※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



鬼のような形相で生徒会室に入ってきた熊井さんは、まず、室内にいる全員の顔をぐるりと見渡した。


「いい?人の嫌がることをするとね、必ず自分に返ってくるんだから。
神様はちゃんと見ているの。わかった?」

うふふふ、憤る美女、何て素敵な横顔なんだろう。
だけどまだ、誰が“犯人”だかはわかっていないらしく、少し小首を傾げたあと、「よーし・・・」と気合を込めなおす熊井さん。

「そんなに言うなら、仕方ない」
「誰も何も言ってないよ、熊井ちゃん」
「まーさはそこで見守ってて!うち、今、人相学の勉強してるんだよね。将来は顔相師として食ってくつもり」
「ラッパーはどうしたんでしゅか」
「あー・・・。じゃあ、診断結果をラップで伝える的な」


「・・・なにあれ」

遥ちゃんが、苦い表情で熊井さんを見ながら耳打ちしてくる。


「熊井さん、素敵な方でしょう?」

そう答えると、ますます遥ちゃんの眉間の皺は深くなる。
正義感溢れる、素敵な先輩じゃないの。遥ちゃんたらわかってないんだから。


「よーし、では診断結果。
まず、お嬢様とまーさはクリア。優しさが滲み出てるからね。
あと、あなたも大丈夫」

私を指さした熊井さん、眼力を弱めて、にっこり笑いかけてくださった。

「あら、よかったです。うふふふ」
「ずりーよ、みずきちゃんだけ!てかあたしも違うんで!」

そんな熊井さんに猛抗議を仕掛けるのは、遥ちゃん。

「いやー、だって、あなたと舞ちゃんは・・・」
「おいコラ熊井、なんで舞が巻き込まれるんでしゅか」
「だって、どう見てもハンターの目をしてるし」
「まあ、そうなのかしら?もう、舞ったら・・・」
「なにがそうなのかしら?だよ!ちしゃとは何でも信じすぎ!」


あらあら、うふふふ。楽しくなってきちゃった。
私、何でここに呼ばれていたんだっけ?こんな生徒会漫才をライブで拝見できるなんて、なかなかないことだ。


「・・・よし、熊井ちゃんの気持ちはよくわかった」


しかし、いつまでもこう、とりとめのないやりとりを続けていられないのもまた事実で。
須藤生徒会長が、キリッと表情を引き締めて、ひとつ咳払いをした。

「いい?熊井ちゃん。私はこれから、物事の時系列を整理するために、自分が得ている情報を、一個一個言っていくからね。
ただし、誰かを責める意図はないから。何か気になることがあっても、まずは最後まで、私の話を聞いてくれる?」


――やるな、まーさママ・・・

萩原先輩の唇が、そう小さく動いた。


「うーん、でもぉ」
「誰が悪いかよりも、未来の事を考えるのが大事だからね。フクちゃんの言うとおり!」

ね?と私にウインクしてくる須藤先輩。・・・ああ、何て器の大きい・・・。

「んー、わかった!まーさがそういうなら、うちもそう思う!」

この通り、熊井さんも無条件で納得してくださったみたいですし。
個性派ぞろいの生徒会において、どちらかといえば控えめな印象だったけれど、とんでもない。
まず、勤まらないだろう。普通の心臓の持ち主では。
これは、私のオリジナル生徒会ペディアを更新しておかなければならないみたいだ。

「じゃー・・・まず、ね。最大の争点になると思うんだけど」

須藤先輩は起立して、小もぉさんたちのところまで歩いていった。


「宮本さんのコートを踏んづけて、足跡をつけたって、あなたたち。
本当なの?」
「それは・・・」

佳林ちゃんがぎゅっと目をつぶって、千聖お嬢様の腕にしがみついているのがわかった。

誰も何も言わない。
あんなに怒っていた遥ちゃんも、熊井先輩も(こちらはもしかしたらただ単にもう飽きt)。

じっと待つという、須藤先輩の姿勢に、みんなが無意識に倣っているかのようだった。



「・・・コートは、私が踏みました」

やがて、小もぉの中で、背の高い子がおずおずと手を挙げた。

「ほら見ろ、やっぱり・・・」
「遥ちゃん、だめよ」
「あべしひでぶ」

即座に手刀を御見舞いして黙らせる。
一瞬怯んだ小もぉの彼女も、それで再び口を開いた。

「でも、でも、わざとやったわけじゃないんです。
放課後、帰る準備してたら、教室の後ろのコート掛けから、佳林のコートが落ちちゃって。
それをうっかり踏んでしまったんです」

――嘘くせぇ。
遥ちゃんが私にだけ聞こえるぐらいの声でつぶやく。


「そっか。でも、それなら手ではたいてあげれば、その程度の汚れは落ちたんじゃない?」
「それは・・・」


「・・・佳林に、あなたたちの気持ちに気がついてほしかったということではないかしら」

そして、しばらく口をつぐんでいたお嬢様が、小もぉさんたちに目を向けた。
いつものふわふわした声。だけど、どこか重く響いて、一番の部外者の私でさえ、少し緊張を覚えた。

「どうなのかしら」
「は、はい!」
「そう・・・。
それで、その思いは、じゅうぶんに伝わったようだけれど。佳林はさっき、私みたいな頼りない人間の前で、泣いていたわ。これで満足できたのかしら」


一瞬で、室内の空気が凍った。
怒鳴るでもなく、表情も変えずに淡々と喋り続けるお嬢様。

「故意ではなかった、と言うのだから、そうなのでしょう。
だけどね、佳林はあなたたちのことを、大切な友達だと思っているのよ。
それが、どういうことなのかわかるかしら」
「そ、そうだそうだ。お前らは、佳林の心を踏んづけたんだからな。わかってんのか(裏声)」


――あらあら、遥ちゃんたら、健気な子。

当の本人たちはというと、すでに小もぉさんたちは全員青ざめて、ひっくひっくとしゃくりあげてしまっている。
無理もない。
遥ちゃんの追撃はともかく、お嬢様からの厳しいお言葉。そして、殺戮ピエロが降臨した状態の萩原さんにまで睨みつけられて、並みの人間じゃ、こんな状況は耐え切れないだろう。

佳林ちゃんはというと、涙目になって、うつむいている。
プライドの高いタイプであろう彼女の心境を想像すると、少々可哀想な気もするけれど・・・ふわふわと綿雲みたいに穏やかな千聖お嬢様に、ここまで庇われるというのは、それはそれでうらやましかったり。


「まあまあ、それぐらいにしてあげなさい」

そんな中でも、須藤生徒会長は、やっぱりあくまで落ち着いていた。こんな状況なのに、笑っている。
それは不謹慎とかじゃなくて、そうすることで、少しでも空気を柔らかくしようとする思いやりのように感じられた。
ちなみに熊井先輩は寝・・・深く目を閉じて、睡m・・・いや、何かじっくりと考えている御様子。


「・・・ごめんなさい」
「気にすることないっすよ(裏声)」

生徒会長の言葉で、千聖お嬢様もいつもの柔らかさを取り戻したようだった。



TOP