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窓越しに目が合ってしまった・・・
ウフッ、という声が聞こえてきそうな桃子さんのその笑顔。
そのプロフェッショナル的なかわいさが、何故だろう、いま僕には悪魔にしか見えない。

そのとき僕は、今おかれているこの状況が故意につくられたものであることを悟った。
だって、そこにいる桃子さんの楽しそうなその笑顔を見れば、桃子さんがこの場に来合わせた事が偶然では無いことぐらいすぐに分かる。


これは、まさか、罠だったのでは。
今さっきまでの自分の言動を思い返す。
凍りつくような冷たいものが背中を流れるのを感じた。



店のドアが開き、桃子さんが入ってきた。
やってきた桃子さんは、僕となかさきちゃんを交互に見ながらこう言った。

「え? なになに? なんでここに2人でいるのぉ?」


わざとらしすぎる・・・
桃子さん、やはり何か企んでるな、これは。

なかさきちゃんの隣の席に桃子さんが座る。
先に口を開いたのはなかさきちゃんだった。
彼女もまた、現れた桃子さんを見て僕と同じことを思ったようだ。

「嗣永さん、ひょっとして何か企んでいるんですか?」
「ん? どういう意味?」
「だって、私にここへ来るように薦めたのはあなたじゃないですか」
「へ? そうなの? なかさきちゃん、僕に会いたくなって来たのかと」
「違います! そんな訳ないじゃないですか!」

キッパリと僕に言い放つなかさきちゃん。
・・・・そりゃ、そんな訳無いですよね。そりゃそうですね。


「ど、どういうことですか、桃子さん?」
「いいんちょさんが少年に謝りたいことがあるって聞いたからさ、これは2人で話し合うべきだと思ったからセッティングしたんだけどぉ」
「謝りたいこと?」

「あぁ、さっきなかさきちゃんが叩いたりしてごめんなさいって言ってたことですか。そんなのはホント別に全然気にしなくていいですよ」

気まずそうに俯くなかさきちゃん。
そんな彼女を見て、桃子さんが話しを続ける。

重くなりそうな空気を察して、話しを続けてくれたのだろうか。
そういうところ、桃子さんはやっぱり大人だ。

ところが、その桃子さんが言い出したこと、それは僕を更なる大混乱に陥れるのだった。


「いいんちょさんは知ってたの?」
「え? 何をですか?」
「少年とくまいちょーのこと」


何だ?
僕と熊井ちゃんのこと? 何かあったっけ?
いったい何を知ったっていうんだろう。


なかさきちゃんはその質問に返答もせず、ただ真顔で桃子さんの顔をじっと見ている。
YES or NO それさえも答えない、なかさきちゃんの取ったその態度はいったいどういう意味なんだろう。

沈黙するなかさきちゃんに桃子さんが更に話しを続ける。

「あの少年どうやら熊井ちゃんとそういう仲らしいんだかんな、って聞いたんだけど、なにそれぇ?」


言ったあと、桃子さんの顔が一瞬ニヤッと笑ったのを僕は見逃さなかった。
桃子さんは聞こえよがしにそれを言ってるんだ。
その証拠に僕の反応を確認するように一瞬だけ僕のことを横目で見てきた。


いま桃子さんは何て言った?
そういう仲ってどういう意味だ?
桃子さんはどういう意味でその質問をしたんだろう。
頭の中をクエスチョンマークが渦巻く。

「もう、栞ちゃんは黙ってられないんだから・・・」

「その件でしたら、どうぞ御本人に伺ってみてください。私もその答えを是非知りたいので」

なかさきちゃんが桃子さんに答えたのだが、その答えの後半部分はそれは冷たい口調だった。

その忌々しそうな冷たい口調も合わせて、彼女がその件に関して相当不愉快に感じているようだというのは容易に見て取れた。
なかさきちゃんのその言葉を受けて、桃子さんが僕に向き直ってくる。

うふっ♪って顔をして僕を見る桃子さん。
こ、怖い。

「今の聞いてた? じゃあ教えてね。くまいちょーとそういう仲って、どういう仲なの?」
「あ、あのですね・・・ 質問の意味が分からないので、答えようが無いんですけど」
「じゃあ質問を変えようか。少年はさ、くまいちょーのことどう思ってるの?」
「どうって、どういう意味ですか?」


その僕の問いには答えず、ただ小首を傾げてじっと僕を見る桃子さん。
何も言わずに黙ったまま僕を見ている。黙ったままじっと・・・

その視線に耐えられず、思わず僕は叫んでしまった。

「ち、違いますよ!!」
「本当に違う? 自分の気持ちに気付いてないだけじゃないの? それとも気付いてないフリをしてるの?」

その質問に僕は答えることが出来なかった。
だって、答えが分からないから。自分でも分からないんだから、答えようがない。

だいたい、桃子さんは今とても真剣な顔をしてその質問をしてきているが、
これに対して僕がもし真面目な顔で答えを言ったりしたら、その瞬間に手のひらを返したように大笑いし始めるんじゃないか。

うん、そんな気もする。
っていうか、間違いなくそうだろう、今までの例から言っても。


でも、桃子さんのことは置いておいて、その質問の意味することに僕は自問自答する。
熊井ちゃんへの気持ち?
僕は気付いてないだけなんだろうか・・・


黙り込んでしまった僕を見て、桃子さんが、やれやれというジェスチャーと共になかさきちゃんに話しを振る。

「だってさ。これ、どうする?いいんちょさん」

なかさきちゃんの声はさっきからずっと同じだ。
抑揚の無い乾いたその口調。

「別に、私には関係ないことですから」

感情を無理に抑えこんでいるような、無表情のなかさきちゃん。
そんな彼女を、桃子さんが黙ったままじっと見つめる。



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