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それから数十分後。
私たちは、駅直結のファッションビルまで歩を進めていた。

「あはは、何か楽しみですねーお嬢様!今年の水着カタログ、見ました?胸の大きな子向けの、可愛い水着もたくさんあるみたい!」
「はぁ・・・あの、舞美さ」
「私たちも、はりきって選びましょうね!巨乳って、決してコンプレックスに感じるようなことじゃなくて(ry」

あー、うん。なんというか・・・
舞美ちゃんは自分を“あっち側”にカテゴライズしてるみたいだけど、あのですねーあなたは・・・。
一体なんの根拠があって・・・でも、それを確認するのは、ひ弱でか弱く心優しい私には至難の技だかんな。
お嬢様もお口に出せない感想をお持ちのようで、金魚のようにパクパクと唇を開いては、困ったような顔でこちらに視線を投げかけてくる。

“舞美さんは、引き締まった肢体をなさっているじゃないの。それに、あの、お胸フガフガでモゴモゴ”

わかる、わかるかんな。
でも、残念ながら私はここで、手を差し伸べるわけにはいかないのです。舞美ちゃんの澄み切った目・・・あれは、ある意味どんな悪人よりもたちが悪い。

「おい、有原。なんとかしなよ、ちしゃと困ってんじゃん」
「はーん?じゃあオメーがいけばいいかんな」
「だって、それは・・・」

萩原よ、オメーもわかってることだろう。
あのハイパーご機嫌大型犬状態の舞美ちゃんを止められる人なんて、ここには、ううん、地上には存在しないのだと思う。
どんな助言も説得も、太陽のようにカラッとしたさわやか笑顔で「え?なに?聞こえない(AA略)」と流され、運が悪ければ何らかの貰い事故を食らうはめになる。
善人という名の悪魔。舞美ちゃんの前では、誰もがその恐ろしい思い込みに突っ込みを入れることすら出来ず、半笑いで首をかしげるのが精いっぱい。

「お嬢様、ほらほら!こっちですよー!!!」

やがて、エスカレーターを上がりきり、水着のフロアへ到着すると、舞美ちゃんはお嬢様の肩を抱きかかえるようにして攫っていってしまった。

「こっち!デカパイコーナー!」

舞美ちゃんの遠慮ない大声に、ベンチで休んでいたお兄さんたちが缶コーヒーを吹き出す。

「え?え?舞美さん?あの、何かしら?そのデカp」
「ギュフーッ!みぃたん、お嬢様を困らせるのはやめるケロ!やめるケロ!」

もう我慢がならん、とばかりに、ここへ来て、今日は終始様子を伺っているふうだったなっきぃが、慌てて2人のあいだに割って入った。

「えー、なっきぃもこっち見るの?でも・・・うーん、とかいってw」
「ちょ、人の乳を観察すんな!私は普通です!もう、みぃたんに任せてたらお嬢様の危険が危ないケロ!」

なっきぃはおもむろに“風紀委員”の腕章を取り出すと、かわゆい私服の上にガチッとピンで止める。

「え・・・それ持ち歩いてるんでしゅか。引くわぁ」
「みんなが風紀を乱すからでしょ!はいはい、みぃたんはお嬢様にベタベタしないの!お嬢様、大丈夫ですからね。なっきぃがお守りするケロ?キュフフ」

今まで黙っていた反動か、なっきぃはベラベラと喋る。最近はお嬢様の自主性を重んじてどうのと言って、見守るオトナなあたし(ケロキュフッ)を実行していたくせに、耐性のない子だかんな。

「お嬢様の水着は私が見立てますから。キュフフ、去年のタンキニもお似合いでしたよ!今年はどうしましょうね?」
「もう、なっきぃったら・・・千聖はプールには入らないって言ったでしょう?」
「まあまあ、でも水着は買ってもいいじゃないですか。別荘に滞在されるとき、お召しになるかもしれないですし。
ほら、こっちの青色のなんて、お嬢様に似合うと思いますよ!あ、オレンジのもありますよ!」

畳み掛けるようにそういわれて、お嬢様の表情が少し柔らかくなったように見えた。

「・・・ふん。おい、有原、舞たちはあっちで選ぶでしゅよ」

さも面白くなさそうに、萩原が私の手首を引っ張る。・・・まあ、気持ちはわからんでもない。ああいうの、私たちには到底無理だかんな。

なっきぃは、会話の主導権を握るのが上手い。
現生徒会長の茉麻ちゃんもかなりのやり手だから、今はそんなに表に出してきてないけれど・・・思えば舞美ちゃん生徒会長時代、先生方が(求説明的な意味で)頼るのはいつもなっきぃだった。
自分と相手との関係、それから相手の立場や気持ちを汲んだ上で話を進めていくその視野の広さ、さすが模範生だかんな。
すぐに己の欲望のほうへ突っ走る我々とは大違いだかんな。

「どーせ舞はちしゃとみたいに胸ないし」
「いや、そんなことないかんな。去年と比べればその差は歴然、今はそうね、○カップってとこだろ。おまけにオメーはくびれもついててなかなかのもんだかんな、ジュルリ。あとはその性格さえなんとかすれば・・・」

私の心優しい助言に、萩原の野郎は天使のようなにっこり笑顔をかえしてくれた。
そして、舌たらずなかわゆい声でこう続けた。


「しばらく舞に近寄らないでもらえましゅか、この℃変態が」


*****

「んだよ、短気だかんな。萩原の奴め」

その後、試着中の萩原に執拗にちょっかいを出すなどして、厳戒接近禁止令を出された私は、一人寂しく水着を選んでいた。
愛理は予めこれと決めた水着があったらしく、サクッと購入して、マイペースにお茶売り場へ移動してしまった。
えりかちゃんはさっきからずっと、フリルが2段のビキニと3段のを見比べて悩んでいる。
どっちでも同じだかんな。えーそんなことないよ!どうしようどうしよう。このやりとりを30回は続けた。

そんなわけで、否応なしに孤独なロンリネスになってしまったわけだが・・・うーん、面白くないかんな。

一人っ子特有の感情か、なんだかもやもやする。みんなで来てるんだから、誰かと相談しながら選びたい。しかし、人はそう、私の思うように都合のいいようには動いてくれないもので・・・。

あんまりつまらないから、一人黙々と水着を選んでいる萩原を物陰からそっと観察してみる。
相変わらず、ポッチャマにご執心のようで。
前回、私がからかったワンピースタイプのやつの隣にある、ビキニタイプのを手にとって、店員さんに「妹さんにですか?」なんて聞かれて慌てている。

「ムフフ」

これは、いいからかいのネタが出来たかんな・・・と笑っていると、遠くのほうで、何かザワザワしているような気配を感じた。

そして、直後。

「ギュフーッ!!!!!」


突然、静かな店内に、断末魔の声が響き渡った。
確かめるまでもなく、それは彼女のものだけれど・・・とりあえず小走りに急行してみることにした。



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