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翌日。
膝の具合は、昨日よりひどくなっているということは無かった。
悪化しないところを見ると、うーん、まぁ大丈夫なのかな。


熊井ちゃんと待ち合わせてお嬢様のお屋敷に向かう。

やっぱり海夕音ちゃんには是非とも会いたいからね。
(決してプールで寮生の皆さんの水着姿を見たいからじゃないですよ)

熊井ちゃんが、会うなり僕に聞いてきた。

「膝の具合はどう?」
「うん、変わりないね。今は落ち着いてるみたいだけど」
「そう」

真っ先に聞いてくるなんて、心配してくれてたのかな。
だとしたら、なんかとても嬉しいな。

僕の返事を聞いて頷いた熊井ちゃん。拳を突き上げて気勢を上げた。

「それじゃあ、張り切ってお屋敷に行くよ! レッツゴー!!」

テンションの高い熊井ちゃん。
その勢いについていけなかった僕を彼女が見下ろして、大きい声を繰り返す。

「元気が無い! さぁ、お屋敷に行くよ!!」
「お、、おーーー!!」
「よし!」

張り切ってるなあ。
元気のいい熊井ちゃんを見ていると、例え嫌な事があってもそれを忘れさせてくれる。
こういうとき、彼女の存在をありがたいと思うんだ。

いま熊井ちゃんがここまで張り切ってるのは、プールが楽しみってのもあるけど、海夕音ちゃんに会うのがとても楽しみなんだろう。
海夕音ちゃんのこと本当に好きだもんな、熊井ちゃん。

でも、僕まで一緒のテンションになってはしゃいではダメだ。
冷静さを保ってないと。

だって、海夕音ちゃんに会いにお屋敷に行くんだから。
お屋敷で熊井ちゃんが何かしでかさないように注意するのは僕の役目だ。
それに、まず千聖お嬢様とお会いすることになるだろうから、そこでは舞ちゃんから授かってる任務だって忘れないようにしないとな。
そこで何か失態があれば、僕の首が飛ぶ。だから万全の態勢で今日は臨まないと。
熊井ちゃんのストッパー役なんだから、僕は。

そんな心配のタネもあるが、それでもやっぱり楽しみだ。
だって、お屋敷のプール、当然そこには水着姿のみなさんがムフフフ



お屋敷に続く林道を熊井ちゃんと歩いてゆく。
横を歩いている彼女が僕に尋ねてきた。

「受験勉強、ちゃんとしてる?」
「してるよ、もちろん。二学期になる前にはまた講習もあるし」
「学校で講習をしてくれるなんて、いいよねー。うちも受けに行こうかなー」

本当に来たりしそうだから怖い・・・・

うちの高校に来るなとは言わないから、とりあえず殴り込みのようなマネだけは絶対にやめて下さいね、熊井ちゃん。

「熊井ちゃんのほうこそ、ちゃんと勉強やってるの?」
「もちろん!! うちはなかさきちゃんと競い合いながらやってるから。やっぱりライバルがいると力も入るよね」

なかさきちゃんと競い合うって、熊井ちゃんが?
あの優等生がライバルって、そんなに上のレベルになってるというのか!
いつの間にそんなに伸びてたんだ!?

信じがたいことではあるが、なかさきちゃんや栞菜ちゃんという優秀な人達に囲まれてたら、そりゃあ影響もされるのかもしれないな。
ああ見えてなかさきちゃんは熊井ちゃんの面倒見がいいからなあ。彼女がついているのは心強いよな。
そういう環境に恵まれてるってことは、熊井ちゃんのアドバンテージだろう、確かに。

そんな彼女に置いて行かれるわけにはいかない。僕ももっと頑張らないとダメじゃないか。
まぁ、もうすぐ講習もあるわけだし、僕は自分を信じてコツコツとやっていこう。


でも熊井ちゃん、ライバルがなかさきちゃんとか、それは絶対ウソだろ。熊井ちゃんがそこまでのレベルのわけがない。
だって、なかさきちゃんと言えば超難関大学を目指しているような人だぞ。
まともに勉強してるそぶりなんか見たことも無い熊井ちゃんがそのレベルとは到底信じられない。
まぁ、ライバルと自分で思い込む分には御自由ですけど。

本当のところはどうなんだろう。熊井ちゃん、ちゃんと勉強してるんだろうね。
なかさきちゃんと競い合って勉強してるって? それも絶対ウソだ。
だって、このあいだ僕は先日なかさきちゃんにこう言われてるんだぞ。


『あなた方が変な事に誘惑するからゆりなちゃんが集中できないんでしょ!いい加減にして下さい!!受験生の夏休みなのに』


でも、そのセリフは僕じゃなくて、熊井ちゃんの方に是非言っていただきたいよ、なかさきちゃん。

そう、それを言うべきなのは、受験生たる僕の集中を乱すことばかりしてくるもぉ軍団とその団体の自称リーダーの方だろう。

彼女を見ていると、本当に受験生としての自覚があるんだろうかと思ってしまうことの連続で。
どっちかといえば、そのゆりなちゃんの方こそ僕をやるべきことに集中させてくれないんじゃないか。あとは桃ry


そんな会話をしながら歩いている間もずっと、僕は膝の状態を注意して観察していた。
どうしても気になって、しょうがない。
そうやって不自然に意識しながら歩くものだから、神経も疲れてしまいそうで。
今はとにかくお屋敷につくまでは負担かけないように気をつけて行こう。お屋敷に着いて少し休めばまた余裕もできるだろう。



お屋敷の門のところまで来ると、門の前には人影が見えた。
そこにいたのは、千聖お嬢様だった。
お嬢様自らお出迎えをしてくださるとは、なんという光栄でしょう。


「お嬢様、こんにちは!今日も暑いですねー!」
「ごきげんよう大きな熊さん。ウフフフ。大きな熊さんがいらっしゃると聞いたから、落ち着かなくてお出迎えしに来ちゃいました」

お出迎えは熊井ちゃんの為でしたか。まぁ、そりゃそうですね。
お嬢様の抱いたそのお気持ち、よく分かります。彼女が来ると聞いてたら、そりゃ落ち着かなくなりますよね。
またメイドさんと一悶着するようなことがあったりしては面倒でしょうし。

「海夕音ちゃんはもう来てますか?」
「えぇ、もう来ています。今はお昼寝してるのよ。でも、もうすぐ起きる時間だから。
大きな熊さんのお姿を見たらきっと喜びますわ。海夕音ね、大きな熊さんのことが大好きみたいなの」


門の前の木陰でしばし雑談をする、お嬢様がた。


そのとき僕は、ずっと感じていた膝の違和感がいよいよ気になっていた。その違和感はもう疑いようも無かった。
お嬢様と熊井ちゃんの話しを聞き流してしまっていたぐらい。


やっぱりおかしい。間違いない。

ここまで歩いてきたが、痛みが出てきたりはしていない。
だけど、感覚が鈍くなってきているのが分かる。さっきから、そのことがずっと気にかかっていた。
この膝の状態が気になって、目の前のことにすら集中が保てない。
僕はもはやお嬢様たちのお話しでさえ耳に入ってこないぐらいになっていた。



だから、僕は全く気付いていなかった。


背後からその人が楽しそうな笑顔で近づいてきていることに。



その人とは、お姉ちゃんだった。

お姉ちゃんは今ランニングから帰ってきたところだったようだ。
暑い中を走ってきたことで、いい感じでテンションが上がっているらしかった。
そんなお姉ちゃんは、そのとき自分に背を向けてぼーっと突っ立っている僕のことを格好の標的と認めたんだろう。
そして、僕の背後に忍び寄ってきて・・・

熊井ちゃんは真っ先にそれに気付いたんだそうだ。
僕の背後から静かに突進してくるお姉ちゃんが口パクでこう言っていることに。

(必殺!膝カックンーーーー!!)



突然、熊井ちゃんが叫んだ。


「だめーーーーっ!!」


僕の背後から接近して来たお姉ちゃんを、僕の斜め前にいた熊井ちゃんが止めようとしたらしい。


でも、僕の視点からはその事情は分からないわけで。

その事情が分からない僕の目からそれを見ると、大きな熊さんが絶叫とともに僕に襲い掛かってくるように見えたわけで。
それがあまりにも怖かったものだから、僕は反射的に横っ飛びで熊井ちゃんから逃れようとしてしまった。
だって、本当に恐ろしかったんだもん。


それが、まずかった。

横方向の負荷、これは痛めている膝に一番負担がかかる動作なんだ。
しかも切り返しで踏ん張ったとき、そこに全体重を乗せてしまった。
それだけはしないように、いつもいつも気を付けていたのに。


膝に、衝撃が、走った。




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