「あっ・・・ぶなかったねー!ももと梨沙子にバレるとこだった!」
「本当ね。皆さんのおかげで、2人とも気づかないでくれたみたいだわ。」

あっはっは
何言ってんだうちのリーダーとお嬢様は。どう考えても千聖がおかしいのはバレバレだったじゃないですか。
メンバー全員、なんとも言えない微妙な表情で、あいまいに笑っている。

まあ、ももちゃんはおそらく黙っていてくれるだろう。頭のいい彼女のことだ。妹のように大切な千聖をわざわざ苦しめるようなことはしないと思う。
あの態度だと梨沙子にも口止めしてくれそうだし、ベリーズ全員に千聖の今の状態を知られることはなさそうだ。

「えりかちゃん。」
ニコニコ笑いあう舞美と千聖をぼんやり眺めていたら、隣になっきぃが腰を下ろしてきた。

「まあ、よくわからないけど上手くいってよかったね。」
「・・・ねえ、何かえりかちゃん冷たい。千聖の件に関して。」
なっきぃはちょっと拗ねたような顔で、私を見上げてきた。

「私は千聖と舞ちゃんの揉め事を悪化させちゃったからさ、逆に気にしすぎてるのかもしれないけど。
でもえりかちゃんだって、千聖とはずっと仲良かったじゃない。その割りに、千聖がお嬢様になってからあんまり関わろうとしてない。最低限の協力だけしてるって感じ。」


あー。
なっきぃはこういうところがなかなか鋭い。



お嬢様化を目の当たりにした当初は、千聖の仕草や言動態度全てがおかしくて、毎日笑いをこらえるのが辛いほどだった。
まあ面白いし、こんな千聖もありっちゃありだよね、ぐらいにしか考えなかった。

だけど。

ある日、デジカメのデータを整理していた時、私の隣で千聖が笑っている写真に目が止まった。
いつ撮ったのかも忘れてしまったぐらい何気ない1枚だったけれど、2人ともぶっさいくなほど顔をクシャクシャにして笑っている。

「うーわ。ひどい顔。」

つられて笑った後、これはいらないかなと削除ボタンに手をかけた時、ふと「もう千聖とこういう顔で笑いあうことはないのかもしれない」と思った。


鳥肌が立った。

仮に元に戻らなくても、お嬢様千聖とならうまくやっていける気がしていたけれど、もしかしてそれはかなり甘い考えなんじゃないのか。
あの千聖は、その千聖とは違うんだよ、えりか。


作業を中断して、ベッドにダイビングする。ゴロゴロ寝返りを打ちながら、これまで千聖とすごしたたわいもない時間を、頭に思い浮かべた。

例えば楽屋で2人っきりで昨日見たドラマの話をしたり、
待ち時間に2人並んでボーッと空を眺めたり、
同じ歌を同時に歌い出して大笑いしたり、

そんなとりたてて大事でもないような、なんてことないエピソードが次々とよみがえってくる。


お嬢様の千聖も、きっとこういう何気ない時間を私とすごしてくれるとは思う。
でも、もうあの私たち2人だけの独特のノリではないんだろうな。

そう思うと、じわじわと寂しさがこみ上げてきた。


「め~ぐる~季節~・・・愛はときに~・・・」


無意識にこの歌が唇をついて出た。

「・・・なくしそうに~・・・なったときに・・・・はじめて気づ・・・ウゥッちさとぉ~」


いや、別に千聖に恋してるわけじゃないんだけれど。

歌詞のほんの一部分に心が揺れて、情けないことに涙が出てきた。
ちょうど女の子の日まっ最中で情緒不安定だったこともあり、心配したお姉ちゃんがお茶を持ってきてくれるまでわんわん泣いてしまった。



そう。これが原因で、私は可愛くて大好きだったこの曲を聴くと、今でもちょっと切ない気持ちになる。





「ちょっと、話聞いてるー?」
「ん!ああ、ごめんね。何か考え込んでた。・・・別に冷たくなんてしてないよ。心配しないで。」

なっきぃの肩に手を置いて、いきおいよく立ち上がる。
「もーえりかちゃん・・・もうちょっとなっきぃのこと頼ってよぅ。」

なっきぃのぼやきは聞こえなかったふりをして、メイクの準備を始めることにした。
ごめんね。

まだこの気持ちは、誰にも触れられたくない。



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最終更新:2011年02月08日 06:53