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シャワーの後、執事さん相手に暴れまわってるマサキを置いて、村上さんというメイドさんが、私をこっそり連れ出してくれた。

「すでにお嬢様から聞いてるかもしれないけど」

キノコや動物の形のランプで飾られた廊下を進みながら、村上さんはいつの間にかタメ語になって話しかけてきた。

「この別荘は、お嬢様の幼少期の思い出がたくさん詰まっているんだよね」
「ああ、そうらしいっすね。うちの学校の初等部じゃなくて、転校しまくってて、ここに住んでたこともあるって」
「そうなの。だから、こちらで過ごすときのお嬢様は、本当にリラックスしてるんだよ」

なんだか嬉しそうだ。メイドさんだから、きっと千聖ちゃんが幸せだと自分も幸せに思うんだろうな。
結構ツンとした感じだし、キツそうな顔してんのに、千聖ちゃんのこと話してるときは優しくなってる。
この人、結婚とかしてんのかな。子供預けてメイドやってたり?てか、旦那さんが執事だったりして。


「あのー、ずっと、千聖ちゃんの担当なんすか?」
「うん?そうねえ、もう、勤め始めてからはずっと、お嬢様の専属っていう立ち位置だけど」
「じゃあ、この別荘にもずっといたの?千聖ちゃんが引っ越すときは、ついていってたんすか?」

そう問いかけると、急にメイドさんの足が止まった。・・・笑顔が引きつっている。

「・・・ちょっと、あたしまだ10代なんだけど。」
「ええ?うそだー」
「あのねぇ、私千聖と年2個しか変わらないんだから」
「マジかよ、てっきりハルのおばさんと同・・・」

ベラベラ喋ってから、かなり地雷を踏みまくっていることに気がつく。
殺意すら感じるその目つき。なんで女って、年のこととか気にするんだろうな。そう見えたんだから仕方ないじゃんか。


「・・・やっぱ、かわゆい天使様に会わせるのはやめとこっかな」
「あー!嘘ですごめんなさい!ちょー若く見えるよ!ハルと同い年かと思ったぜ!」

私の見え透きまくったおべんちゃらに、もはやどうでもよくなったのか、メイドさんは再び歩き出した。
階段を上って、奥にあるドアの前まで誘導される。

「いい?今は熟睡なさってるだろうから、静かにしてよね」

BBA扱いが地味にイラッときたのか、さっきより口調が刺々しい。

「・・・あの、一つ聞いていいすか」
「なによ」
「天使って、・・・千聖ちゃんのことでいいんだよね?」

なぜそんなことを聞くのかというと、そのピンクベージュのドアに下げられたプレート。
そこに、“MION”と書いてあるから。

MION・・・みおん、っていうのは、千聖ちゃんの一番下の妹だっていうのは知ってる。
でも、会った事もないその子の寝顔なんて見せられても・・・。苦手なんだよね、友達の家族自慢とか、ワンちゃん自慢みたいなの。興味ないっていう。

そんな私の心をなんとなく読み取ったのか、メイドさんは不敵に笑った。

「ふふふ。みおん様は、今は違う場所に滞在なさってるから」
「じゃあ・・・部屋に入ったら、マサキが寝てるってオチじゃない?ハルそんなんだったら、ガチであいつのこと窓から投げ落とすから」
「用心深いなあ」
「だって・・・」

今日は想定外のことが起こりすぎて、かなりナーバスになっている。
のこのこつれてこられたはいいが、やっぱりガックリさせられちゃうんじゃ、さすがの私だって精神が持たないというもの。

「まあ、安心してよ。工藤さんみたいなタイプをキレさせてへこませるのは楽しそうだけど、それは今じゃなくてもいいし」
「さらっと怖いこと言うなよ。つーかその性格で千聖ちゃんのメイドって」

無言で私の反論を受け流したメイドさんは、そのままドアをそっと開けて、私に入るようにとあごで促してきた。

「おじゃましまーす・・・」

一歩足を踏み入れたそこは、まるでおもちゃ箱の中のようだった。
薄いピンク色の壁紙。少女漫画に出てきそうな、透明なグランドピアノ。
たぶんオモチャ箱だと思うけど、でっかい宝石箱みたいなのが、2,3個並んでいて迫力がある。

「すっげー」

他にもドレスとかぎっしり詰まってそうなでっかいクローゼットや、小さいシャンデリアも目を引いて、私はしばしその場に立ち尽くしてしまった。

ぼく・わたしがかんがえたさいきょうのこどもべや(キリッ)みたいなこの状況。まあ、私の好みとは少し違うんだけれど、それでもやっぱり見蕩れてしまうような魅力がある。

「ほら、あっちの部屋。天使様がいるから、いっといで。私はお茶入れてくるから」

メイドさんが私の背中を押す。
見れば、クローゼットの横にもドアがあった。くれぐれも、マサキが寝てるってオチじゃありませんように。などと祈りを込めながら、その金色のドアノブを静かに引いてみる。

「お邪魔しまーす」


その部屋には、真ん中にカーテン?みたいな白いレースに覆われた大きなベッドがあって、どうやら寝るためだけの場所のようだった。
外から見たときにあった、ステンドグラスの大きな窓から優しい日が差し込んで、キラキラとカラフルにお部屋を照らしている。

ほのかなバニラの香りが漂ってきた。
それだけで、今このベッドの中にいる人がわかってしまう。

「・・・千聖ちゃん」

名前を口にすると、幸せなような、胸が締め付けられるような気持ちを覚える。
震える手で、そのレースのベッドカーテンを捲くると、やっぱり、私の思い人は、そこにいた。

数え切れないぐらいたくさんのぬいぐるみに見守られながら、赤ちゃんみたいに丸まった姿勢で、スースーと小さく寝息を立てている千聖ちゃん。
・・・ものすごく、可愛いと思った。高等部のおねえさんだなんて、信じられない。お口がちょっとだけ開いちゃってて、その寝顔はとても幼い。
普段の千聖ちゃんの顔って、キリッとしてて、トビイロ(ってかりんが言ってた!)の眼が魔女みたいに神秘的だから、ギャップを感じる。
ほっぺ、ぷくぷくしてる。指で軽くつつくと、千聖ちゃんはイヤイヤするみたいに顔をもぞもぞ動かした。

――ああ、本当に天使だ。こんな人、見た事ない。
守ってあげたいって思う。年上の人に失礼かもだけど、私が千聖ちゃんの笑顔や、この寝顔を守りたいって。

「ん・・・」

指先で手のひらに触れると、丸くて柔らかな指が、私の手を包む。
どうしよう、どうしよう。心臓がドキドキする。
そして、私の脳裏に、ある具体的な欲求がムクムクと擡げてきた。


――千聖ちゃんのほっぺたに、ちゅーしてみたい。



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