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寮の食堂で朝食を食べ、お屋敷へ赴くと、何となくいつもと様子が違っていた。

「おはよー、えりかちゃん」
「あ、おはよー。・・・ねえ、今日ってなんかあるの?」

制服姿の栞菜。
私からの問いかけに、軽く首をかしげる。

「何の話?学園?」
「じゃなくて、お屋敷。なんだろう、ソワソワしてない?気のせいかな」

いつもどおりちゃきちゃきと廊下を雑巾がけしているめぐぅはともかく、あの気弱そうな若い執事さんまで、真剣な眼差しで、何やらメモに目を落としている。


「んー・・・旦那様たちが帰ってくるとか?おいオメー、何バタバタやってんだよ。お嬢様が落ち着かないだろうが」
「ひぎぃ!そう言われましても・・・不手際があっては岡井家の評判に関わることですし」
「ああん?」

さっそくチンピラモードの栞菜に絡まれた若執事さん、胃を抑えながら恨めしげな視線をこちらへ向けてきた。


「何わけのわかんないこと言ってんだかんな」
「あれ・・御存じないんでしょうか。昨日執事長から矢島さんにお話したと伺ったのですが」

少し考え込むような顔をしたあと、若執事さんはオホンと咳払いをして、交互に私たちを見た。


「今日は近くにお住まいのお嬢さんたちが、夕方から職業体験でお屋敷にいらっしゃるんですよ。1泊なさる予定になっています」

――いや、聞いてない。全く聞いていない。
舞美のやつめ、相変わらず伝達ミスが多いんだから。話聞いといてよかった。


「ウチら、何か気をつけることあります?」
「いえいえ、梅田さんは普段どおりになさっててください」
「梅田さん“は”?」

ギロリと、栞菜の大きな目が鈍い光を放つ。


「あばばば・・・ですから、あのですね、これは地元の皆さんとの交流会のようなものですから、問題のないようにしたいんですよ」
「はーん?オメー、参加者の中に美少女がいたら、あたしが暴走するとでも思ってんだろ」
「だって、今までのことを考えれば・・・」
「まったく、見くびられたものだかんな。この世界のアリカンともあろう者が、千聖お嬢様を悲しませるような真似をするとでも?」
「え・・・ということは」
「まあ、当然ハッスルハッスルするかんな!世の中の美少女はみんな俺の嫁!ガハハハ」
「あぁ~・・・」


大丈夫大丈夫、執事さん。
栞菜はこれで結構人見知りだから、言うほど大胆な行動には出られないはず。
それに、こういう軽口を叩いてるっていうのは、信頼してるって証拠だと思うし・・・んん?
ということは、もしかしたら若執事さんと栞菜が将来的に付き合っ・・・ええもうそんなどうしよう!えりか心の準備できてないっ!


「・・・えりかちゃん、またくだらない事考えてるでしょ。この恋愛脳が」
「てへぺろ」

ま、これ以上突っ込むとロクなことにならないのは経験上わかっているし、ここらで一旦口を噤んだほうが良さそう。

「あら、ごきげんよう、えりかさん」
「おはようございます、千聖お嬢様」

そうこうしているうちに、広間の大階段から、お嬢様がしずしずと下りてきて、私に可愛らしい笑顔を向けてくれた。


「今日のリップはオレンジ色ですね。ラメが入っててかわいい」
「あら、ウフフ。えりかさんはメイクを変えるとすぐ気がついてくださるから、嬉しいわ」


高等部に進級してからというもの、お嬢様は急激に大人びて見えるようになった。
今までも身だしなみはきちんとしていたけれど、許容範囲のオシャレ(ケロキュフッ)も嗜むようになって、整ったお顔立ちをより華やかに魅せている。


「ふふん、ちしゃとったら、お客さんが来るからって張り切ってるんだよ。
放課後なんだから、今からおめかししたって意味ないのに」
「もう、舞ったらフガフガ。早く学校へ行きましょう。えりかさんも、お気をつけて」
「ハァーンお嬢様ぁん、かんなもご一緒するかんな」


・・・まあ、舞ちゃんたちのおかげ(せい?)で、中身はそんな、いきなり楚々としたレディになったりはしてないんだけれど。いつものふわふわお嬢様。


「では、ウチもそろそろいきまーす。お仕事、がんばってくださいね」
「はい、御丁寧にどうも。梅田さんもよい一日を」


はぐれ(ryさんたちがかかわらなければ、普通の好青年風な若執事さんと丁寧に挨拶を交わすと、私は寮へと直行した。
その勢いのまま、ベッドにダイブ。・・・ふっふっふ、今日の講義は午後からなのだ。たっぷり二度寝できる。
ああ・・・高等部までと違って、自分で時間割を組み立てられるのが素敵。
服装もなっきぃ委員長の指導が入らないし・・・あれ、てか今日の課題・・・ああ眠・・・

* * * * *

「やってもうたあああぁあ!!」


絶叫とともに、寮の大階段を駆け下りる私、梅田えりか。
現在、時刻は16:40。はい、突っ込まないでください。つまりですね、二度寝がですね、携帯のアラームがですね、なんというかですね、


「もー、やばい、どーしよー」


動揺のあまり、右手にキティちゃん抱きまくら、左手に携帯という不審な出で立ち。
ロビーまで走りこんだところで、漸く自分の置かれている状況を理解して、へなへなとその場に座り込んだ。


「・・・もー、どうしてウチってこうなんだろ」


寮長なのに、ドジで遅刻魔で泣き虫で・・・あ、やばいまた泣けてきた。
いっそ、実家に戻って暮らしたほうがいいんだろうか。寮長は舞美に任せて。
そんなネガえりかのまま、ソファに伏せっていると、ふいに後ろからトントンと肩を叩かれた。


「なっきぃ?悪いけど、ウチは今失意のズンドコにいるんだよ。少しそっとしておいてくれると嬉しいな」
「・・・まぁちゃんはなっきぃじゃないです」
「んん?」

聞きなれないその声。
顔を上げると、これまた見慣れない顔が、私を至近距離でじーっと見つめていた。


「えええ!?何?誰?」

うちの学園のものじゃないけれど、その濃紺のワンピースタイプの制服には見覚えがある。
真野ちゃんが以前生徒会長をやっていた、姉妹校の初等部のものだ。
利発そうな顔をしている。勉強めっちゃできそう。切れ長の目と、キュッと引き結んだ唇に、どことなく近寄りがたい雰囲気を覚えた。


「えっと、寮に用事でもあるのかな?」
「特にないです」
「え・・・あ、そ、そうですか」

――じゃあ、一体何しに来たんですか。


「名前、教えてくれる?」
「名前。まぁちゃんです」
「え?・・・いや、あだ名じゃなくて」
「・・・佐藤」
「あ・・・はい」


やばい。変な汗かいてる、ウチ。
噛み合ってる様で全然噛み合ってない会話。見るからに賢そうなのに、全然話が伝わらない、この感じ。あれだ、まるで、某大きな熊さんのような・・・・・


「まぁちゃん、いたいた!」

その時、天の助けとばかりに、入り口の大扉が開かれた。


「失礼致します」

生真面目に一礼したその人は、ずんずんと此方へ向かって歩いてくると、「顔近すぎや」とまぁちゃんさんの肩をぐいっと引いた。

「すいませんね、ちょっと目を放した隙に。ほら、マサキもちゃんと謝って」
「はーい。こんにちはー」
「違うやろ」

えっと・・・お姉さんでしょうか。
顔立ちだけならキリッとしている妹さん(?)とは対照的に、犬顔でほわーんとした印象の彼女。
だけど口調は結構ビシビシ系で、こちらはこちらでギャップのあるタイプのようだった。


「えーと・・・それで、どういったご用件で?」
「ああ、スミマセン。えっと、岡井さん家に伺ったんですが、入り口はこちらで?」
「いえ、ここは学生寮です」

そう答えると、お姉さん(仮)は、目を丸くして軽くため息をついた。


「すごいなぁ。学生のうちからこんなとこ住んで、感覚狂っちゃわない?」
「えっと・・・」
「やっぱりお金持ちさんは寮って施設の捉え方も違うんかな、すごい考えやな」


おお、なかなか、突っ込みの厳しい・・・。
私はともかく、気の強いタイプとかち合ってしまったら、ちょっと大変な事になるんじゃないだろうか。例えば・・・


「えりかちゃん、なにしてんの?」
「おお、噂をすれば!」
「噂?何、舞の話?なんでよ。てか何?お客さん?」


悪い予感というのは当たるもので、眉間に皺を寄せながら入ってきたのは、わが寮随一の戦闘民族・エリートサ○ヤ人の舞様だった。

「えっとね、舞ちゃん・・・」

なるべく穏便に、と説明をしようとしたところ、背後から“ドゴゴゴゴゴ”と聞きなれない音が響き渡ってきた。


「うええ?」
「いえー、ドラムー!」

見れば、マサキちゃんは飾り棚を勝手に開け、中にある銅製の鈴を、どこからか取り出したドラムスティックでカンカンバチバチとやり始めていた。


「こら、何やってんの!」
「あー、まぁちゃんのドラムスティックだよ!」
「そんなん聞いてへんわ!」


――もう、なんなの、この人達・・・

私は半泣きで、舞ちゃんの様子を伺った。


「・・・あれ?あいか?」

意外なことに、舞ちゃんは特に怒っている様子はなかった。
それどころか、渦中の犬顔さんのところへ小走りで駆け寄っていく。

「あいか?あいかだよね?」
「おー、舞!久しぶりやね!」



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