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今日みたいに衣装合わせのみの場合は、メイクさんはつかない。
私はメイクが好きだから入念にやるけれど、キュートはわりとすっぴん派も多い。
今も鏡に向かっているのは、私以外は栞菜となっきぃぐらいだ。
乳液でベースを作って、私物のファンデを塗りこんでいく。

ふと自分の顔から目線をずらすと、鏡ごしに千聖と目が合った。
にっこり笑いかけてくれたのに、私の心臓はズキンと痛んだ。
取り繕うように唇をつりあげて微笑みを返すと、目を逸らしてまたメイクに没頭した。

ああ。ヤバい。
まためーぐーるーが頭をよぎった。


千聖のことを考えると、ひどく心が乱れる。
日傘なんかさしてしずしず歩く姿を見てちょっと楽しくなったり、お嬢様の千聖のちょっとした仕草に、前の千聖の要素を見出してなぜか落ち込んだり、自分でもわけのわからない感情に振り回されてしまう。
いったい私は、千聖にどうなってほしいのだろう。

前の千聖が懐かしいといっても、舞ちゃんのようにハッキリと「前の千聖に戻ってほしい」と思っているわけでもない。

かといって愛理のように「このままでいてほしい」というわけでもない。

自分の気持ちが自分でも理解できてないのに、千聖を助けるために動くというのはなかなか難しかった。
だから少し距離を置いて、千聖を、みんなを観察する側にまわった。

必要以上に接しなければ、表向きはいつもの梅田えりかでいられる。
きっとこの胸の痛みも、時間がたてば自然に解決する。
これは千聖は関係なく、私の個人的な問題。
そう割り切っていたのに、なっきぃには見抜かれてしまっていた。

「えりかちゃん、冷たい。」

さっきなっきぃに言われた言葉が、今更胸を刺し始めた。

なっきぃはストレートに物を言い過ぎるところがあるけれど、ちゃんと本質を見抜いて喋る子だ。
おそらくある程度は、私の心情を理解してくれているんだろう。

あーあ。気をつかわせたくないから目立たないようにしていたのに、上手くいかないものだ。
この分だと、千聖自身にも何らかの変化を感じ取られているかもしれない。

「えりかさん。」

あの子はなっきぃと似た意味で、周りの変化に敏感すぎるところがある。

「あの、えりかさん。」

「あーもう、ウチ本当だめだよー・・・ってうおおい!千聖!」

気がつくと、空いていた隣の椅子に千聖がちょこんと座っていた。
驚きのあまり、上の空で引いていたアイラインがものすごい太さになってしまった。プリンセステンコーか。
「ご、ごめんなさい。私ったら、驚かせてしまって。後の方がよかったかしら。」
「ううん。大丈夫。私がボーッとしててこんな顔にね。・・・どうかした?」
「いえ、あの・・・あの・・・」

何だか様子がおかしい。胸の前に手を置いて、私の顔を覗き込んだと思ったら目を逸らす。

「大丈夫だよ。ウチ、口は固いよ?」
とりあえず千聖の口元まで耳を近づけると、柔らかい吐息と一緒に、小さな声が耳に入り込んできた。

「あ、あの、下着が・・・」
「え?うん」

「さっき、下着が壊れてしまって・・・あの、それで」


ええええ?


「ど、どうしてよ。下着って、上の方だよね?壊れたってきょにゅ」
・・・・うになりすぎたから?とは口が裂けても言えない。相手はお嬢様だ。
「それで、あの、どうしたらいいのかと思って。」

「で、何でウチに?愛理たちでいいんじゃない?」
「あ・・・ごめんなさい。迷惑ですよね。こんなこと」

千聖は悲しそうにうつむいてしまった。

「千聖、違うの。ごめん。迷惑とかじゃなくて・・・なんていうか私の問題で・・・」
嫌な沈黙が流れた。

千聖に話さなきゃいけないことはたくさんある。
でも、私の心の葛藤を、ここで千聖にすべてぶつけるわけにはいかない。
優しい千聖は全て受け止めようとして、私と一緒に押しつぶされてしまうかもしれない。


・・・よし。


「千聖。一緒に来て。見てあげますよブラでもなんでも!」
千聖の二の腕をガシッと掴んで、ドアを目指して進む。
言葉なんて、何の意味があるというのか。
ここは、うちの全力リーダーを見習うことにした。


「ちょっ、どこいくの?えり?ブラが何だって?」
「すぐ戻る!・・・あ、なっきぃ。」
「え?」
「さっきはありがとうね。」
なっきぃに、ウィンク付きで投げチューをしてみた。
返って来たオエッて声は聞こえなかったことにしようっと。



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