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それにしても、なかさきちゃんって押しに弱そうだよなあ。
今だって、ひょっとしてこのまま話しを積み上げて、あたかも既成事実であるかのように持っていったら面白いことになるんじゃないだろうか。

今の彼女のこの表情を目の前にすると、ついつい調子に乗ってしまいそうになる。
それは男の本能的なものなのだ。しょうがないことだ、うん。
そして、僕も男なのだ。

しかも、いま僕の目的は彼女に嫌われる役どころを演じきることなんだ。
調子に乗ったこと言って、嫌われてしまえ。一石二鳥だ。


「僕達はもっとお互いを深く知り合った方がいいんじゃないかな」

「今日の夜はまだこれからだよ」

「長い夜になりそうだね」


・・・・・


僕となかさきちゃんの間にある空気が凍った。


いくらなんでも、ちょっと調子に乗りすぎました。その自覚はあります。
なかさきちゃんは思いっきりドン引き顔になっている。

悪ふざけはこの辺にしておこうかな。
そろそろ、シャレじゃ済まなくなりそうだ。


「やっぱりあなたはそういう人間なんですか?」

これ以上無いくらい冷たい声でそんなことを聞いてくるなかさきちゃん。
それで否応無く僕は気付かされた。すでにシャレになっていない件。

冗談が過ぎたようだ。
今のは冗談なんですよ、なんて今更言い出せないほど、目の前の風紀委員長さんは怖い顔をして僕を見ている。

彼女の反応が面白いからって、この真面目な風紀委員長さんに対して、いくらなんでも調子に乗りすぎた。


でも、それでいいんだ。
嫌われるという目的を達成するためなのだ。
これで彼女は僕のことをキッパリとあきらめてくれるだろう。
でも、なんかやっぱりつらい・・・ 顔で笑って心で泣こう。

自己犠牲の僕カコイイ!みたいな、そんな悲壮感に酔っていたのだが、その僕のした演技は予想以上に効果があったようだ。
実際はなかさきちゃん、僕のことをあきらめるとか、そんなところを完全に通り越していた。
いま彼女は僕のことを嫌悪感丸出しで見ているじゃないか。
そう、以前のように。いや、それ以上に。


「舞ちゃんやお嬢様に近づいてきたりして嫌だなと思っていたら・・・ 私にまでそんなことを言ってからかってくるなんて・・・」

「あなたは本当に節操が無い人ですね。そのうえ友理奈ちゃんにも言い寄ったりして。そのことをお聞きしたかったんですけど、それは本気なんですか?」

否定する暇も与えられずに、なかさきちゃんはどんどん僕のことを勝手に決め付けていく。
凄いな、何かそれだけ聞くと僕がものすごい軽薄な男のように聞こえる。
こんな硬派な僕が、そんなことを女の子に言われるなんて。
僕の行動のどこをどう間違えたら、この僕に対してそのような認識になるのだろう。

彼女からどう思われようと、それは僕が意図したことだから構わないのではあるが、いま彼女が最後に言ったことは何だ?
僕がいつ熊井ちゃんに言い寄ったりしたことがあったんだろう?

そんな訳の分からない質問、否定するのさえも面倒くさい。
意味の分からないその質問に対し、何て答えるべきなのか思わず黙ってしまった。


だが、沈黙はさらなる誤解を呼んだようだ。
なかさきちゃんの意味不明の質問は続く。


「本当にゆりなちゃんと、その、そういう関係じゃないんですよね・・・?」
「は? そういう関係って?」
「だから、友理奈ちゃんの説明でそれは誤解だったんだと分かったはずなんだけど、やっぱり疑わしいことばかりで」


何の話しだ?  
今の話しの、“それ”って、どれなんだ?


意味不明のことを話し出したなかさきちゃん。
小さい声で、状況証拠がこれだけ揃うと、とかブツブツとつぶやいている。


「それに、病院に行くってことは、その、やっぱりそういう心当たりがあるからじゃ・・・どうやら違ったみたいだけど」


だから、“そういう心当たり”って何だよ。
“違った”って、何が違ったんだよ。
僕に分かるように説明してくれ。


って、ちょっと待って? 病院って何だ!?

「あの!病院って何ですか? まさか熊井ちゃん、何か病気なんですか!?」
「何を言ってるの? あなたのせいでしょ」
「僕のせい? どういうこと?」


僕の聞いたことになかさきちゃんは答えてくれなかった。
咎めるような目付きで、彼女が僕をじっと見つめる。

「まるで他人事のように言うんですね」

なんだ? さっきから何か微妙に会話が交わってない気がするが。
僕の理解力が足りないのか? 彼女の言ってることが全く分からない。


「ごめん、言っていることの意味が全く分からないんだけど・・・」

僕の言った言葉を聞いて、なかさきちゃんのその表情はさらに硬化する。
彼女は何かを言おうか言うまいかと悩んでいるようなそぶりだったが、決心がついたのか僕にこんなことを言ってきた。

「ひとつ言わせていただくと、欲望のままに無責任な行動は取らないでくださいね」


欲望のままにって・・・
何を言ってるんだ、この子は。


「ちょっと、なっきぃ、落ち着いて聞いて?」

この期に及んでその呼び方はまずかっただろうか。
なかさきちゃんは厳しい顔を崩さない。僕はそんな彼女に弁明を試みた。

「もうお分かりだと思うけど、僕はとても真面目な人間じゃないですか。まぁ、自分で言うのもなんだけど」
「そんなの口だけなら何とでも言えます!」
「いや、僕が自分で言ってるだけじゃなくて、僕がいい人だというのは遂に公式設定でも認定されて・・・
「友理奈ちゃんは私の大切な友達なんです。だから彼女を変なことに巻き込んだりしないで」


僕の言うことを全く聞いてくれないなかさきちゃん。
どうも話しが噛み合わない。


だいたい、彼女は何を言ってるんだ。
変なことに巻き込まれてるとするならば、それはいつも僕の方だと思うけど。

そんな彼女の言ったことに、ついムキになって思わず強めの口調で反論してしまった。

「僕だって熊井ちゃんは大切な友達です。だから、そんないい加減な行動は取ってないという自負はあるから!」


そんな僕を、なかさきちゃんが真顔で真っ直ぐに視線をぶつけてくる。
そのまま時間が止まってしまったかのように、しばし空気が固まる。


じっと僕を直視していたかと思ったら、なかさきちゃんはふっと表情を緩めた。


「そうですか・・・」

「その言葉を、信じます」


良かった。さっきまでの怖い顔から少しは柔らかくなってくれた。
どうやら、決定的に嫌われてしまったということでも無かったようだ。


もう少しこのままなかさきちゃんと話しをしたいな。お互い腹を割った話しが出来そうな空気になってきてる感じがするし。
なかさきちゃんとは何かと誤解や気持ちのすれ違いが多いようなので、もう少しここで彼女と話しを突き詰めておきたい。
それが出来そうなこの機会を逃したくない。


だがそのとき、僕は気付いてしまったのだ。


窓の外に軍団長がたたずんでいることに。



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