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お願い? 何だったっけ?

思い当たることが無く一瞬考えてしまったのだが、僕のその反応を見た舞ちゃんの眉間がピクピクと動いた。
と同時に舞ちゃんの目尻が釣りあがっていく

恐怖心が僕の脳を活性化したようだ。
思い出した。
熊井ちゃんがお嬢様に対しておかしな事をしないように注意して見張ってろと言われていたのだ。

「も、もちろん憶えていますとも。舞ちゃんのお願いを僕が忘れる訳が無いです。熊井ちゃんのことですよね」
「憶えてるんならさ、ちゃんとそれを実行しろよ」

舞ちゃんは眼光鋭く僕を睨みつけてきた。
抑揚の無い言い方が、よりいっそう恐ろしさを際立たせる。
その恐ろしさは、その、こういう表現はどうかとも思いますけど、ち○こが縮み上がるほどだった。
そんな目で見られるなんて、快感・・じゃなくて、極度の緊張感で体中の血液が逆流したように全身がざわついた。


「この前ちしゃとと熊井ちゃんが二人で出かけたんだってよ。そのとき何をやってたんでしゅか」

「なんで熊井ちゃんから目を離してたんだよ。使えないな本当に」

舞ちゃんからの叱責が続く。
これ、快感・・じゃなくて背筋を寒気が襲ってくる。


「あの日、帰ってきた千聖が舞に聞いてきたんだよ」

リ*・一・リ<大きな熊さんから聞いたのだけれど、「ほすとくらぶ」というのはどのようなクラブ活動なのかしら?

「うちの学園にはそのようなクラブは無いのね、なんて言ってるんだけど、これどうするの?」

僕より背の低い舞ちゃんなのに、僕にはそれが見下ろしてくるように感じられた。
その視線はそれはそれは冷たいものだった

「本当に熊井ちゃんのやることをちゃんと見ててくれてるのかな」
「いや、その、見てはいるんですけど、彼女のやることを止めるのはなかなか難しくて・・・」
「言い訳は不要。過程については言及してないから。求めてるのは結果だけ。
止めるのが難しいって分かってるんなら、その分の努力をするんでしゅね」


そうやって言うのは簡単なんですけどね、相手は熊井ちゃんなんですよ・・・
なんて思うけど、もちろん舞ちゃんの言うことに反論するようなことはできない。
舞様の言うことは絶対なのだ。でも、でも・・・・

泣きそうな気分になってきた僕に、舞様が発言を補足するように言葉を続けた。それは意外な例えだった。

「例えば凄い選手がいて、そのシュートを止めるのが難しいのなら、その選手にシュートを打たせないように密着マークするのが基本なんでしょ」

なるほど!
さすが天才舞様。考えが行き詰っていた僕にわかりやすく解説して下さるとは。

「なるほど、分かりやすいです! いや、舞ちゃん、サッカー詳しいんだね!」
「このところワールドカップ三昧のちしゃとに毎日つき合わされてるから、ってそんなのはいいから。言わんとすることはそういうこと」

舞様の今の解説は、僕には手を差し伸べてきてくれたように感じられた。
その言葉に僕は俄然士気が高まる。

「四六時中でも熊井ちゃんに張り付いて見張るぐらいのことはしろよ。わかった? わかったら返事!!」
「は、はいっ!!」

直立不動で返事をする。
いま僕は舞ちゃんから、熊井ちゃんとお嬢様がお出かけした時に何をやってたのかについて咎められた。

そうか、あの時、お嬢様は熊井ちゃんと一緒にお屋敷に帰ったんだもん。
舞ちゃんはお嬢様が熊井ちゃんと2人だけで出かけてたと思ってるんだな。

「あ、あの、舞ちゃん?」
「なんでしゅか?」

真顔の舞ちゃん。
馴れ合いは一切許さないというようなその表情。
こ、怖い。

どうやら、あの日熊井ちゃんと会うまでは僕がお嬢様と一緒だったこと、バレたりはしていないようだ。
僕がお嬢様と一緒にいたこと、しかも2人っきりで。
そんなこと舞ちゃんに知られたりしたらどうなってしまうんだろう。
ここは黙っていたほうがいいのかな。

でも、なんとなくそれは舞ちゃんに対して不誠実のような気がしてならない。
ここでそれを黙っていたりしたら、これから僕はずっと後ろめたい気持ちを抱えることになる。


だから、僕は舞ちゃんに向かって、こう言った。

「・・・実は、熊井ちゃんと会う前からお嬢様とご一緒してました。だから、その場には僕もいたんです」

「それで、熊井ちゃんのやることを止めることが出来ませんでした。能力不足でごめんなさい」

あえて感情を押さえ込んで余計なことを語らず、事実関係のみを淡々と舞ちゃんに述べる。

僕は覚悟を決めていた。
舞様に罵倒されるだろうということを。(それはそれでとても幸せだったり)

ところが、舞ちゃんは僕のその告白を聞いても、それほど怒った様子にはならなかった。
それどころか、むしろ正直に告白した僕のことをちょっと見直すようなそぶりさえ見せてくれた。
生命の危機まで覚悟していた(暴力とかそれはそれでry)僕は、その反応に極度の緊張から開放される。

やはり人間正直が一番だ。
誠意を見せればきっとそれは通じるんだ。
そんな僕の告白に対して、軽く頷いたように見えた舞ちゃんが言う。

「うん、そういう正直な態度を取ったのは評価してあげてもいいでしゅね」

が、僕の告白を評価してくれたのは、それはほんの一瞬だけだった。
次の瞬間には舞様の表情に戻ってしまった舞ちゃん。

「でも、ちしゃとが一人なのをいい事に、店に引っ張り込んで一緒に食事とか、そんなの許されるとでも思ってんの? 俺の嫁と食べるそばは美味しかったでしゅか?この間男が」

何かすごく語弊のあるその表現・・・ (そうか、栞ちゃんの真似をしてるんですよね。間違いない)
いや待って・・・ そば屋とか、何故それを・・・

「ホームで電車を待ってる間も、ずっと見つめたりして。 俺 の 嫁 を 」

な、なんでそんなことまで・・・


「ひとつ教えておいてあげる。人様の嫁と2人っきりで出かけるとか、そんなの社会通念上許されることじゃないから。それぐらい分かってるよね」

「まぁ、正直に打明けたことで今回は執行猶予にしておいてあげるけど」

そこで一旦言葉を切った舞様。真正面から僕を見据える。


「猶予は一回だけ。二度目は、無いから」


こ、怖い。本当に怖い。
でも、、この恐怖感を味わうのは久しぶりじゃないか。
舞ちゃんと向き合えたからこそ感じられるこの感覚。
それを感じられるのはとても幸せだなあと、ひきつった顔の裏でそんなことも思ったり。


固まってしまった僕を、舞ちゃんがまじまじと観察するように眺め回す。
その彼女の視線がある一点で止まった。

「そのカバン、ずいぶんと賑やかでしゅね」

彼女が言ってるのは、僕のカバンに付けてあるアクセサリー類のこと。
舞ちゃんとお揃いにしてるポッチャマの小さいぬいぐるみ。
前に道案内をして知り合ったお婆ちゃんから貰った学業成就のお守り。
そして、つい最近付けたのは、この黄門様の印籠のキーホルダー。
これはあの日、黄門展のグッズ売り場でお嬢様から頂いたもの。


お嬢様が水戸黄門好きだということぐらい、舞ちゃんが知らないはずがない。
その水戸黄門のグッズを僕が着けているということ。
これ、やっぱり舞ちゃんには分かっちゃったかもしれない。

お嬢様から頂いたものを僕が持っているんだ。
そんなの、舞様に没収されかねないことかもしれない。
だが、それにも関わらず舞ちゃんは、そんなことを言い出したりはしなかった。

舞ちゃん、僕がそれを持つことを許してくれるんですね。

やっぱり優しい女の子なんだ、舞ちゃんは。
僕のことを多少は認めてくれたからなのかな。
だとすれば、僕はその舞ちゃんの寛容さに対して、感謝の気持ちで一杯だ。


気持ちが昂った僕は、つい舞ちゃんに対して心のうちを真っ直ぐに伝えたくなってしまった。
思わず、こんなことを口走ってしまう。

「僕は舞ちゃんとお嬢様が仲良さそうにしているのを見るのが、一番好きなんだと気付いたんです」

言ってから気付いた。
唐突すぎるよね。何を言ってるんだ、僕は。

舞ちゃんがじっと僕の顔を見つめてくる。
心の底まで見抜こうとするような、その視線。
でも、僕は本心を言葉にしてるんだ。だからその視線で見られても、動揺することはなく言葉を続けられる。

「この気持ち。これは、本当なんです!」

舞ちゃんは言葉を挟んだりせず、黙って僕の言うことを聞いてくれた。

「お嬢様と一緒のときの舞ちゃんの楽しそうな笑顔を見るのが、僕は大好きなんです」

それは本当にそう思うんだ。
あの笑顔を引き出せるのはお嬢様しかいないんだから。
でも、いつかは僕だってきっと・・・

「僕はちさまいのカップリングが一番好きだし、そして実際2人が一番のお似合いカップルだと思ってるんです。
ちさあいとかなきちさとか言う人もいますけど、やっぱり僕はちさまい最強論者のちさまい厨なので」

舞ちゃんは僕の言ったことをしっかりと聞いてくれた。
僕の言うことをこんなにしっかりと聞いてくれるなんて、嬉しかった。

そもそも学園の人たちって、揃いも揃って人の言うことをちゃんと聞かなさすぎでしょ。
人の話しをしっかり聞いてくれる学園の人は、お嬢様と舞ちゃんの2人だけと言ってもいいかもしれない。
まったく、どうなってるんだよry

閑話休題。
僕の言ったことをしっかりと聞いてくれた舞ちゃんは、僕に対してこう答えてくれた。

「ちしゃとと舞のことをそんなに思ってるなんて、なかなか見所がありましゅね。物事の本質を見抜く力をちゃんと持ってるんだ」

僕の言ったことに満更でもなさそうな顔の舞ちゃんが僕にそう言った。

「まぁ、これからもその気持ちを大切に持ち続けることでしゅね」


舞ちゃんが僕のことを認めてくれるようなそんなことを僕に言ってくれるのは嬉しかった。

でも、今のは自分で言い出したことではあるけれど。
だけど・・・


舞ちゃん・・・ 僕の気持ちは分かってるんだよね・・・
それを分かってて、そんなことを僕に言うなんて・・・


舞ちゃんは、残酷だな。


でも、さすが舞様だと思って。
そのような扱いを僕にしてくれることに嬉しさを感じるのもまた確かなのだ。
だって、中途半端な優しさで傷つけられたりしない分、僕はまた笑顔を求めて走り出すことが出来る。
これこそ、舞ちゃんの僕への愛情じゃないですか!(脳内)


が、舞様の言葉はこれで終わりでは無かった。
次に舞様が言ったこと。

「これからもその姿勢を大切にしていれば、何かいいことがあるかもしれないでしゅよ」

ニコリともせずに舞様が言ったその言葉。
これはどういう意味だったんだろう。
いいこと、って、いったい何を意味しているんだろう。


「用事は済んだみたいだから、舞はこれで帰る。じゃあね」
「は、はい、さようなら。舞ちゃん。今日はありがとうございました」

去り際に僕の言ったことに軽く手を上げてくれた舞様、思い出したように振り返って言葉を付け加えた。

「あ、あと、あんまりなっちゃんをからかったりするなよ。ほどほどにねって、これは桃ちゃんにも言っておいて」


舞ちゃんの後ろ姿を僕はずっと見送っていた。
舞様の姿が見えなくなって、さっき舞様の言った謎かけのような言葉を改めて思い出す。

(何かいいことがあるかもしれないでしゅよ)

それを僕は脳内で何度も再生してみるのだった。



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