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その言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。
え??????お嬢様の?????水着が??????

み   れ    な  い????????????


「いやああああああああああだめえええどうしてそんな殺生なありえないありえないありえない」
「落ち着け、℃変態!」


思わずお嬢様に飛び掛かりそうになったところを、萩原の野郎のヘッドロックで取り押さえられる。

さながら悲劇のヒロイン状態の私を、みんながドン引・・・憐みの目で見つめている。
だってだって、私の何よりの楽しみが、流れ星のように消え去ってしまうなんて。
普段は衣類に包まれてしまっているぷにぷにですべすべの美肌を、下賤な民の前に現してくださる、絶好の機会だったのに。
嗚呼、この世は無常、儚い蜃気楼。露と落ち露と消えにしわが身かな。そんな感じだかんな。

「な・・・なして?なしてあちきの楽しみを奪うん?わて、生きる気力、なまら無くなったべや・・・」
「てかお前、さっきから横浜弁が1個も入ってないでしゅよ。・・・とにかく、そんなことより、ちしゃと。いきなりどうしたの?」


萩原が、お嬢様の手を握って問いかける。
心配そうなみんなも集まってきて、ひとまず林道の脇に逸れて臨時寮生会議となった。


「んー、もしかして、ウチらが行くようなお店じゃ、お嬢様が着る水着はないのかな?」

えりかちゃんの問いかけに、お嬢様は首を横に振った。

それはそうだかんな、行く予定になっているショップ、あそこはお嬢様がたまにルームウェアやインナーを買ったりしている。
お金持ちの令嬢だからと言って、何もかもを上等なもので揃えないところがまた魅力的だかんな。


「んー、去年の水着が気に入ってるから、いちいち買い換えたくないとか?」
「そうではないの。千聖はプールに入りたくないのよ」
「キュフゥ・・・」

なっきぃの推理もはずれらしく、お嬢様は困ったように眉をしかめるばかり。
すると、我らが頼れる元生徒会長様が、まるで漫画のようにべたにポンッと手を打って、さわやかに挙手をした。
おお、真打ち登場!舞美ちゃん、℃天然だけど、案外鋭かったりもするし。
その発言に注目するかのように、全員が固唾を呑んで次の言葉を待つ。


「わかります!お嬢様、胸がおっきいのがはずかしいって思ってるんですね!うんうん、その気持ちすっごくわかる!」

「え・・・?」
「え?」
「えー・・・」
「え!」
「えぇ・・・」
「ええええええ」

――ええーっと・・・それは・・・



舞美ちゃんを除いて、寮生の心が今一つになる。

お前は何を言っているんだ、という一言が、全員喉の上まで出かかっているのに、圧倒的な彼女の善人オーラの前に、それを発することを憚られてしまう。

「いやいや・・・ねえ、だって」

蚊の鳴くような声で、えりかちゃんが言い、一斉にうなずく。


「でも、巨乳は恥ずかしいことじゃないですから!!私も同じきょny」
「さ、ちしゃと!そろそろ理由を言おうか!」

もう黙っちゃおれんとばかりに、萩原が舞美ちゃんの言葉を制してお嬢様と向き合う。
すごい眼力だかんな。寮生じゃなかったら、おしっこチビッてるレベル。

でもお嬢様にそういう圧力攻撃は通用しないらしく、顔色1つ変えず「・・・言いたくないわ」と首を振られてしまう。


「はあ?だって、みんなで買いに行く約束で来てるんじゃん。わがまま言わないでよ」
「でも、だって、千聖は・・・」


「・・・あー、それならお嬢様、私とお話しませんかぁ?ケッケッケ」

その時、ずっと後ろで目をキョトキョトさせていた愛理が、スッと二人の間に割って入った。


「でも、愛理ぃ」
「まあまあ、ね?お嬢様、私とお話しましょ。ケッケッケ」


あれだけ強情だったお嬢様のことだ、いくら愛理でも・・・なんて思っていたのだけれど、意外なことに、お嬢様はちいさくうなずくと、愛理に背中を押されるように、私たちの輪から少し離れたところへ歩いて行ってしまった。


「ちょっと、ちしゃとぉ」
「まーまー、ここは待ってあげよう」

反射的に追いかけようとした萩原を、えりかちゃんがそっと制した。


「・・・なんか、気が合うのかね」
「性格、っていうか、空気が似てるもんね。二人」

私の独り言を、なっきぃが拾ってくれる。


「お嬢様同士だからかねぇ。あたしやハギワラじゃあ、すぐ性的接触になっちゃうし」
「おい・・・。まあ、二人のノリっていうか、不思議なつながりっていうか。愛理にしか話してないこともあるみたいだし、ちょっとヤキモチ?あ、でももちろんお嬢様が安心して(ry」


なっきぃのグダグダ弁護をBGMに、二人の様子を横目で伺う。
お嬢様はちょっぴりかかとを上げて背伸びして、愛理の耳元になにか打ち明けているようだった。

THE・女の子同士って感じの、平和で和やかなふいんきのやりとり。お嬢様のどこかこわばった感じの態度も、みるみるうちに軟化されているのが遠目にもわかった。


「・・・お待たせー」


やがて、お嬢様を置いて、愛理がパタパタと走ってきた。
ちょびっと笑っている。・・・こういう時の愛理は、おそらくお嬢様から聞いたことを、はっきりとは話してくれないだろう。
あまり表には出さないまでも、ちょっとした優越感を持っているんだろう。愛理だけが知っている“なにか”を、そうそう私たちは教えませんよっていう。


「えーと、とりあえず、ついてきてくださるそうでーす。水着を買うかどうかは別として」

案の定、肝心なところはうまくはぐらかしたような物言い。

だけどここからいくら突っついても、愛理はたぶん口を割ることはないだろう。
もどかしいけど、これは仕方ない。
萩原も同じ結論に至ったらしく、さも面白くなさそうに、「いこ」とえりかちゃんを促して先に歩いて行ってしまった。


「とりあえず、よかったね。キュフフ」
「うーんん」


だがしかし、どうももう一声、ちょっとでも状況を知っておきたい、
一人っ子特有の疎外感への恐怖がそうさせるのか、私はたまらず、愛理のところへ走り寄って、腕を絡めて甘えて見せた。


「お?お?」
「愛理ちゅわーん、頼むよぉ」
「えぇ~?もう、栞菜はぁ。ケッケッケ」


何のレスポンスもないかと思いきや、愛理はいきなり顔を近づけてきた。
そして、後ろのお嬢様の位置を素早く確認すると、こう小さな声で囁きかけてきたのだった。


“ケッケッケ、からかうからこういうことになるんだよ”



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