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キコキコと、小さな音を立て、箱ブランコが揺れる。
鈴木さんがゆっくりと動かしているようだ。月明かりだけが頼りの、真夜中の庭園の中で、それは非現実的で美しい光景のように思えた。


「お仕事」
「えっ!は、はい!」

声が裏返る。だけど鈴木さんは、某はぐれなんちゃらさんたちとは違って、からかったりせず、ふわふわと笑って話を続けてくれた。

「遅くまで大変ですね。めぐぅも、深夜に働くことがあるんですか?」
「ええ、夜勤でしたら、そういうことも・・・。村上さんは、積極的にシフトに組み込んでいるようですし」
「ケッケッケ、さすが、頼りになるなぁ」

頼り・・・?
そもそも村上さんは「夜勤手当ウメエエエw執カスさん日勤にしなよあたしが出るから!あと夜食代もったいないからお菓子作っといてくださいね!は?材料費?あのさあ(ry」
などという不純なことを仰ってたわけですが・・・。
見るからにお上品な鈴木さんに、このような話を理解していただけるのかはわからないので、あいまいにうなずいておくことにした。間違って伝わったら、村上さんにシメ・・申し訳ないとも思いますし。


「いい夜ですねぇ。あんまり暑くなくて、お月様もまん丸」

目を細めて、夜空を見つめる綺麗な横顔。闇夜を跳ね返すような肌の白さ。・・・本当に、綺麗だなあと思った。
このまま見つめていられたら・・・などと思ってはみたが、そういうわけにもいくまい。

「あの・・・差し出がましいことを申し上げますが、そろそろお部屋に戻られた方が」
「うーん・・・」
「いや、その、もちろん敷地内ですし、外にはガードマンもいるでしょうから、安全だとは思うんですけど。ただ、寮の皆さんが心配なさってるかもしれないですし、僕も・・・その」

「・・・・んん・・?」

すると、僕の声に反応するように、深く目を閉じたままのお嬢様がもじもじと身を捩った。
むにゅむにゅと口を動かす、赤ちゃんのような仕草。
その髪を、鈴木さんが手櫛で整える。


「ケッケッケ・・・可愛いですねぇ」
「はぁ」

職務上、安易にうなずくことはできないが・・・正直、このコンビ、めちゃくちゃ可愛らしい。
はぐれ(ryのセクハラまがいのスキンシップとは違って、女の子同士特有の、柔らかくて幸福感が伝わってくるような触れ合い。眼福にもほどがある。


「お嬢様が、もう少しここにいたいとおっしゃってるので、あと少しだけ」
「ですが・・・」
「執事さんが一緒にいてくれれば、私もお嬢様も安心ですよぅ。ケッケッケ」


――ああ、なんという。
鈴木さんという方は、男心の掴み方をわかっていらっしゃる。
上品なだけではなく、小悪魔的な一面まで・・・末恐ろしいお方だ。

密かに好意を持つだけで、何も望まないよう僕なりに注意をしていたつもりだが、このような魅力的な面を見せ続けられると、平常心を保ち続けるのもなかなか難しい。
しかも、僕の心のオアシス・千聖お嬢様と一緒となると、その破壊力は何億倍にも膨れ上がってしまうわけで。

なるべく動揺を悟られないよう、努めて冷静な表情を作り上げ、僕は1つ咳払いをした。

「・・・あの、鈴木さん。1つ伺ってもよろしいでしょうか」
「はい、なんでしょう?」

「先ほど、見回りをしていた時、千聖お嬢様が歌を歌われていたと思うのですが。
なぜ、それからほんの少しの間に、熟睡されているのかと・・・。
それから、差し出がましいようですが、このような時間に、その、鈴木さんと千聖お嬢様のような、極めて模範的でいらっしゃる方々が、外出をなさっているのか、一寸疑問に感じまして。あ、いえ、別に責めているわけでないのですが」

はっ・・・!1つ、といいながらくどくどと質問してしまった。これでは女々しくて情けない男と思われないだろうか。違うんですよ鈴木さん、普段の僕はもっと男らしくて亭主関白で(ry


そんな僕の心の葛藤など当然知る由もなく、鈴木さんは小首を傾げたまましばらく考え込んでいる御様子だった。
その思案顔の、可愛らしいこと・・・!丸い目をパチパチさせて、まるでリスみたいだ。


「・・・えっと、まず、御心配と迷惑をかけてしまってすみません」

やがて、口を開いた鈴木さんは、生真面目にもぴょこりと頭を下げてくださった。

「いやいや!そ、そんなバカなフヒヒ!僕みたいな(自主規制)野郎なんざお構いなく!」

僕の大慌てのジャンピング土下座を、いつもの愛らしいケッケッケ笑いで受け止めてくださった鈴木さん。
ふと、その表情が真顔に戻り、心臓がドクンと波打った。


「お嬢様が、私を迎えにいらしたんです」
「はぁ、迎えに・・・」
「でもきっと、覚えていないのでしょうね。夢の中での行動のようですし」

鈴木さんの指が、お嬢様の前髪をそっとはらう。
あどけない寝顔だ。小柄で幼い容貌と相俟って、まるで仔犬のようだと思う。

お嬢様の睡眠時の行動については、メイド長や村上さん、それから世界のアリカン氏から何度か聞いた事がある。

曰く、リネン室のランドリーを開けて“ぱいん、出てらっしゃい!”と叫ぶ。
曰く、下ごしらえ中の料理長の横にちょこんと腰掛けて、皿に移された食材を椀子蕎麦のようにヒョイッと口に運び続ける。
曰く、睡眠中の有原さんの背中にピトッとひっついて「ママ・・・」と甘えてくる(射○しそうになったかんな、と信じられないくらい下品なことを言っていた)

普段は、可能な限り有原さんが阻止したり、ドアの前で待機(何故・・・)していた萩原さんが連れ戻したりしてるようだが、鈴木さんの元へ伺っているのは知らなかった。


「その・・・有原さんが、添い寝をなさってるんですよね?
どういった基準で、お嬢様を鈴木さんのところへ?」
「うーん・・・。何か、たまに夢の中で、歌を歌いだしたりするみたいで。
でも栞菜が一緒に歌っても、グズッてしまうというか、あまり表情が良くなかったので、ためしにめぐぅが寮までお連れしたんですね。
それで私が歌を合わせてみたら、とても嬉しそうな顔をしてくれたんですよ。
朝になったらお嬢様、全然覚えてなかったけど、私も嬉しかったなあ。ケッケッケ」

そう語る表情は、本当に穏やかで美しくて・・・心から、お嬢様とのこの時間を大切に思っているのが伝わってくるようだった。



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