「あ・・・おかえり、千聖。」
はしたないところを見られてしまった。正気に戻った私は恥ずかしくなって、すぐに椅子から降りようとした。

「ふ、ふふ」
「千聖?」
「グフフフッ愛理ぃ、何やってんの?ウケるぅ!」
千聖が私の椅子に飛び乗って、右手をかざして一緒に宣誓してきた。
「これぇ、何の誓い?」
私の顔を覗きこむその顔は、長年見知った半月眼のクシャクシャ笑顔だった。ちょ、ちょっとまさか元に戻ったの?
「よ、よかったね?ちっさー。うん、これでいいんだよ、ね?」
・・・栞菜。

「私も元に戻ると思ってました」
・・・えりかちゃん!

「ほら、これでよかったじゃないか!これで愛理と舞も仲直り・・・ってちっさー!?ちょっと!」
いきなり、肩にミシッと重い感触。
視線を向けると、千聖が腕にしがみついて体を持たれかけさせてきていた。

「ご、ごめんなさい、愛理。これが限界みたい。」
「へぇぇ?」

またお嬢様千聖の、わたあめみたいにふわふわした喋り方に戻った。

「・・・もしかして、今の全部」
「そう、千聖の演技。すごくない?女優になれるよ。舞もびっくりした。」
舞ちゃんが無理矢理栞菜側の椅子によじのぼって、私の手から千聖をもぎとろうとした。
させるか!
千聖の小さい体を抱え込んで遠ざけると、舞ちゃんはムッとした顔になった。

「何だー演技か!でも本当すごいよ!舞もちっさーも頑張ったじゃないか!」
「へへへ。今は短かったけど、3分ぐらいならずっとあのテンション維持できるんだよ!ね、千聖?」
3分て。ウルトラマンか。

「でも、こんなにぐったりしちゃうんじゃ千聖が可哀想。千聖の心はオモチャじゃないのに。」
「オモチャだなんて思ってないよ。大体、こっちが本来の千聖なんだよ。それを愛理がさぁ」
「待って、舞さん、愛理も。」
口論になりかけたところで、千聖が口を開いた。

「ありがとう、2人とも私のことを思ってくれているのよね?とても嬉しい。」
そんな風にニッコリされてしまうと、何も言えなくなる。

「あんまり無理しないように気をつけるから、このまま訓練を続けたいわ。でも、できれば今の私のことも好きになって欲しいの。」
前半は私の顔を、後半は舞ちゃんの顔を見つめながら千聖は腕に力を込めてきた。

「なっ、そ、と、とにかく、千聖の訓練は今までどおりしゅいこうしましゅから!舞の話はここまで!」

あ、今のちょっと可愛い。
舞ちゃんは今までみたくお嬢様千聖にあたれなくなって、照れて体をあちこちぶつけながら床に下りた。
「愛理ぃ。」
「・・・わかったって。さっき言ったとおり、キャラ作りには協力する。」
あんな天使みたいな笑顔で頼まれたら、しょうがないなあなんて甘くもなってしまう。

「よし、じゃあキュート集合!残り時間は特訓に使うよ!ちっさー、まずはノートの86ページを・・・」

コンコン

「誰かいますかー?」

コンコン

「愛理、いる?梨沙子だよー」

げっ
「梨沙子と、桃子だ。どうする?忙しいって言う?」
「いいよ。逃げることない。これはいい実戦になるよ。千聖、さっきの桃ちゃぁん!て言い方思い出して。」
ちょっとこめかみに青筋を立てながら、みんなのとまどいをまるっと無視して舞ちゃんがドアを開けた。
舞ちゃん、アグレッシブ!

「いらっしゃい。」

こうしてお嬢様千聖をめぐる、ベリVSキュートの第1ラウンドが幕を開けた。



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最終更新:2011年02月08日 06:52