって誤解するよ!壊れるほど愛しても、1/3も伝わらないんだからね!

どこかで聞いた歌詞のような言い回しで主張する熊井ちゃんの話を、二杯目のとんこつラーメン(スープ代わりだから!)片手に聞き流しつつ、なんとなく引っかかるものがあった。
まあ、熊井ちゃんの言ってることって、大概めちゃくちゃなんだけど・・・。今回に限っては、少し理解できなくもない。


「あら、すぎゃさん。ごきげんよう」

教室に戻ると、渦中の(?)岡井さんが話しかけてきた。


「愛理から伺ったのだけれど、次の授業で・・・」

ああ、今日も今日とて可愛らしい声だこと。鈴の鳴るような・・・とは、こういうのを言うんだろうな。

「・・・で、世界史の問題集が・・・」

岡井さん、誰がどう見ても、一般人とは違うオーラを放っている。
たとえば梅田先輩みたいにわかりやすく華やかってわけじゃないけど、整った顔だちはやっぱり人目を引く。
いつもふんわりいい香りがただよっていて、少し癖のある栗色の髪なんて、どんなシャンプー使ったらそうなるんだってぐらいツヤツヤ。
仕草のひとつひとつが、お手本のように優雅で美しい。寮生の有原さんとか舞ちゃんが、このお人形みたいなお嬢様に夢中になっちゃうのもわかる気がする。


「すぎゃさん?体調がお悪いのかしら?」

ほら、性格だって、こんなに清らかで優しい・・・嫌いだなんて、そんなわけないじゃんか。大体、この前ももぉ軍団と岡井さんで、駅ビルのラーメン屋さんに行ったっていうのに。熊井ちゃんは何を言ってるんだか。


「あの、私、先生を呼んでくるわ」
「あ、ごめん。違うんだ、大丈夫。ありがとね・・・えっと、千聖」
「え」

勇気を出して下の名前で呼んでみると、案の定、岡井さんは目を見開いて固まった。


「あ・・・ごめん」
「・・・いえ、そんな。私こそ、その、えっと、ごめんなさい、すぎゃさん」


ほら見ろ熊井ちゃんめ、どうしてくれる!



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