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僕の成績表をまじまじと見ていた栞菜ちゃんが顔を上げた。

「ふうん。英語だけだね、そこそこマシな点数を取れてるのは」
「英語だけはちょっとだけ得意なんで」
「さすが得意とか言ってるだけのことはあるかんな、この点数なら。私よりも低い点数ではあるけれど」

ひとこと余計なんだよ。
いったん持ち上げておいてから、その後に人を小馬鹿にしてくるようなその言い方。
まぁ、そういう言い方をして僕を挑発しているんだろう。
そうやって僕の心を乱して楽しもうとするんだ、この人は。

いつものことじゃないか。その手に乗るか。
まともな人間の僕は、意識して平常心を保ち理性的に対応する。

「受験英語はちょっと苦手なんだよ、変に難しい単語や言い回しが多いし。そんな表現、実際は使わないんだって」
「知った風な口をきくじゃん。実用的な英語とかw どうせ、エッ○なビデオでも見て憶えてるんだろ」


・・・・・・・


な、なんて言った!? いまこの人は!!
それどころか、洋モノが好きなんだ、とか、信じられないぐらい下品な言葉を更に口にしてくる有原さん。
この人、本当にあの学園の生徒さんなんだろうか・・・

当たり前のようにそっち方面の話題を口に出したりして、そういう話題に何の抵抗感も無いんだな。
その楽しそうな様子、まるで男子生徒並みのノリじゃないか(いや、それ以上・・)。
前から薄々思っていたことだが、ひょっとしてこの人はとんでもない℃変ry

まぁ?僕も男ですから?そういう話題も決して嫌いという訳では無いですけど?(キリッ
でも、女の子の方からそんなことズバリと言われたりして、こっちの方が恥ずかしくなるよ。


「エ、○ロビデオなんか、も持ってないから!」
「またまたぁw」
「ホントだって!」
「分かった分かった。そんなムキになって否定するなよw」

僕はいつものように彼女の挑発に簡単に乗せられてしまった。
つい大きな声を出してしまった僕に、周りの席に座っている生徒がこちらをチラチラと見ている。
それに気付いた僕はもう顔から火が出る思いだった。

これ、全て彼女の思惑通りなんだろうね。


「でも、持ってないんだ。ふうん・・」

まだその話題を続ける栞菜ちゃん。
本当に楽しそうなんですけど、この人。


「そうか、もう最近はビデオじゃなくてネットで動画の時代になってたんだかんな」
「そうなんですy、じゃなくて、この話題やめませんか?」
「この話題ってどういう?」
「エ、○ロ動画の話しですよ!」

再び、周りの席で予習などしている生徒さんたちの手が止まり、その視線が集まったのを感じる。
そんな僕の言ったことに、固まったふうを装う栞菜ちゃん。


「そんな大きい声、出さないでよ。恥ずかしいでしょ」


純情そうに見える、その可愛らしい顔の演技が無性に腹立たしい。

この人・・・・



「授業前だっていうのに、そんなことばかり考えてちゃダメだかんな。ちゃんと勉強に集中する準備をしなきゃ」

かわいらしい顔で僕に諭すように話しかけてくる。
明らかに意識してるんだな。そしてアピールしてるんだ、周りの席に。素晴らしい演技力だ。
その結果、周りからは僕だけがまるで「へ、へんたい・・・」という視線で見られているわけで。

自分の描いたシナリオ通りに進んだことで、満足そうな栞菜ちゃん。
ハイハイ、思い通りに進んで良かったですね(棒読み)。


「話しを戻すけど、得意科目があるってのはいいことだと思うかんな、うん。しかもそれが英語ってのは有利じゃんかオメー」
「まあ、ね。それでも有原さんより出来が悪いですけどね」
「そんな卑屈になるなってw これならもっと自信持っていいと思うよ。私よりは低い点数だけどw」

持ち上げておいてから落とす。
そうやって僕をからかっては楽しそうな栞菜ちゃん。

そんな彼女に、僕の抱いた素朴な疑問をぶつけてみた。

「栞菜ちゃんは、なんでこんなに成績がいいわけ? 勉強、好きなの?」
「別に。勉強なんか好きじゃないよ。でも、やらなきゃならないことでしょ?」

急に真面目な顔になった栞ちゃん。
普通にしていると、普通にかわいい。本当に。目なんかキラキラしてて。


「やらなきゃならないことだから、やってるだけ。でも私は根が優秀だし努力家だから、しっかりと出来るようになっちゃうんだよね」
「そんな事よく自分で言えるね・・・ ゴホン でも、やればやるだけ出来るだなんて羨ましい。まるで舞ちゃんみたいだな」
「知ってるんだ、萩原が天才だって」
「うん。前にちょっと小耳に挟んだことがあってね」
「ふうん?」


「でも萩原は私のような努力型の人間とは違うよ。あいつ、本当に天才だから。何もしなくても出来ちゃうみたい」

誰が努力型の人間なんだろう、なんてツッコミたくなったが、そこには触れないでおく(それはきっとツッコミ待ちの罠だろうから)。
頭のいい栞菜ちゃんがこう言うぐらいなんだから、舞ちゃんって本当にとてつもない天才なんだな。

「実際あいつの天才ぶりは殆ど変態みたいなものでさ。天才と変態は紙一重っていうのは正にヤツのためにある言葉だね」
「そんな言葉、聞いたことないけど・・・」


あの小春ちゃんがベタ褒めするような舞ちゃん。熊井ちゃんもそう言ってたっけ。そして、この栞菜ちゃんでさえも。
そんな誰からも天才と言われる舞ちゃんは、将来の進路とかどういった道を考えているんだろう。


「舞ちゃんも大学に行くのかな・・・」
「どうだろうね。大学とかあいつあんまり興味なさそうだけど、でもまあ進学するんじゃないの?」
「やっぱり内部進学するのかな」
「そこ、気になるんだ」
「そりゃあ、まあね。僕はレベル的に舞ちゃんと同じ大学には行けないだろうけどさ・・・・」


「ま、来年になったら分かるよ」
「えっ? どういうこと?」
「来年になったら、お嬢様が進路をある程度はっきりとされるだろうから。あいつ、それを待ってるんだろうね」

そうなんだ・・・
やっぱり千聖お嬢様と・・・・


「お嬢様はどういう進路を考えていらっしゃるの?」
「前に寮生で聞いたことがあるのはね・・・・」
「聞いたことがあるのは?」

思わず机越しに身を乗り出してしまった。
目の前には、じっと僕の顔を見る栞菜ちゃん。
エキゾチックなそのお顔。真剣な顔を僕に見せたかと思うと、ふいにニヤリと口の端を歪ませた。


「おっと、ここから先の情報はそう簡単にはあげられないかんな。ホットな情報をタダで手に入れようなんて世の中そんなに甘くないかんな」


そう言いつつ、親指と人差し指で円を描くようなジェスチャーを僕に見せてくる。


金を出せ、ってことか・・・・・


この人は本当に本当にあの上品で奥ゆかしい学園の生徒さんなんだろうか。

この世の闇を感じる栞菜ちゃんのその目付き。
そんな裏の世界の人とはなるべく関わりたくない。僕は表街道を歩く人間でいたいんだ。
この手の人に対しては、毅然とした態度を貫かないとダメだ。いったん応じてしまうと、甘い汁を吸えると思われてしつこく付きまとわれることになりかねない。
だから、この怪しい情報屋さんとの取り引きに応じることはしないでおいた。

「チッ・・用心深い奴だ。つまんない男・・・・」

そう呟いた栞菜ちゃん。


お嬢様と舞ちゃんの進路について、もちろんそれは気にはなる。
いま高校1年生の千聖お嬢様。栞菜ちゃんは言った。来年になればハッキリするかもって。
でも、彼女たちよりも学年が上の僕は、それを聞いてから進路を決めることなど、もちろん時間的に不可能なんだ。
あぁ、僕はもう2年、いや、せめてあと1年遅く生まれていたら・・・・


そんな叶わぬ願望を考えていると、僕と同い年のこの人が再び僕の成績表に目を落とし、つくづく呆れたように言う。


「しかし、見れば見るほどひどい成績だかんな。本当に○高の生徒なの?」

聞こえよがしに大きい声で言うのはやめろ。
さっきからもうずっと周りの生徒は僕らのことをチラチラと見ているんだ。栞ちゃんのせいで僕の成績が丸分かりじゃないか。

「私の友達で○高に進んだ子もいるけど、こんなのと一緒じゃあ彼女たちの頑張りも水の泡だかんな。
おめーひとりで伝統校の評判を落とすようなことして。頑張ってる子たちの足を引っ張ったりするなよ」


そこまで言われるのかよ・・・

でも実はちょっと、今言われたことにはその自覚もあったりして。
だから、今の栞菜ちゃんの一連の発言には地味に傷ついた。


悔しい・・・・


でも、悔しさというものは、人を成長させる原動力なのだった。

栞菜ちゃんはある意味、天才なんだろう。
それに比べて僕は全く平凡な存在なのかもしれない。

でも今に見ていろ。
天才に打ち勝った凡人なんて、歴史上いくらでもいるのだ。

天才じゃない分は努力してカバーするしかない。
その思いで、それからの僕は必死で勉強に身が入るようになったのだから、栞菜ちゃんには感謝すべきなのかもしれない。



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