※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



病院の玄関にリムジンで乗り付けた僕に、顔見知りだった病院の人が驚いていた。
しかも、そのクルマから美女3人を従えて登場したんだ。
そりゃ驚くだろうな、と他ならぬ僕自身が思うよ。


待合室で待っている間もずっと、僕はとても居心地の悪い思いをしていた。
顔見知りの看護婦さんや職員さんたちが僕らのことを遠巻きに覗きにくるのだ。入れ替わり立ち代り。


診察室に呼ばれ、お嬢様とお姉ちゃんと熊井ちゃんの付き添いで主治医の院長先生から説明を受ける。


並んでいる美女3人と僕を見比べる院長先生。
何か言いたそうだ。
そりゃそうだよな、僕がこんな美女を3人も侍らせてやって来たんだ。
どういうことなのか、疑問に思うのも当然だろう。

「こちらの方たちはご家族の方?」
「いえ、この人たちは僕の友人です」

友人、でいいのかな。僭越な気分ではあるが、まぁここは友人と紹介しても違和感はない場面だろう。だからOKだ。
そう、僕とお嬢様がたの関係はもはや友人と呼んでも差し支えない仲(キリッ。友達は友達なんだ。

もう一度、美女3人と僕を見比べ、顔の端に意味ありげな笑みを浮かべる先生。
なんですか、その僕に対して何か含むところがあるような苦笑顔は。

そして、おもむろに先生は僕の膝を撮影したフィルムを手に取った。
診察台にフィルムを貼り付け、それを見ながら、先生が静かに言った。

「うん。これはもう手術だね。さっさとやっちゃおう」

外科医の先生って、何でいつもこんな軽い口調なんだろう。
僕はその口調には前から慣れていたし、手術の内容についてはケガした時から説明も受けて把握していたので、そんなことを思う余裕さえあった。


だが、その言葉にショックを受けてしまっている人がいた。

先生のその宣告を聞いたお嬢様が口許を手で覆う。
見開かれているその鳶色の瞳は潤んで来てしまっている。

「あぁ、もうどうしましょう。手術だなんて、そんな・・・」


いや、お嬢様、手術っていっても別に命に関わるようなそんな大手術ではないですから。


「お嬢様、そんなに心配しないで下さい。手術っていっても脳とか心臓の手術では無いんですから」

先生から渡された手術の概要を書いた紙。
それを熟読していた熊井ちゃんが僕に言う。

「でも全身麻酔をするんでしょ。この説明書きは読んだ?10万人に1人ぐらいはショックで死亡することもあるって書いてあるじゃん。死んじゃうんだよ!」

熊井ちゃんがそう言うと、しーんとした静寂な空気が場を包んだ。


「死んじゃうんだから・・・・・」



死んでしまう・・・


そう言われると怖くなってくる。
今まで自分の死というものを、そんな現実に感じたことなんか無かったから。
いま僕は死と隣り合わせの状況になっているというのか。


僕は死ぬかもしれないんだ・・・



あ、なんかすごく怖くなってきた。

そんな熊井ちゃんに、院長先生が苦笑しながら語りかける。

「あのね君。そんなことめったに無いから。っていうか、無いから。あまり患者の不安を煽らないでもらえるかな」

その言葉に、我に返ることができた僕。
そうだよ、お医者さんがそう言ってるんだから、僕としてはその言葉を信じるよ。


「でも、でも!!」

それでもまだ、感情が高ぶっている様子の熊井ちゃん。
これはレアだな。いつだって唯我独尊な彼女が珍しくちょっと取り乱している様子。

かわいいじゃないか、熊井。
いいものが見れた。と、僕はひそかにほくそ笑んだ。


この状況でもそんなことを考えてしまうなんて、ちょっと不謹慎かな。

僕はいま緊張しすぎているんだろう。
だから、逆にそんなことを考えて無理にでも空元気を出そうとしているのかもしれない。
無意識のうちにそうやって精神のバランスを取っているのかも。
まぁ、そんな理屈はどうでもいいが、目の前のこの熊井ちゃんは、実際とてもかわいくて・・・


そんな不真面目な僕の横には、とても真面目な(元)生徒会長さん。

「内視鏡での手術になるんですね。時間は大体どのくらいを予定しているんですか」

お姉ちゃんが冷静に質問している。その質問に先生が丁寧に答える。
その論理的なやりとりを聞くと、僕の気持ちは少し落ち着いたものになった。

「リハビリもあるから手術のあと一週間は入院になるけど、何か予定とかあった?」
「いえ、今は夏休みなので学校も無いですし。月末近くには講習が始まりますけど」
「じゃあ、その前に終わらせよう。明日入院で明後日施術ね」

軽い口調の先生の提案により、手術の日程はあっさりと決まった。


 * * * *


「今日は皆さん僕にお付き合い頂きありがとうございました。お陰様で、見通しが立ったからこれでスッキリしましたよ」
「何かお困りごとがあったら仰ってくださいね。うちには執事もいますし、出来るだけのことはさせて頂きますから」
「ありがとうございます、お嬢様。でも、大丈夫です。お気遣い無く」

それでもまだ心配そうなお顔のお嬢様。
もう、このお顔かわいすぎる。もうずっと見つめていたい。
しかも、僕のことをそんなに想って頂けるなんて・・・とかいってw

「いつかはやらなきゃならないことが、それが今になっただけですよ、お嬢様」
「でも・・・・」
「それに、入院になるんだから、今が夏休み期間中だったのは幸いです。学校を休まずに済みましたから」
「でもさ、入院中はちゃんと勉強とか出来るの?」

お嬢様と僕の会話に熊井ちゃんが割り込んでくる。
そんな彼女の鋭い指摘。

そうなんだ。こんな時期に入院してしまったりして、そのあいだ受験勉強が大分遅れてしまうだろう。
そのことだけが気がかりだ。だから、そのことを考えると少し憂鬱な気分になってしまう。

「何かお手伝いさせていただきたいけれど、千聖ではそのお力にはなれないわ」

そう言ったお嬢様が、お姉ちゃんに向き直った。

「舞美さん、お勉強を見ていただけないかしら。舞美さんなら、勉強もお教えして差し上げられるでしょうから」
「えっ、わたし? 受験の勉強なんてもう忘れちゃったけど・・・ でも、それでお返しができるなら。もう一度思い出してやってみます」

なんと、僕の勉強をお姉ちゃんが見てくれるのか!
お姉ちゃんに勉強を見てもらえるなんて、そんな最強の家庭教師が僕に付いてくれるとは!!
これはこの夏の勉強が一気に楽しみになったじゃないか。やる気も倍増だ。

災い転じて福と成す。これも僕の普段の行いの良さのお陰と言えるだろう。
しかも、お姉ちゃんとは2人っきりでの勉強になるんだよね。

なんということでしょう!
女子大生とのひと夏の個人授業!!

ってことは・・・・・
「この問題を解けたら、ご褒美に今度一日デートしてあげるね」みたいなことがあるかもしれない?
それどころか、「ちゃんと成績が上がったら(自主規制)を(自主規制)してあ・げ・る」なんてこともムフフ
これはひょっとして受験の勉強だけじゃなくて、他にもいろいろ教えてもらえたりして!
ついに僕も大人の階段をのぼる日がry
これは大変なことになった! グヒョヒョ・・・


思わずそんなことを考えてしまったが、どこからとなく物凄い殺気を感じたのでそんな妄想はすぐにやめた。
それでもついお姉ちゃんを見つめてしまったのだが、そんな僕の顔はだらしなくニヤケていたかもしれない。
お姉ちゃんのその穢れの無い笑顔を見ると、そんな下品な妄想をしてしまったことに自己嫌悪。若干ちょっと反省する。

だが、お姉ちゃんとのそんな甘い夢のような話しが実現するなんてことは、もちろんあるわけがないのだ。
僕の耳に続けて入ってきたのは、僕を現実に引き戻そうとするこの人の声だった。


「舞美はそんなことしなくていいよ!!」
「「えっ?」」

せっかくのお姉ちゃんの申し出をキッパリと断る熊井ちゃん。(なんであなたが断るのか・・・)
その熊井ちゃんの剣幕に、お嬢様とお姉ちゃんは驚いてしまっている。


そう、僕の甘い楽しみを打ち砕くのは、いつだってこの人なんだ。


「熊井ちゃーん、せっかくお姉ちゃんが勉強を教えてくれるって言ってくださってるのにそんな・・・」
「必要ないから。舞美はそんなことしなくていい!!」

なにムキになってるんだよ。なんでそんな強い口調なんだ。

「でも、実際勉強はちょっと何とかしないと取り返しがつかないよ・・・だから」
「うちがいるでしょ!」

えー・・・ お姉ちゃんとの勉強が良かったのに・・・テンション下がる・・・
第一、僕らのレベルって同じぐらいなんだから、熊井ちゃんに勉強を見てもらってもあまり意味ないんじゃ・・・
と思うんだけど、なんか興奮している彼女を刺激しないように、とりあえず反論は控えておいた。

ここは病院なんだ。
この場所で熊井火山を噴火させるわけにはいかない。

なんか気が立ってる様子の熊井ちゃん。
何が気に障ったんだろう。ちょっと思い当たらないんだけど、とにかくこの場を何とか穏便にやり過ごさなくては・・・


僕らのそのやり取りに、ちょっと困ったような表情のお姉ちゃん。
そんな状況のなか、話しの落としどころを提案するように語りかけてきたのは千聖お嬢様だった。

「そうよね、舞美さんだってお忙しいのだから・・・」


「でも、勉強が遅れてしまうのはやっぱり申し訳ないわ・・・大きな熊さんにもご迷惑をかけるわけにはいかないし・・・」


続けてその落ち着いた口調でお嬢様が言ったこと。
それは、僕にとって夢のような提案だった。


「それなら、舞に頼んでみるのはどうかしら」



TOP