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♪なつやすみ~ 決心の なつやす~み~♪(りさこ!)
♪あなた~に 今よりぐっと ちかづきたい~♪(りたこ!!)


高校2年生の夏休みがやってくる。
一度しかない高2の夏休み、最高の夏休みにするんだ!
人はこの季節、情熱的になる。そして、それは僕にとっても例外ではない。もう今から気持ちが高ぶっているんだ。

この夏休み、絶対「忘れたくない夏」になるはずだ。
そう、僕と舞ちゃんの二人にとって、ひと夏の思い出ができるはずだから。
一生の思い出に残る特別の夏休みになる予感で一杯なんだ!!


舞ちゃんと2人っきりでどこかに出かけたいな。
僕たちにとって、それは初めてのデート。

最初はぎこちなかった2人も、時間とともに距離が縮まってくるんだ。
てっ、手を繋いだりなんかしちゃったりして!?
夜になったら2人で花火を見に行こう。
そして、大きいのが上がったとき・・・


もうどうしよう!!!
考えるだけで顔がニヤけてきてしまうんですけどムフフフ。楽しみすぎる!

そんな(どんな?)予定があるこの夏をたっぷりと楽しむためにも、先立つものがやっぱり必要だろう。
だから、夏期講習が始まるまでの間、僕はその時間を使ってアルバイトをすることにしたんだ。

バイトをして、夏期講習で勉強をして、そして彼女(?)と過ごす毎日。
なんという充実した夏休みなのだろう!


いつものカフェにやってきた僕。

夏休み前、今日が最後の席取りになるんだろう。
これでしばらくは解放されるんだ、と思うと気持ちも浮き立ってくるってものだ。


「はい熊井ちゃん、これ頼まれてた抹茶あずき餅ワッフル!」
「おー、ちゃんと見つけてきたんだね。ご苦労!」
「どういたしまして! やっと見つけたときは嬉しくて、宝探しみたいで楽しいもんだね!」
「あれ、なんか今日は明るいねー。いいことだと思うよ。いっつもちょっと暗いんだからさー」

僕が暗くなるとすれば、その原因はいつもいつもあなt
と、いつもの僕ならツッコむところなのだろうが、今日は確かに彼女の言うとおり心が軽くなっている。

だって、もぉ軍団と関わるのは今日でしばらくお休みなんだから。
そりゃあ、気持ちも軽くなるってものさ! さよなら、もぉ軍団。フォーエバー!!


それに何といっても、いま僕は舞ちゃんと過ごす夏休みのことで頭がいっぱい幸せもいっぱいなのだから。

夏休みを前に僕の気持ちは最高潮に高ぶっていた。
目の前の熊井ちゃんに聞かれたことにもサクサクと答えられる。


「もうすぐ夏休みだねー。何か予定はあるの?」
「とりあえず、僕は夏休みになったら、すぐにバイトをするつもり」
「うん。それは感心だね」

僕の答えに満足したかのように熊井ちゃんが頷いた。


「もぉ軍団の活動資金を調達するつもりなんだね。いい心がけじゃん。頑張ってしっかり稼いでくるんだよ!」


何故この僕がもぉ軍団の資金調達のために自分の労働力を提供しなければならないのか。
どうすれば、そのような発想になるんだろう。常識的に考えてその発想はおかしいでしょ。
どこまで真面目に言ってるんだ、この人は。

・・・って、彼女はいつだって大真面目で言ってます。
彼女が言ってることがどんなに常識外れでも、その本人はいつだって至ってマジメなんだから。
御自身の発言に対して一点の疑いも抱いてなんかいないんだろうなあ。

自らそんなツッコミを自分に入れていると、熊井ちゃんの言葉はまだ終わりじゃなかった。

「少しぐらいキツくても、なるべく時給のいいバイトを見つけなさいよ! わかってるよね?」

出たよ、その偉そうな態度。
自称リーダーはいつもの上から目線で、僕のことを真っ直ぐに見下ろしてくる。
僕は軍団の舎弟部門なんだな、と実感させられるのはこんな時だ。


「なんなら、うちが探してきてあげようか?」

熊井ちゃんが妙に優しい顔をして、そんなことを僕に話しかけてくる。
本能的に緊張を覚えた。

稼ぎの8割を抜かせてもらうとして、そうすると軍団の取り分が6割として・・・とか意味不明の言葉をつぶやいてる熊井ちゃん。
そんな人にバイトを斡旋してもらうなんて、謹んでお断りします。

だいたい、8割(!)も中抜きなんて、ピンハネどころじゃないじゃん!
どんなえげつないヤ○ザよりもひどいでしょ。
どんだけ阿漕なんだよ、もぉ軍団のバイト斡旋。

しかも、ちょっと待て! 今の熊井ちゃんのつぶやき、おかしいだろ。
僕の給料のうち8割を中抜きしてそのうち軍団の取り分が6割だとしたら、その2割分はどこに消えたんだよ!


目の前の熊井ちゃんは、ほえーっとした笑顔で僕のことを見ていた。
それを見たら何か、細かいことはどうでもいいんだよ、そんな気分になったのだ。

だが幸いなことに、その熊井ちゃんのお世話にはならずに独力でバイトを見つけることができたのだ。
本当に良かったよ。そんな悪徳バイト斡旋業の人の御世話になったりせずに済んで。
僕の素晴らしい夏休みを彼女にメチャクチャにされたりしてたまるかっつーの。



夏休みに入り、僕が見つけたのは造園屋さんのバイトだった。

我ながら、なかなかいいバイトを見つけたと思う。
肉体労働だけに時給も良かったし、現場で行う外作業は楽しかった。
それは僕にとって新鮮な経験ばかりだったし、いろいろなところにある現場へ行けるのも楽しみの一つだった。



その日の現場は、結構遠距離を車で走った先の海沿いにある高級なお屋敷だった。

なんでも偉い人の別邸だそうで。
だから、お屋敷の敷地内では振る舞いに気をつけなければならないらしく、特にそれを心しておくように親方から注意された。


今日、僕が担当したのはお庭の南側に広がる芝生の手入れだった。
広い芝生の上を芝刈り機を手押しして、刈った芝生を残らないように丁寧に集めて、浮いているところを目土をかけて補修する。

太陽を遮るものもない芝生の上で、そんな地道な作業をずっと行っていたら、だんだん頭がクラクラしてきた。


まずい。少し熱中症みたいになりかけてるのかも。
そう思ったときには、もう目の前がチカチカしてきたのだった。

ふらつきながら何とか日陰に入って、木陰にもたれかかり足を伸ばして弛緩する。
このまま少し休ませてもらおう。
ちょっと横になって休めば元に戻るだろう。

そうやって、休ませてもらっていたところ、今日は早起きしてきたこともあってまぶたが重くなってくる。


うつらうつらとしていると、ふいに何か気配を感じた。
閉じていた目を薄く開けると、そこには、一匹の犬がいた。


ミニチュアダックスフントだ。

黄金色のつやつやとした毛並み。
さすがこんなお屋敷だけあって、そこにいる犬まで上品だ。
やってきたダックス君は、その愛らしい目で僕を見つめている。


すると、その犬を呼んでいるのであろう、飼い主さんらしき人の声が聞こえてきた。
それはまた、ずいぶんと可愛らしい声だった。


「リップ! どこにいっちゃったの? もどってきなしゃい!」
「ワン!」


その鳴き声を聞いて、一人の女の子がこちらに歩いてきたようだ。

僕の前までやってきたその女の子。
女の子っていうか、幼女だ。

何歳ぐらいだろう、見たところ僕の妹と同じぐらいの歳に見える。
夢うつつの僕の耳にその子のかわいらしい声が入ってきた。

「どちて、ねてるの?」
「ちょっとね、暑くてクラクラしちゃったんだよ」

その僕の答えを聞くと、その女の子はどこかへ駆け出して行ってしまった。


今の子は、誰なんだろう。
清楚で可愛らしい子だったな。かぶっている麦藁帽子がまた爽やかで。本当にかわいらしい・・・・
ひょっとして、このお屋敷の方なのかもしれない。

親方に言われてるんだ。お屋敷の方に会ったら立場というものをわきまえるように、と。
それは、お屋敷の方に不用意に話しかけたりするのは厳に慎めと暗に言われているってこと。

だから、あの子に話しかけられて、つい僕も話しをしてしまったが、本来それはしてはいけないことなんだ。

ひょっとして、これは怒られるのかも。
あの子は誰かに僕の事を通報しに行ったのかもしれないな。
でも、今はそんなこと考えてる余裕は無いよ。まだ頭がクラクラしてる。

その子が小走りで戻ってくる姿が目に入ってきた。
僕の前に再び現れたその子は、その小さい手に持っているペットボトルを僕に差し出してきた。

「はい、お水。のんで」
「これを僕に? わざわざ持ってきてくれたの?」

その子が頷く。
よく冷えたペットボトル。
その冷たい水を飲んで生き返るような気持ちだった。

「ありがとう。とってもおいしかったよ」


「もうだいじょぶ?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

その子がニッコリと笑った。その瞳が三日月のような形になる。
あぁ、本当にかわいらしい子だな。
そんな目の前の女の子に、つい話しかけてしまった。

「ここのお屋敷の子、なのかな? 歳はいくつ?」
「そう。みおん。3ちゃい」
「みおんちゃん、かわいらしい名前だね」

この子は、初めて会った僕に対しても警戒することなく、そのかわいい笑顔を見せてくれた。
人懐っこい子だなあ。
お屋敷の人と口を利いたりするのは禁止事項なんだけど、こんなかわいい子が一生懸命に話しかけてきたらそんな規則関係ないだろ。



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