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現れた彼女は不自然なまでに明るいその笑顔を私達に向けてきた。


「うふっ♪」


気持ち悪い。
そして、不気味。

だって、こんなところで会うのは不自然でしょ。
そう、それはまるで私達を待ち伏せていたかのようだったから。
なっきぃの声がにわかに固くなった。

「つ、嗣永さん・・・・」

なっきぃの声につられるように、私まで何か緊張する。
こう見えて私は、けっこう人見知りするほうなのだ。
今でも寮生以外の人が相手だと意外と緊張したりする。
よく会う生徒会関係の人たちには、さすがにもうだいぶ打ち解けたけれど。

つまり、寮生でもなければ生徒会でもなかった目の前のこの人だけは、未だに会うとそれなりの緊張を覚えるわけで。
私はこの人とはあまり関わったこともないし。

それに何といっても、彼女は学園一の奇人の称号を誇った人なのだ。
何をしでかして来るのか、考えるだけでも恐ろしい思いがしてくる。

その人が今わたし達の目の前に現れた。いったい、何の用があって?


「学園一の奇人って・・・ それ、今ではくまいちょーの代名詞でしょ。ウフフフ」


・・・何も言ってないのに。

こ、怖い!
この人、本当に怖い。
この私がそんな恐怖感を覚えるなんて。


そんな緊張感につつまれている私の横で、なっきぃが再びつぶやいた。

「つ、嗣永さん・・」

「あれ?どうしたの? いいんちょさん、そんな深刻な表情しちゃって?」
「な、なんでもないです。別にあの男子とは別に」

なっきぃも相当動揺してるんだな。
聞かれてもいない余計な事まで、自分から言い出したりするなんて。
そんななっきぃが口をすべらせたこと、嗣永さんがそれを聞き逃すはずもない。

「男子って? なにそれぇ?」
「いえ、実はその、嗣永さんの軍団のあの男子に、ちょっと・・・」

適当にごまかせばいいのに、バカ正直に答えるなっきぃ。

でも、ひょっとしたらなっきぃは口を滑らせたりしたわけじゃないのかもしれない。
なっきぃなりに事態の解決への道を探りたくて、あえての意図的な発言だったのかな。
あの軍団の長たる人物だったら、確かにその意図には合っているなのかもしれないけど。

でも・・・やっぱり、この人が相手っていうのは・・・
なっきぃの言ったことに、わざとらしく目をぱちぱちする嗣永さん。

「男子って、なに?少年のことなの?」
「え、えぇ・・・」

「ふーん? それでいいんちょさん、少年とどうかしたの?」
「わたしの誤解で、その暴力を・・・」
「暴力?」
「えぇ、ちょっと。その、ほ、頬をひ、ひっぱたいてしまって・・・」

「いいんちょさん、少年をビンタしたの!?」

目を見開いてわざとらしく驚く嗣永さん。
彼女のその言葉に俯きながら頷くなっきぃ。

「その、誤解を招く発言をするから・・・でもその誤解が原因とはいえ、やっぱり暴力をふるってしまったので・・・」
「なぁにそれぇ? 誤解を招く発言って?」

その嗣永さんの顔。
まるで、楽しいオモチャを買ってもらった子供のようだった。

だが、嗣永さんのその質問に、なっきぃは黙ったまま答えなかった。

「ふーん? ま、いいけど。もぉには関係の無いそんなことには興味無いからね」

そんなこと絶対に思ってない。
間違いなく興味津々だ、この人。

「でも、そんなに気になることがあるんならさ、これからあのカフェに行ってみれば。そこにいるから、あの少年」
「下校の途中でそんなところに寄ることは出来ません」
「優等生か! 相変わらず固いね。そんな大げさに考えないでさ」
「嗣永さんは考えなさすぎです。私は風紀委員長なんですから、そんなところに寄り道とか」

「ホントに真面目だねぇ。だったら、さっき言ってたこと、それこそケジメをつけないとダメなんじゃないのぉ。委員長さんたる者がそんないい加減なことでいいの?」
「それぐらい分かってます。今はその機会をどうするか、うかがってるところなんです!」
「それなら、なおさらちょうどいい機会じゃない? もぉも一緒にいれば行きやすいでしょ」

一瞬キッと嗣永さんを睨んだなっきぃが、覚悟を決めたように顔を上げた。

「・・・・そうですね、その通りかもしれません」

だめだよ、なっきぃ。
第三者の立場で冷静に目の前の嗣永さんを見ていて、そう思った。
間違いなく、この人、何か企んでるかんな。

そんなわかりやすい挑発になっきぃがのせられるなんて。
落ち着いてるように見えるけど、今やっぱり冷静さをちょっと失ってるんだ。

「わかりました。確かに今がその機会なのかも知れないですね。下校中ではありますが、やむを得ない事態なのでそこに寄ってみようと思います」
「いちいち理屈を付けなくてもいーんじゃない? もぉもちょうど行こうと思ってたところだし、一緒に付いて行ってあげようか?」
「いえ、結構です。ひとりで行きます」
「そう。じゃあまずはお一人でどーぞ、ウフッ。でも、しばらくしたらもぉも行くからね。それまでお二人でごゆっくり」

緊張した面持ちのなっきぃが行ってしまうと、当然わたしは嗣永さんと2人っきりになる。
なんか嫌だな。早々に私も立ち去ろう。

「じゃ、私もこれで帰るかんな。失礼しまs
「栞ちゃん、ちょっと待ってぇ」

満面の笑みを私に向けてくる嗣永さん。
気持ち悪い。

「ちょっと話しを聞きたいんだけど、いいかなぁ」
「私に? 話しって、何ですか?」
「いろいろとね、教えて欲しいことがあるの。いいんちょさんと少年のことね。何があったの?」

自分に関係ないそんなことには興味無いんじゃなかったのか。

「ど、どうしてそれを私に聞くんですか?」
「だって、知ってるんでしょ、何があったか。一緒にいたんだから」

一緒にいたって、何であの時のことをあなたが知っているのか。
あの男子から聞いたのかと思ったが、何があったのかを聞いてくるってことはそれは違うってことだ。
かといって、なっきぃやお嬢様がそれを話したとは思えない。
じゃあ、本当にどうやってそれを知りえたのだろう。

「ん? くまいちょーが言ってたんだよ?」

笑顔のまま嗣永さんが言葉を続けた。
わたし何も言ってないんですけど・・・
まるで私の考えてることを読んだかのように話しを続ける嗣永さんが怖くて仕方が無い。

相変わらず、この人は只者じゃないな。
この私を心理的に怖がらせるなんて、さすがとしか言いようが無いかんな。

「あの2人の間に何かあったらしいってくまいちょーも言ってたんだけど、
くまいちょーの話だと、どうしても話しの全体像が見えてこないんだよねw
だから、どういうことなのか栞ちゃんからも事情を聞いてみようかなって思って」



気付けば主導権をすっかり握られてしまった。この世界のアリカンが。
嗣永さん、恐ろしい人だ。
ただひたすら彼女のペースで、あれよあれよという間に一通り聞き出されてしまう。

でも、なっきぃの名誉を守らなければ!というわけで、事実を曲げないまでもなっきぃ側の視点での説明にしておいた。
この嗣永さん相手に、それは立派な対応だったと今でも自負している。

私は決してウソはつかなかった。
多少の脚色は、まぁ別にいいだろう。それぐらいは言葉のニュアンスの差にすぎない。
だいたい、悪いのは全てあいつだかんな。


私の説明を聞いた嗣永さん。
彼女のその笑顔を見て、私は身震いした。
この後、間違いなく嗣永さんは何か行動を起こすだろう。
この笑顔、私もたまにこういう顔をしている自覚があるから、それがよくわかる。


「いいんちょさんが少年にビンタをした理由はそういう誤解がもとだったの? そりゃー面白い。面白すぎるね、ウフフフフ」



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