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「ケッケッケ・・・でも、この歌はやめときまーす」

小悪魔チックに笑った鈴木さんはごめんねとつぶやいてお嬢様の髪をぽんぽんと撫でた。


「んーん・・・」

すると、まるで意識があるかのように、夢の中にいらっしゃるはずのお嬢様が、イヤイヤとグズるような仕草をし出した。


「あららー」
「あい・・・あぃり・・・うたは?」
「なんか、駄目みたいですよー」
「んー・・・!うた、あいり、のうたは?」

あわわ、お嬢様が幼子のように・・・!
キーッと頭に血が上っていらっしゃる姿は何度かお見かけした事があるが、こんなに本能のままにわがままを言われるとは、・・・若干ちょっと、胸キュンしてしまった。
鈴木さんもそう感じられているのか、クリンと丸い目を嬉しそうに細めて、お嬢様の小さな身体を包み込むようにそっと抱き寄せた。


「うた・・・」
「んー、違う歌なら、いいですか?」
「はひっ」

突然お話を振っていただいて、僕は慌ててガクガクとうなずいた。

「何の歌がいいですかぁ?」
「えぼ、ぼくが、そんな差し出がましい」
「またまたぁ~」

考えてみれば、鈴木さんとこんなにも会話が往復したのは初めてのことだ。
おはようございますお疲れ様です、ただいまもどりましたおかえりなさいませ、それぐらいが関の山だったはず。

嬉しいけれど、現実感がなさすぎて、全然頭がついていってない。
まるで、一夜の夢のような・・・


「執事さーん?」

そうか、これは夢だと思えばいいんだ。一夜の夢。
神様から執事マスターを目指す僕への、いたずらなプレゼント。そういうことだ。


「はい、ではリクエストさせていただきます!消失点で!」
「おおー、意外な選曲。ケッケッケ」


昨年の学園祭で、鈴木さんが披露されたこの曲。
残念ながら、会場へ駆けつけることはできなかったが(村上さんがシフト変われよオラァ!みたいなことを言ったので)、
あとで“一人で行くBuono!学園祭ライブ”にて、りぃさんという固定さんが挙げていた音源をゴニョゴニョ・・・まあ、それはともかく、 あの時はミヤビさんという方が一人で歌っていたこの曲、ずっと、鈴木さんverを熱望していた。

「どうでしょうか・・・」
「ケッケッケ、お嬢様ぁ、消失点ですって」
「んー・・・焼支店」
「burning pointじゃないですよぅ」
「笑止天・・・」
「あはは~、じゃあいきますよー、♪言葉にしたら壊れそうで怖くて・・・」


夏の夜の庭園に、鈴木さんの涼やかな声が凛と響く。
ステキすぎる・・・清楚で可愛らしいだけでなく、音楽の才能までお持ちとは・・・。根本的に、僕なんかとは住む世界が違いすぎる。


「・・・う、んめいは、変わって・・・のかな」


住む世界が違うといえば、わが小さな主の千聖お嬢様。お嬢様も、鈴木さんに触発されたかのように、また歌を紡ぎ出した。


♪どうしてだろう ずっとこのまま僕らは変わらない・・・


センチメンタルな歌詞が、スーッと胸に入ってくる。
よもや、2人でCDデビューでもできるんじゃあるまいか。そんな妄想すら浮かんでくるような、すてきなハーモニー。
歌詞の切なさも相俟って、感極まった僕は、再び、うっかり懐中電灯を手からすべり落としてしまった。


「ぎゃふん」

もちろん、落下先はまた足の小指。一人SMか。そろそろ骨がイッたかもしれない。


「あらら?執事さん?」
「だ、大丈夫です!おかまいなく!」


うずくまる僕の前、制止も気になさらず、鈴木さんがぴょこんとしゃがみこんでくださった。


「足の指ですか?痛いですよねー」


――あわわ、距離、近っ!

鈴木さんの“顔近づけ癖”は、よく寮生の皆さんもネタにしているのをみた事があるが・・・異性である僕にも同じ調子とは、あばば、お嬢様のそれとはまた違う、花の匂いを思わせるコロンが優しく香ってくる。


「す、鈴木さん!あの、僕は・・・」



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