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鬼の萩原が笑っている。
それはもう、デレデレと、ニコニコと。
そのお隣には、見慣れぬ2人のかわいこちゃん(死語)。


「今日から1泊、お世話になります」

生真面目に挨拶する愛想のいい人。年上・・・かな。
ほんのり関西なまりの、可愛い声が特徴的だ。

今日、ご近所さんが職業体験でお屋敷に泊まりにくるっていうのは、えりかちゃんから聞いて知っていた。
めぐぅが普通に仕事の説明なんかをして、軽くお手伝いをして・・・そういう、なんの変哲もないイベントになるはずだったんだけれど。この、萩原の様子を目の当たりにするまでは。


「あいか、元気だった?この辺の学校通ってるの?舞はねー、林道の奥の女子校なんだけど」
「あは、めっちゃ喋るやん。舞、そんなキャラやったっけ?」


トレードマーク(?)の仏頂面はどこへやら、舞美ちゃんやえりかちゃんたちお姉ちゃんズにも見せないような、甘えた顔をしている。
寮のみんなは、あきらかに戸惑っている。あの愛理までもが、舞ちゃんを凝視しすぎて、お隣のなっきぃのケーキにフォークをブスリと刺してしまうという失態を見せている始末。


「えーと・・・それで、光井さんと舞ちゃんははどういう関係で?」

そんな中、このお客様たちを連れてきたえりかちゃんは比較的冷静で、寮生全員が疑問に思っていることをストレートに聞いてくれた。


「キュフフ、舞ちゃんがそんなにキャッキャしてるのって珍しいもんねぇ」
「えー、そう?別に舞普通だけど」

そういいつつも、光井さんに笑いかける萩原・・もとい、舞ちゃんはやっぱり嬉しそうで。


「あいかはねー、舞が初等部のとき、パパとママに強制参加させられた、サマーキャンプってやつ?子ども会みたいなの。そのとき、一緒のグループだったんだよねー」
「この子全然、周りの子に馴染もうとしないから。自由行動んときも、勝手にどっか行こうとするし、結局うちがずーっとついて回ってな」
「もー、あの時のあいか、マジでママみたいだったもん。すごい注意してくるしさー」

この天邪鬼な超絶ツンデレ娘をてなづけるとは、光井さん・・・かなりのヤリ手とみた。
それにしても、なんていうか、びっくりだ。
こんなにリラックスした表情は、お嬢様に見せるときぐらいしか知らない。
知らない顔を見せ付けられたような錯覚を覚えて、身勝手にも胸がざわめく。

落ち着ける相手がいるのはいいことだけど、でも、でも・・・・・私だっていつも一緒にふざけてる仲間なのに。こういう時、一人っ子特有の、自分の嫉妬深さが嫌になる。

きっと、弟や妹の多い千聖お嬢様なら、こんなおかしな感情は持たないだろう。
そう思って、傍らのお嬢様に顔を向けてみる。


「・・・お嬢様?」

深い茶色の瞳をちらちらと隠すように、浅い瞬きを繰り返しながら、お嬢様は舞ちゃんと光井さんの2人をぼんやり見ていた。
快不快を感じさせる表情ではなく、ぼーっとした・・・そう、例えて言うなら、まだ夢から覚めていない、早朝のふにゃふにゃした寝起きのお顔(添い寝係最高!)に近いような・・・。


「お嬢様、どうしたんだかんな」
「きゃんっ」

わきばらをモニモニとつまむと、お嬢様は飛び上がってこちらを睨んできた。・・・ああ、かわゆい。

「なにをするの、栞菜ったら」
「だって、お嬢様ったら、なんだか変なお顔でハギワラを見てるかんな」
「まあ・・・。そんなことはないと思うけれど」

そう言って微笑を浮かべるお嬢様。・・・基本的に、喜怒哀楽がわかりやすいタイプだとは思うけれど、こういう時のお嬢様は、何を考えているのかよくわからない。

「舞が嬉しそうな姿を見るのは、私も嬉しいわ」
「そうですか。ならいいんです」

そこで一瞬会話が途切れ、お嬢様はお隣に座る女の子のほうへ向き直った。
にこにこしながら、お茶請けに出されたケーキを食べている。
マイペースそうな子だな。舞ちゃんや光井さんがお話しているのとか、ちゃんと聞いてたんだろうか。


「ああ、そうだわ。マサキさん。初めての体験で緊張なさっているかもしれないけれど、わからない点は何でも従業員に質問してちょうだいね」
「ケーキおいしいです」
「ウフフ、それは料理長と執事の力作で・・・」
「じゃあ、まぁちゃんのお母さんのパウンドケーキ、食べますか?でも今日は持ってきてないです」

お嬢様との会話も、ふわふわしていて通じ合ってるんだかなんなんだか。まあ、楽しそうだからいいんだけどね。


「失礼します。準備が整いましたので、光井さんと佐藤さんはこちらへ」

しばらくすると、めぐぅが恭しく一礼して食堂へ入ってきた。
いつものゴテゴテ金色ヘアクリップ(夏焼さんとおそろいらしい)は封印し、清楚なリボンバレッタで髪をまとめたそのお姿は、お若いのにメイド長のような風格が漂っている。

「本日、職業体験のお手伝いをさせていただきます、村上と申します」

大役を任されると、ぐいっと背伸びしてしまういつものめぐぅ。単なる体験イベントなんだし、ほんわか楽しく・・・なんて考えは、きっと彼女の中にはないのだろう。


「ご歓談中に恐縮ですが、そろそろ準備をお願いします。あちらに仕事着を用意いたしましたので・・・」
「えー、まぁちゃんまだこれ食べてるから待っててね」

めぐのこめかみが、ぴくっと引きつった。

「ほらほら、お代わりまでもらったんやから、もうええやろ。迷惑かけないの」
「しょうがないですねぇ。まぁちゃんいってきまーす」

だけど、鬼軍曹大爆発の前に、光井さんがサッと動いて、半ば強制的にマサキちゃんを椅子から引っ張り上げた。

やるな、この人・・・萩原が一目置いてるだけある。結構キレ者なのかも。


「あいか、またあとでね。泊まる部屋、遊びに行くから」
「ん、あとでなー」

――ま、これで今日は萩原が添い寝の邪魔をしてくることもないだろう。

今日はたっぷりああしてこうしてやるかんな。グヒョヒョヒョ


「・・・ね、ちしゃと。後でちしゃともあいかのとこ行こ?あいかってね本当にすごくて・・・」
「ええ、そうね。素敵な方ね」

だけど、少しだけ気がかりな事。
楽しげに光井さんの話をする舞ちゃん。その顔を見つめるお嬢様の表情は、やっぱりぼんやりしているように感じられたのだった。



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