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振り向くとそこには、あの学園祭のBuono!ライブで僕を囲んでいた桃ヲタの一団の人たちがいた。

「よぉ、久し振りだな。元気にしてたか?」

せっかくなかさきちゃんと2人っきりでいる、こんなときに会うなんて。信じられないタイミングの悪さだ。
まったく、この人たちはとことん僕の邪魔しかしないんだな。さすがあの桃子さんのファンというだけのことはある。


そんな桃ヲタさんたちの視線が、僕の横のなかさきちゃんに集まっているのが見て取れた。

一方なかさきちゃんの方はといえば、突然現れた男性グループに固まってしまっている様子。
学園の風紀委員長さんにとって、この状況は普段では決してありえない状況なのだろう。

しかも、その男共が揃って自分を凝視しているのだ。その視線に、なかさきちゃん極度の緊張に陥っているみたい。
僕を含めて自分の周りを男性に囲まれて、そのかわいいお顔はすっかり引きつってしまっている。
でも、その引きつった顔が、また彼女独特のかわいさで。男の本能を刺激する、って言うかなんていうかゴホン。

「おい少年。このかわい子ちゃん(死語)はお前の何なんだよ。まさかお前の彼女とか言わないよな。まさか、こんなカワイイ子が」

その言葉になかさきちゃんは更に言葉を失っている。
でも、僕はちょっとしたイタズラ心でふざけてみたくなった。この桃ヲタさん達相手に。
あともう一つ、なかさきちゃんに対しても。

「え、彼女に見えます? そうですか。なっきぃ、僕らは付き合ってるように見えるんだってw」
「ギュフーーーーー!!」
「まぁ、残念ながら違いますけどね。彼女じゃあないです。でもまぁ、それに似たようなものかもしれないけど」

口をパクパクしているなかさきちゃん。

これでウザい桃ヲタどもから話しの主導権を取ったつもりだったが、すぐにそれは逆転されることになるのだ。


「え? でもお前、あの好きだって言ってた子はどうしたの? 舞ちゃん、だったっけ?」
「な、なんで知ってるんですか、それを!?」
「何言ってるんだよw お前、学園祭ライブの反省会で熱く語ってたじゃないか。酔ってたから憶えてないのか?」
「結婚するんだって息巻いてたじゃないかww  その後どうなってるんだよ」

憶えてないぞ、そんなこと。
確かにあの時、僕は初めてアルコールというものを口にしてしまい、記憶がところどころ飛んでいるんだけど。

「酔っ払ってって・・・あなた未成年でしょ。それなのにお酒を・・・」

違うよ、なっきぃ!
それは僕の意思じゃないんだ。あの時は、こいつらに無理やり飲まされたんだ!

って、別にそんなことはどうでもいい。
それより、なかさきちゃんと一緒にいるこの場でそんなこと言い出すなよ!
ホント空気読めない人たちだ、こいつら!

「なんだ、もう次の女の子なのか・・・・ 結構移り気なんだな、少年は」
「また違う子とかw 愛理ちゃんのことも熱く語ってたくせに、もう飽きちゃったんじゃないのか」

その言い方は語弊があるだろ! 
なかさきちゃんを見ると、あからさまに僕から距離をとっている様子がはっきりと分かった。
そして、次に彼らの言ったことにも彼女はショックを受けたようだ。

「すぐに推し変するような奴は下に見るからな。俺らを見習えよ。ももち一筋の俺らを」
「嗣永さん一筋・・・」

“桃ヲタ”という人種を信じられないような目で見ているなかさきちゃん。
その反応はある意味正解だし、そもそも僕にとってはそんなことはどうでもいいことだ。
でも、その前の僕に対する反応だけは、ちょっと我慢ならない。

こんなに一途な僕に対して、なかさきちゃんはまるで浮気性の男を見ているかのように軽蔑的なその眼差し。
違うよなっきぃ、違うんだ!!!


その時、アナウンスで順番待ちの桃ヲタさんたちに呼び出しが入った。
この人たち、やっといなくなってくれるよ、やれやれ。
とんだ邪魔が入ってしまった。全く時間の無駄だった。


と、そのとき桃ヲタが予想外のことを僕らに口にした。

「良かったら一緒にやるか?ボウリング」
「「えっ!?」」

なかさきちゃんと一緒にボウリングができるのはいいけど、こいつらと一緒かよ・・・
そんなことを思った僕が口を開こうとする前に、先手を打つようになかさきちゃんが先に返答した。

「良かったじゃないですか。やりたかったんでしょボウリング。あなたは一緒にやらせていただけばいいんじゃないですか?」
「あなたは、って、なっきぃは?」
「私はもう帰ります」

棒読み口調。黒目がちなそのかわいい目は焦点を結んでいなかった。無表情。

「なっきぃが帰るなら、僕も一緒に帰るよ。送っていくかr
「結構です!」

ピシャリと言い放つなかさきちゃん。

「それじゃ皆さん、私はこれで失礼します」

そう言うやいなや、踵を返して歩き出したなかさきちゃん。
その彼女の後を僕は追いかける。


「待ってよ、なっきぃ?」
「・・・・・」

すっかり険しい顔になっているなかさきちゃんが僕を睨みつけている。

「僕も一緒に帰るよ、それでどこかでお茶でも・・・・」
「お断りします。いま言ったでしょ。私はもう帰りますから、 ひ と り で 」

言いかけた僕に対して、なかさきちゃんは完全に棒読み。
僕に向けているその視線ももはや茫洋としたものになっていた。

「なっきぃ・・・」
「その呼び方、本当にやめてください」

その抑揚の無い言い方が、かえって彼女の心象を表している。
なかさきちゃん、僕の事を相当不愉快に思っているのは明らかだ。

「やはりあなたは女の子なら誰でもいいと思ってるような節操の無い人なんだ、ということが改めてよく分かりました」
「あいつらの言ったことは違うんだ!」
「ゆりなちゃんがかわいそう・・・・」

は?
なんで熊井ちゃん?

なかさきちゃんが言ったことに、思わず言い返しそうになった。
でも、彼女は僕が何か言ったら即座に反論してやろうと待ち構えているかのような態度を崩さなかった。
だから、僕は何も言い返せない。今はもう彼女に何を言っても徒労に終わるだけなんだ。


誤解が誤解を呼んでいる。
ていうか、根本から間違ってるよ、なかさきちゃん。
僕にはそれが分かっているのに、その絡まった糸を解きほぐすにはいったい僕はどうすればいいんだ。
目の前のなかさきちゃんは、僕の言うことなんかもう全く聞いてくれない様子。

なかさきちゃんはジトッとした視線を崩さない。
絶望感に捕らわれながらも、その誤解を解くべく何とか伝えようと言葉を搾り出す。


「なかさきちゃん、大切なのは99%の噂より1%の真実だよ。なかさきちゃんは、その1%の真実を信じることができる人でしょ?」

「だから、私はその1%の真実を知ってしまったという実感があるんですけど?」

完全に無表情になってしまったなかさきちゃん。
こうなってしまった彼女は、もう僕の言うことなんかまともに聞いてくれていないんだ、いつもいつも。
何を言っても、このように僕の言うことには反射的に反論をしてくるだけ。


彼女はそれっきり二度と振り返らず行ってしまった。


結局、今日もなっきぃ(←しつこい)は僕に心を開いてくれなかった。

でも、まあ焦りは禁物だ。
今日だって僕の誘いを断らなかったじゃないか。
何だかんだ言っても彼女は僕のことを無視しきれないってことは、既ににそれだけ気になる存在になっているのかもしれないんだからな。

うん。ゆっくりと彼女の心の氷を溶かしていこう。
僕の事をもっと知ってもらえば、いろいろな誤解も解けるだろう。
そして、きっと彼女だって本当は僕と仲良くなりたいと望んでいるはずなんだから。
今はまだ、僕が「男子」というだけで警戒を解いてもらえないけど。
いつかはきっと分かりあえる日が来るはずだ。そうだよね、なっきぃ?


それが大いなる勘違いということに僕は全く気付かないまま、去っていくなかさきちゃんの後ろ姿を見守っていた。
本当にかわいいなあ、なかさきちゃんは。
彼女のあの蔑むような顔で見られるのだって、あれはあれでなかなか。正直たまりません。なんて呑気に考えながら。


 * * * *


なかさきちゃんとのやりとりで放心状態になりつつあったそんな僕の耳に、心地よくない男の声が聞こえてくる。

「なんだ、振られたのか少年」
「彼女と一緒にボウリングやりたかったのに・・・帰るんなら少年お前が一人で帰れよ、本当にKYなやつだなぁ」
「これじゃわざわざ誘った意味がないじゃんかよ。まったく・・・」

言いたい放題の桃ヲタども。
なんだよ、その僕が全て悪いみたいなこの場の雰囲気は。

「まぁまぁ、少年もショック受けてるみたいなんだから勘弁してやれw
それより、この後は飲みに行くからな。少年も付き合えよ。今夜もBuono!のこと語り合おうぜ」

だから、なんで僕がお前らにこのあと夜まで付き合わなきゃならないのか。
僕のことを酒のつまみとでも勘違いしていないだろうな、こいつら。

「あのですね、僕は未成年なので酒は絶対飲みませんし、決して無理やり飲ませたりもしないでくださいよ」
「分かってるって。そんなこといちいち言われなくてもw」
「あと、人の話しもちゃんと聞いてくださいよ。桃子さんのことだけじゃなくてBuono!全体の話しをしましょうね」
「くどい! しつこいヤツだ。そんなだから振られるんだよ。まぁ、その辺も後でじっくり語り合おうぜ!」


だが、僕は後ほど痛感することになる。
人間、酔っ払うと口約束なんてそんなものは簡単に破るんだということを。

こいつら性懲りも無く同じ事を繰り返しやがって。
ももちももちももち・・・・それしか話すことないのかよ!



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