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すっかり遅くなってしまった。が、一応あのカフェへと向かう。

今日はもう行くのをやめようかとも思ったが、そこにいるであろう熊井ちゃんに、席取り出来なかったことを一応ひとこと謝っておこうかなと思ったのだ。
僕の真面目な性格がこんなところにも現れている。

そうは言っても、何の対策も取らずにノコノコと熊井ちゃんのところに行ったら、それこそ生命の危機だ。
だから、僕はあらかじめ調べておいた抹茶マシュマロを売ってる店に急ぎ立ち寄って、それを入手した。
頼まれていた抹茶マシュマロの他に、抹茶大福というものも見つけたのでそれもあわせて購入する。


動物というものが一番怖ろしい状態となるのは、それは腹をすかせて気が立っている時だ。
満腹でさえいればライオンだって決してシマウマを襲ったりはしないらしい。

うん、だから、買ってきたこの抹茶のお菓子をまず彼女に食べてもらおう。
我が身の安全の為なら、これくらいは安いものだ。

それらが売り切れてたりせず、ちゃんと購入することが出来たということ。今日の僕には運が味方についていることを感じる。
良かった。きっと今日舞ちゃんと会えたということが、そのように僕に運を引き寄せているに違いない。

大丈夫だ。今日の僕にはツキがあるんだ。気持ちをしっかり持って臨めば問題ない。命までは取られはしないから(たぶん)。
さっきまで感じていた幸福感とこれから起こるであろう恐怖感に、気分が激しく乱高下する。


そんな気分のなか、いよいよカフェに着いた。


舞ちゃん、僕を守ってください。


もう帰っちゃったかな、帰ってたら助かるんだけどな、なんて思いながら店に入ると、まだ熊井ちゃんはそこにいた。


あれ? でも、熊井ちゃん、一人なんだ。
新しいユニットの相方さんはもう帰っちゃったみたいだな。
熊井ちゃんが一人でいることに、ホッとしたような、残念なような。変な気分。

恐る恐る彼女の様子をうかがうと、見たところ機嫌は悪くなさそうだ。抹茶ーずの会合は楽しかったのかな。
とにかく、彼女の機嫌が良さそうなのは、僕にとっても悪い事ではないだろう。

ここに来るまでの道のり、僕はずっと恐怖心と戦っていたのだ。
熊井ちゃんに言われたことをぶっちぎって舞ちゃんと会ってたんだから。
相当激しい叱責を受けることになるんだろうな、と。
その覚悟はしてきたんだけど、そう心配するほどのことは無かったかな。

でも、油断は禁物だ。最後まで気を抜いちゃダメだ。
途中で気を緩めてしまい、それで痛い目にあったことなど今まで数え切れない。


驚いたことに、熊井ちゃんは僕の姿を認めても、その表情が怖くなったりすることはなかった。
にこやかな笑顔でこう言われる。

「もう、席を取っておいてって頼んでたのに、いないんだからー」

あれ? 何だ彼女のこのリアクションは?
ふわふわとした柔らかい空気感。なにこれ?

いま熊井ちゃんとその周りを包んでいる、この不思議な雰囲気。

そうか、たぶんさっきまで一緒にいた抹茶ーずとやらのメンバーさんの影響なのかもしれないな。
緊張感を保っている僕が拍子抜けするほど、いま熊井ちゃんの周りは柔らかい空気に包まれている。
狐につままれたような気分だが、彼女の機嫌がいいのなら是非それを持続してもらわなければ。
この絶好のタイミングで熊井ちゃんに買ってきた献上品を差し出す。

「熊井ちゃん、遅くなってごめん・・・ はいこれ、頼まれてた抹茶マシュマロ。あと、これは抹茶大福。お店で見つけたからこれも買ってきた。さっそく食べてみてよ」

ほわーっとした顔で「あげぽよ~」とかつぶやいてる熊井ちゃん。
・・・本物の熊井ちゃんなのか、これ。

熊井ちゃんさえもこんなにふわふわの雰囲気にさせてしまうとは。
抹茶ーず。の相方さん、すごい人だな。
いったい、その生徒さんとはどんな人なんだろう。俄然興味が出てきた。
なのに帰ってしまって会えなかったのは残念だった。その生徒さん、ちょっと会ってみたかったな。

熊井ちゃんの視線がテーブルの上のお菓子に釘付けになる。

「!! 抹茶大福!! よくやった!!」

輝いた目を僕に向けてくる熊井ちゃん。喜んでいただけましたか。
さ、どうぞどうぞ、早く食べて血糖値を上げてください。
さっそく大福を口にする熊井ちゃん。

「うん、抹茶大福おいしい。たまには気が利くじゃん。でも、買ってきた食べ物をお店に持ち込んだりしちゃいけないんだよー?」

それ僕のした質問だし、その質問をさえぎって買ってこさせたのはあなたじゃ・・・
しかも買ってこさせたモノを頬張りながらそれを言いいますか・・・

「えっ? 買って来いって言ったのはあなt・・・ だって抹茶ーずの会合で食べるっていうからさ・・・」
「それが分かってるなら、何でちゃんと早く来て席を取っておかないかなー」

どうやら、そのふわふわとした癒しの魔法も徐々に解けてきたみたいで。
彼女のその口調が、だんだんいつもの熊井ちゃんに戻ってきている。
真正面から僕を見つめた熊井ちゃんが尋ねてきた。

「で、どこをほっつき歩いてたのー?」
「いや、前から言ってるように、僕だって色々用事というものがあったりすr
「用事があるんなら、最初に言ってよね。そう言ってくれればそれで済むことでしょ」
「・・・・ごめん。実は後から用事が出来ちゃって」
「その用事っていうのは、うちが頼んだことよりも優先するほどの事だったの?」


「ねぇ、どうなの?」


ここに至って、ついにいつもの熊井ちゃんに戻ってしまったようだ。
目力が完全にいつもの熊井ちゃんに戻っている。
その目で睨みつけられたこともあり、その質問に対して僕は沈黙してしまった。



思うんだが、熊井ちゃんって、なんで僕の前にいるときはこんなに怖いんだろう。
だって、学園の人はどの人もみんな、熊井ちゃんのことを天然さんだけどおっとりして心優しい人だって思ってるみたいじゃないか。
こんなに怖い人のことをですよ。僕には驚き以外の何者でもない。

でも、まあ、学園のみなさんの言ってることも間違ってるとは思わないんだけどね。
確かに、熊井ちゃんって学園の人達と一緒にいるときは、とても温厚で優しい人のように見えるから。
熊井ちゃんが本当は優しい人だって言うのは分かってる。感動的な話にすぐ貰い泣きするような一面があるのも知っている。
でも、僕には全くそれを見せてくれない。ただの怖い人だ。
重ねて言うが、なんで僕のときだけ・・・



桃子さんが前に言ってたっけ。

(そりゃ、学園の生徒相手のときと男子が相手のときでは、態度も変わるでしょ)

そういうものなのかなあ。理屈では分かるんだけど。
それにしたっていくらなんでも僕には怖すぎじゃないか? どうすればこんなに恐ろしい人になるんだろう?

(くまいちょーって優しい子だよ。でもそれは相手も優しい人の場合ね。だから、もし優しくして欲しいって思ってるんなら、少年もくまいちょーに優しくしてあげればいいんじゃない?)

桃子さんはそう言ってたけど、腑に落ちない。
だって、僕は熊井ちゃんに対して、少なくとも優しくしていないなんてことは無いと思うんだけど。

いま目の前で僕を睨みつけているこの熊井ちゃんを見ると、僕はつくづく疑問に思ってしまうのだ。
こんなに穏かで心優しい性格の僕に対して、目の前の大きな熊さんはまるで殺し屋のような目で僕を見ている。

ね?おかしいでしょ・・・



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