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自転車の保管場所はこの駅のすぐ近くの高架下だった。

「はい、これね」

引き渡された熊井ちゃんの弟君の自転車。

これはまた・・・
なんという痛チャリだろう。


なんで自転車にエアロパーツが装着されているのか。
そして、その車体全体に描かれている無数の熊さんの顔のかわいらしいイラスト。

これは弟熊君(上)のセンスじゃないな。
おおかた熊井ちゃんが自らの筆でデコレーションしたんだろう。
熊井ちゃんに自転車を貸した弟熊君、きっと泣いたんだろうな。
しかも、熊井ちゃんに貸したら痛チャリに仕上げられたあげく、駅前に放置プレイで撤去までされて。

弟熊君がこの自転車をここに引き取りに来ようとしないのも頷ける。
そりゃ、この痛チャリじゃあなぁ。

そんな弟熊君への同情を禁じえない僕に、係員の人が言ったこと。

「じゃあ、撤去費用と保管料で合計2,000円ね」


        • それ、僕が払わなきゃならないのか。


♪ひとつ目の信号あーうぉーうぃろーで通過~


のんびりと自転車をこいでいたら、後ろから大音量で呼びかけられた。

「そこの自転車! ちょっと停まりなさい!!」

振り向くとそこには赤色灯を上昇させて停車したパトカーが。
パトカーに停車を命じられたのか。何も違反なんかしていないのに、何だろ。
面倒くさいことになりませんように。



「この自転車は君の?」

お巡りさんが懐中電灯で熊のイラスト(多数)を照らしながら僕に聞いてきた。

「いえ、違います。友達の弟のものです」
「・・・・友達の弟? 自分のじゃないのか?」
「はい、そうですが・・・何か?」

なるほど、盗難車じゃないかと疑われているんだな。
それなら問題ない。これは熊井ちゃん(弟)の自転車だ。僕は堂々とした態度をしていればいい。
警察官は更に自転車を検索している。

そして、そこに書き殴ってある「もぉ軍団参上!!」の文字を照らしたまま僕にこう言った。

「この、もぉ軍団っていうのは何だ? 暴走族とかじゃないだろうな」

暴走族って・・・

「いえ、まったく違います。
筋さえ通りゃ気分次第でなんでもやってのける命知らず、神出鬼没の特攻野郎もぉ軍団!!だったかな。
すっかりソラで言えるようになっちゃいましたよ、ハハハ」


軽い冗談のつもりで、耳タコになっている例の口上をつい反射的に答えてしまった。
だって、今この空間には緊張した空気が広がりつつあって、それが怖かったからこの場を和ませようと思ったんだ。


だが、僕は世間知らずだった。


こういう時は余計な口をきかない方がいいということ、僕はこの時まだそれを知らなかった。
場を和ませようとした僕の狙い通りの展開にはならなかったようだ。

お巡りさんは僕の言ったことに笑みのひとつさえ浮かべることは無かった。
そして、有無を言わせないような抑揚の無い平坦な口調でこう言った。


「・・・・ちょっと詳しい話を聞きたいからパトカーに乗ってくれる?」

 * * * *

(以下、少年目線になってますが、このシーンに少年はいません。少年が語り部役です)


お屋敷に戻ったお嬢様の前には、見るからに怖そうなメイドさんが仁王立ちしている。

「お嬢様、怒られる覚悟は出来ていらっしゃいますか」
「あら、どうして怒られることなどあるのかしら。千聖は何も悪いことなどしていないわ」
「外出先で勝手にお一人で別行動をとられるなんて。そんな禁止事項をされたのですから当然のことでしょう?」
「めぐは何を言ってるのかしら。禁止されているのは千聖一人での行動だわ。誰かと一緒ならいいわけでしょう」

そこで熊井ちゃんを見るお嬢様。

「一人じゃなかったわ。ウフフフ」

穏かな微笑でそう言うお嬢様に、メイドさんは一本取られた様子。
そんなメイドさんのお嬢様を見るその視線は温かいものだった。
立場上お嬢様に厳しい言葉を向けているけれど、お嬢様の行動をなるべく尊重してあげようという優しさが感じられる。


しっかりと自分のお考えを述べるお嬢様に対してメイドさんがしている大人な応対。
いい場面ですね。
ただ一点気になるのは、この場にはお嬢様とメイドさんの他に、もう一人いるわけで。

その人が得意気な表情で口を差し挟んでくる。


「そうですよ!うちが一緒にいたんだから。お嬢様にはもぉ軍団がついてたんだから全く心配御無用です!!」

熊井ちゃんが得意気に言っていることを、頭から受け流して全く相手にしていないメイドさん。


うん、それで正解です。
このメイドさんは、職業柄なのか非常識な人への対応法もちゃんと心得ていらっしゃるようだった。さすがですね。
それとも、ひょっとしたらこのメイドさん、熊井ちゃんのことをよくご存知なのかもしれないな。
メイドさんの彼女に対するこの反応を見ると、熊井ちゃんは既にこのメイドさんの前で何かやらかしてるのかもしれない。


熊井ちゃんには見向きもせず、ニヤリと笑ったメイドさんがお嬢様に言った。

「お嬢様、お知恵がつきましたね。誰の影響なのかしら」
「ウフフ、千聖ももう高校生なのよ。いつまでも子供じゃないわ」
「だからー、うちが付いてるんだから、これは全部うちのシナリオ通りでーry

見つめあうお嬢様とメイドさん。
その横でなおも話し続けている熊井ちゃんに、事務的な真顔に戻ったメイドさんが慇懃な態度で案内する。

「お帰りの車を只今玄関に着けますので、さあどうぞこちらへ」


「おかえり、ちしゃと」
「舞! あとで部屋に来ていただけるかしら。千聖が今日見てきたことを舞に聞いていただきたいわ」
「どうやら制裁を加えるまでの行為はなかったみたいでしゅね。でも俺の嫁と2人っきりでいること自体がそもそも制裁対象だということを分からせる必要がry」
「なにかしら、舞? 何を言ってるの?」

「こっちのこと、何でもないよ。
それより千聖、お腹すいてない? 何か作らせる?
でも、あの執カス見当たらないんだよね。こういう時に使えない奴・・・どこをほっつき歩いてんだか」




 * * * *


(少△年)<やっと開放された・・・(ただいまの時刻21:00)
        警察の電話に出てくれたのが弟熊君で本当に本当に良かった


(執△事)<お嬢様が見つからない。村上さんに怒られるから帰れない・・・(ただいまの時刻22:00)




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