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「一緒に行こうよ、この大学に」

そう言って、満面の笑みを浮かべた熊井ちゃん。


一瞬固まってしまった僕だったが、ほどなく言われたことの意味を理解することができた。

えぇっ!?
熊井ちゃんと一緒の大学に!? 


こんな美人さんからそんなこと言われたりするなんて、そりゃ嬉しいし、とてつもなく光栄なことだけどさ。
確かにすごく嬉しいんだけど、何かが引っかかる。そう、何かが。
だって、目の前の美人さん、この人は熊井ちゃんなんだ。

熊井目・熊井科の熊井友理奈さん・・・
嵐を巻き起こす少女。
只で済むわけがない。きっと、何かが起こる。


「い、一緒の大学って・・・ ちょっと待って、熊井ちゃんは学園の系列大学に内部進学するんじゃないの?」
「うん、悩んだんだけどね。大学ではもっと世界を広げてみようかなって思って。だから違う環境に進んでみようかなって思ってー」

それ以上さらにくまくまワールドを膨らませるつもりなのか。

「学園でやるべきことは卒業までにしっかりとやり切るつもりだし、そしたら次のステージを見据えていくべきなのかなと思ったんだ」

卒業までに何をやるつもりなんだろう。
それだけでもちょっと緊張感を覚えるのに、“次のステージ”って何だ?
この人の頭の中には今いったいどんな未来のビジョンが描かれているんだろう。
怖すぎる。


「さっきも言ったけど、これからの時代はね、国際化の流れはもう止められないと思うの」

突然まともなことを喋りだした熊井ちゃん。
僕はあっけに取られながらも彼女の言うことに耳を傾けた。
熊井ちゃんが真面目な顔で語り続ける。

「だから、もぉ軍団のリーダーとして目を世界に向けることにしたんだ」

はぁ・・・
そうですか・・・
もぉ軍団で世界に・・・
真面目に聞こうとした矢先だけに、反動の脱力感が・・・


「まぁ、そうは言ってもいきなり世界征服は難しいかもしれないから、まずはアジアに打って出ようかな。現実的に考えると」

現実的に考えたことが“まずアジアに打って出る”なんだ。
もぉ軍団はいったいどこに向かってるって言うんだ。

って、今この人“世界征服”って言ったぞ!!
さっき言ってた世界進出から表現が変わっている。

この人はそんなとてつもない野望を抱いているというのか。
熊井ちゃんのスケールは計り知れない・・・


彼女の衝撃的な考えを聞いて緊張している僕とは対照的に、生き生きとした表情の熊井ちゃん。


「だから、しっかり英語の力を伸ばしておいてね。もぉ軍団のお役に立てそうな特技をやっと見つけたんだから」

僕の能力が世界のもぉ軍団のお役立ちになれる日が来るなんて。
それは光栄です、とっても(棒読み)


それにしても驚いた。
世界征服のことはともかく、熊井ちゃんが進路のことをそんなにしっかりと考えていたなんて。

「だって、もう2年生だよ。のんびりとしてるほど時間はないよ」

あの熊井ちゃんがそんなことを言うなんて。
普段はその天然さを遺憾なく発揮して、もぉ軍団のメチャクチャな活動(僕の目から見ると)を満喫されているだけなのかと思ってたのに。
その彼女が自分の進路をハッキリと見定めていたとは。(世界征服云々はともかく)
それに比べ、僕は自分があまりにもそのことを考えていないことを思い知らされて恥ずかしかった。

しかし、一緒の大学に行こうなんて、何でまた僕にそんな誘いを?
何か意味があるんだろうか。
あるとするならば、それはいったいどういう意味なんだろう。


ひょっとして・・・

熊井ちゃん、僕のことを・・・


「く、熊井ちゃん? な、何で僕を同じ大学に誘うの?」
「分からないの? 全く、本当に鈍いね。女の子の方からそれを言わせるんだ」

熊井ちゃん、それってやっぱり・・・
でも、そんな・・・ 困るよ・・・
だって僕には舞ちゃんという人が。
でも、僕には熊井ちゃんの言うことに対して断るなんていう権利は認められていないわけで。
彼女の言い出したことに従うしかないのか?
つまり僕は熊井ちゃんと・・・・

「あと、これからはうちのこと名前で呼んで」
「熊井ちゃんのことを名前で・・・?」
「そう。呼んでみて?」
「ゆ、ゆり・・・」

・・・・・・・珍しく熊井ちゃんで妄想してしまった。
熊井ちゃんの妄想で一話最後まで完結したのは初めてかもしれない。
たいていは、妄想の中でさえ熊井ちゃんは暴走するから、僕が思い描きたいような幸せなシーンまでたどり着くことが無いのだ。
(ちなみに、舞ちゃんとの妄想は現在、第27章12節まで絶賛進行中!)


熊井ちゃんが僕に一緒の大学へ行こうだなんて。
突然の提案に、まだ現実感を感じられない。

そんな僕の耳に次に入ってきたのは、今の甘い妄想とは似ても似つかない、あまりにも現実的な彼女の言葉だった。


「だってさ、一緒の大学に行けば代返とかして貰ったりもできるし何かと便利じゃん。学食の席取りだって大変らしいし。
そういった諸々に、せっかくの舎弟を使わない手はないよね!」


なるほど、非常に分かりやすい理由だった。
そりゃそうだ。天上天下唯我独尊の熊井ちゃんだもんな。さっきの僕の妄想のような甘い理由などあるはずもない。

熊井ちゃんが僕を必要としたのは、大学でも僕を舎弟として使うためという実にストレートな理由なんだな・・・


真っ直ぐな人だ、本当に。
この人はどこまでも真っ直ぐ。

熊井ちゃんがそのようなことを言い出しているということは、だ。

つまり、僕は大学に行っても熊井ちゃんにこき使われる運命なのかもしれない。
高校を卒業して大学に行ってまでも、僕は熊井ちゃんの子分扱いになるというのか。
そして、彼女が今それをはっきりと口にしたということは、それは既に確定事項ってことじゃないか。

大学生になっても、今と全く変わらない扱いを受ける僕。


うわぁ・・・・!!


それを考えて、いま軽くパニくってしまった。



でも大丈夫。まだ慌てる時間じゃない。

だって、まだ2年生なんだ。
いま考えていることがそのまま実現するとは限らない。
熊井ちゃんのいつもの軽い思いつきに過ぎないのかもしれないし。
これから受験までのあいだに熊井ちゃんの気が変わることは十分考えられる。


僕のそんなパニックになっている心中なんか、熊井ちゃんはもちろん気付いていない。
充実感を漂わせているキリッとした彼女の表情。
そのお顔を見て、僕は思いがけず見とれてしまいそうになった。
いい顔、してたんだ、これがまた。
美人、だよな、この人ホント。なんて思ってしまったり。

「はい、決まりだね!」

ビシっと僕を指差す熊井ちゃん。


そのとき僕は思い出した。

熊井ちゃんは意外と頑固なところがあるんだということを。
一度こうだと自分で決めたことは、そう簡単に曲げたりはしない人だった。



舞様、あのとき舞様は四六時中でも張り付いて熊井ちゃんを見張ってろ、と仰いましたね。
でもどうやら、現実は僕の方が熊井ちゃんから逃れることが出来ないような状態になっているのかもしれません。
そのおかげで、舞様の命令を実行することが出来そうです。これからも、ずっと・・・


その時、僕の進路は決まってしまったようです。
熊井ちゃんと同じ大学を目指すということに。
これ、本当に?

今まではそんなの全く想像したことも無かった。
でも、今彼女が言ったことを聞いて案外嬉しかったりしているのもまた事実なんだ。
熊井ちゃんと一緒の大学を目指すことに意外と嬉しがっている自分。そんな自分の気持ちに気付いて、ちょっと驚いたりもしたのだった。



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