※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



すると、そんななかさきちゃんを見つめていた桃子さんが、突然とんでもないことを言い出した。


「いいんちょさんは、少年のことが好きなの?」


僕は心臓が止まりそうになった。
突然何を言い出すんだ、この人は。

いったいどういう流れでその質問が出てきたのか。
今の話しの流れの中で、何かそれに思い至らせるところがあったのだろうか。

いや、そんなはずがない。
今の話しの中にそんなものは全く無かった。

でも、根拠も無しに突然話しをふってきたりはしないはずだ、この人は。
ということは、桃子さんはなかさきちゃんが僕に好意を持っていることを知っているのか。


いや、待て。
なんで桃子さんがそれを知っているんだ?
おかしいだろ。桃子さんがそれを知っているはずは無いのだ。


だって、あの出来事があってから僕が桃子さんに会うのは今日が初めてなんだから。


・・・そうか。
桃子さんはカマをかけてきたんだ。
誰かから情報を何か断片的にでも入手したのかもしれない。それで、そんなことをしてきたというわけか。

それを喋ったのも有原か?
いや、違う。栞菜ちゃんだってそれは知らないはずだ。
僕がそれっぽいことを喋ってしまったのは、先日お嬢様の付き添いをしたあの時だけなんだから。
ということは、その断片的情報の出所というのは、あの時一緒にいたあの人しかいない。


・・・熊井ちゃんか。


はたして、そのルートで正しい情報がちゃんと伝わっているんだろうか。
絶望的な気分になる。

でも、仮に熊井ちゃんから伝わったのが決して正確ではなく多分に間違いを含んだ情報だったとしても、桃子さんがそれに惑わされるとは思えない。
そうだよ、桃子さんのことだから、きっと真相を見抜いているのだろう。
誤った情報に惑わされたりせず、真実を見抜いてくれるだろうというのは頼もしい。

さすが桃子さんだな。
でもまあやっぱり、それをネタに僕をイジり倒そうとしてくるんだ。
よりにもよって、そのネタというのはあのなかさきちゃんの僕に対する気持ちのことなんだから。
そんな美味しそうなネタを桃子さんが使わないはずがないか。

桃子さんから突然話しを振られたなかさきちゃん。
それはそれは激しく動揺した。

「好きだって、わたしがこの人のことを? ど、ど、ど、どこからそんな根も葉もない噂話が!?」
「え?違うの?」

思わず言いかけて、あわてて手で口を塞ぐ。
その時は気付かなかったが、後から考えると僕のこのたった一つの動作を桃子さんが見逃すはずも無かったのかも知れない。

僕の言ったことになかさきちゃんは、殊更ムキになって否定してくる。

「そんなわけ無いじゃないですか!」


そんな僕となかさきちゃんを見比べるように視線を往復させた桃子さん。
このとても緊張した空気とは場違いなほど、彼女はとても楽しそうだった。

「違うんだってさ。少年、なにか勘違いしてたみたいだよ」
「どういうことですか、嗣永さん?」
「少年がね、いいんちょさんが僕に好意を寄せてるみたいなんですよって言ってたんだよね」

言ってない。
僕は桃子さんにそんなことは言ってない。

この人は何を言い出してるんだ?
とにかく彼女のその暴走を止めなくては。

「ちょ、桃子さん、そんなストレートに・・・」
「それでね、どうすれば上手く事を運べますかねって相談されたんだ」

頭の中でプチッって音がした。

そんな相談してねーよ!

確かに、僕が今回みたいなことを相談するとしたら、その相手は桃子さんになるのかも知れない。
軍団長は何だかんだ言って大人な面もあるから、真面目な話のときはちゃんと真面目に聞いてくれるし。
正直言うと僕は桃子さんのことを頼りがいのある先輩だと思ってる。

でも、今は違うのだ。
だいたい今回のことを相談するにしても、僕がそんな下品な表現をするわけがない。



「事を上手く運ぶって・・・ そんな事を考えていたなんて、あなたって人は・・・」

絶句するなかさきちゃん。

ショックだったのは、今なかさきちゃんは桃子さんの言うことの方をすっかり信じているということだ。
最早この風紀委員長さんの中での僕への信頼度は、彼女の天敵だというこの桃子さん以下なんだな。

「いや、桃子さんの言ってることは明らかにニュアンスがおかしい・・・」
「少年、もうバレちゃったんだからあきらめなよ。まぁ、舞ちゃんと委員長さんどっちとも上手く付き合おうなんて虫が良すぎるよ」
「そんなことは思ってません!」
「またまたぁ。ちょっとは思ってたでしょ」
「そりゃ、もしそれが可能ならば嬉s・・・・って本当に違いますよ、それ!」
「その上、くまいちょーまでなんでしょ。ホント男ってやつは本能のままなんだから。ほら、いいんちょさんドン引きしちゃってるよ」
「だから、それは桃子さんの妄言・・・」


「委員長さん、わかった? 男っていうのはこれだからねぇ。こういうのは学校で教えてくれないでしょ。生きた勉強ができて良かったね」


目の前のなかさきちゃんは俯いて、その体は小刻みに震えている。
そして、なかさきちゃんはもはや僕に顔を向けてくれず、喋るのも俯いたままだった。

「・・・やっぱり、あなたは最低の人間ですね。本当に不潔。あなたみたいな人は全女性の敵です。・・・・ちょんぎられちゃえばいいのに!」

え? いま最後に何て言ったんだろう。何されちゃえばいいって?

「二度と私の前に姿を現さないで!!」

なかさきちゃんは乱暴に立ち上がって、テーブルの上に叩きつけるように代金を置いた。
そして、一回だけ僕を睨みつけるとそのまま決して振り返らずに店を出て行ってしまった。

「あ~ぁ。すっかり嫌われちゃったねぇ、少年」
「嫌われるにしても、あの嫌われ方じゃあ、なかさきちゃん僕を完全に変態扱いじゃないですか!」
「え?違うの?」
「違いますよ!!」

「これから僕はどんな顔で彼女に会えばいいんだ・・・」
「二度と現れるなって言われたのに、それでもまだこれからも会うつもりなんだw いい根性してるね君もww」


「あーっ、もうっ!! 桃子さんのせいですよ!! どうしてくれるんですか!!!!」
「え?なに? ひょっとして、これって謝った方がいい流れ?」


「じゃあ謝るね」


「ゆるしてにゃん♪」


「 も も こ さ ん ! ! 」


心から楽しそうな桃子さん。
ニッコニコ顔の桃子さんを前にして絶望的な気分でいると、扉が開いてまた一人軍団の人が入ってきた。

やって来たのは・・・
このタイミングでこの人が来るとか、どんよりとなっている僕の心にトドメを刺しに来たとしか思えない。

「あれー? ももの方が先に来てるなんて珍しいねー」

さっきまで修羅場になっていた場所に現れたのんきそうなそのお顔。
熊井ちゃん。


彼女の姿を見て、いま真っ先に思い浮かぶ。
さっきなかさきちゃんが言ってたことが。

でも、現れた彼女は実にいつも通りの彼女だった訳で。


健康そうだけど。とっても。


「なに? うちの顔に何かついてる?」

「熊井ちゃん! あのー・・・聞きにくいこと聞くけど、あのさ・・・いま何か病気にかかってるんだって?」
「えー、なに突然? 別にどこも悪くなんかないけど?」
「ほ、本当に?」
「うちがウソをついてるとでも言うわけ!?」

「そうか、良かった・・・・」
「どういうこと?」
「僕もよく分からないんだけど、熊井ちゃんが健康ならそれで本当に良かったよ」
「意味わからないでしょ! 相変わらず話しが下手なんだから。もっと人に分かるように喋るクセをつけなさいよ」

熊井ちゃんはいつもそう言うけど、そんなに聞いた人が理解できないような話し方を僕はしてるんだろうか。

「だから、いつもすぐにトラブルになっちゃうんだよ、全くもう!!」

ご自身のことですか? なんて、普段の僕なら突っ込むんだろう(心の中で)。
だが、脱力状態に陥っていた僕は、もはや彼女の言うことに反論する気力すら残っていなかった。


「ねー、ももからも教育してやってよ。こいつ、もうちょっとしっかりさせないと本当に心配でさー」
「そっか、くまいちょー、そんなに少年のこと心配なんだ。ウフフフ」
「そりゃそうだよー。じゃないと役に立たないじゃんー」

「でも、ゆりがそう言うなら、もぉもちょっとはお手伝いさせてもらおうかな」



僕はこの後、怒涛の説教攻撃を3時間にわたって2人から受けることになる。
延々と続く熊井ちゃんのマジ説教と、それを面白おかしく炊きつける桃子さん。
このコンビ、世界最強かもしれない・・・

なかさきちゃんとの関係が泥沼化していくことにショックを受け放心状態だった僕は、そのほとんどを受け流していたので、何を言われていたのか全く憶えていない。

だが、目の前に並んで座る身長差のあるこの2人。
熊井ちゃんの怖い真顔と桃子さんの楽しそうな笑顔。その対照的な表情。
その光景だけが強烈に記憶に残っている。


これ、間違いなくトラウマになるだろうな・・・・




TOP