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「まあ、早かったのね。いつもありがとう」

千聖ちゃんはゆっくり体を起こすと、気だるそうに前髪を手で払った。
その仕草がとても大人っぽく見えて、ドキドキする。私じゃ絶対、さまにならないだろうな。

「ラッピングは御不要とのことでしたので、箱で失礼します。どうぞ、中身をご確認ください」

みずきちゃんも、変態の癖にかしこまった口調と表情。
抱えるぐらいの大きさの白い箱をサイドテーブルに移動させると、千聖ちゃんは丁寧な手つきで、それを開き出した。

「お手伝いします、千聖様」
「ありがとう。うふふ、遥もいらっしゃい」
「う、うん」

厳かな手つきで取り出されたのは、天使が楽器を演奏しているデザインの時計。
クリスタルっていうんだっけ?透明なガラスみたいなのに、金色の草?ツタ?模様が細く絡まっている。
ガラスじゃないのは、私ごときでも見てわかる。ピッカピカのキラキラに輝いて、触ることもためらわれる感じ。
100まんえん(ハルの考える最強の金額だ!)ぐらいはするんだろうな。それを、千聖ちゃんは涼しい顔して手にもって眺めている。お金持ち、恐るべし!


「いかがでしょう?すでに大旦那様から伺っていらっしゃるとは思いますが、スイスの骨董品店から取り寄せた品でございます」
「すっげー、何その言葉遣い」

あ、いてえ!足踏みやがったな。


「ええ、とても素敵な時計ね。この部屋に映えると思うわ」
「ここで使うの?だから持ってきてもらったんだ」
「うふふ。正確には、私が使うわけではないのだけれど」

千聖ちゃんはなぜか、首をすくめていたずらっぽく微笑んだ。

「遥、この時計を飾って頂戴」
「・・・えええ!?ハルが?」

思わずみずきちゃんの方を見る。
さすがに自分ちの商品だからか、私の顔を見つめるその微笑みは「おいやめろばか辞退しろ」「クリスタルぶつけんぞ」という恐ろしいメッセージを孕んでいる。
基本、誰にも負けたなくないというポリシーを持って生きてるんだけど・・・こればっかりは、何かあったら家族親類に被害を及ぼす可能性が考えられる。金銭的な意味で。


「ハルに任せるのは、辞めたほうがいいんじゃないかなぁ」
「まあ、どうして?」

うう・・・そんな目で見ないでおくれ、千聖ちゃん。
嫌なものは嫌だって突っぱねられるのが私だったはずなのに、千聖ちゃんの深い茶色の瞳は、魔法のように私を迷わせてしまう。

「だって、ハルよりみずきちゃんの方がセンスいいし」
「でも、千聖は遥にお願いしたいわ」

眼を三日月にした千聖ちゃん。ああ、ほんとにとても可愛らしい。

「この時計はね、私から末の妹へのプレゼントなの。
新しい時計を欲しがっていたから、次に妹・・・海夕音がここへ来たときに、驚かせたいと思ったのよ」
「それは・・・驚くだろうね。こんなすっげーのあったら。・・・いや、それはいいとして、なんでハルが飾るんだよぅ」
「だって、遥は私の大切なお友達でしょう?だから、ここへ招待させていただいたわけだし」

――あ、なんかグッときた今の。
友達かぁ。妹じゃなくてよかった。しかも、大切って言ってくれた。おいコラ、聞いたかマサキ!お前とは違うんだぜ、あたしは押しかけ組じゃなくて、しょ・う・た・い・きゃく!

「はーいまーちゃんは押しかけ女房でござる」
「うおお!いきなりいるなよ!」

突然、マサキが背後から私の肩にあごを乗せてきた。

「呼ばれて飛び出てまーちゃんちゃーん!」
「あら、まーちゃん。どちらにいたのかしら?」
「お庭でメガネ星人Σ(執△事;)となぞなぞ大会を開催していました!」

くっそーマサキの奴。後からきたくせに、千聖ちゃんの気持ちを惹きやがって。
さらに奴の目は、千聖ちゃんが抱いている例のクリスタル時計に向けられた。


「キャーありがとうございます!まーちゃんお誕生日おめでとう!」
「お前まだだろうが!」

手を伸ばそうとしたところを、襟首を掴んでどうにか取り押さえる。

「えーじゃあ、すどぅのですか?じゃあまーちゃんこっちのステンドグラスにしますね」
「人んちの窓持って帰るんかお前は!山賊か!」

もはや手がつけられなくなり、爆発寸前のところで、みずきちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。

「あらあら、うふふ。ではマサキさんには、こちらを差し上げます。天使の時計は、お嬢様から妹様へのプレゼントなので」

みずきちゃんがバッグから取り出したのは、ピアノの形をしたキーホルダーだった。真ん中に時計が埋まっている。

「きゃーかわいいですね!ありがとうございます!さすがすどぅさんの母ですね!年配者の貫禄ですね!」
「・・・・うふふふふ?」

みずきちゃんの視線が一瞬で凍り、目にも止まらぬ速さで、マサキに渡しかけていたその時計が引っ込められた。

やっちまったな、マサキ・・・。あたしもさっきそれやらかしたぜ、メイドさんにな。


「おろろ?まーちゃんの時計?」
「うふふ?そんなものは最初からなかったわ」
「きゃー手品ですね!」
「手品で時計は消せても、人の記憶は消えないのよ、マサキさん・・・」


もう、なんなのさ一体・・・。

「遥、いらっしゃい」

2人の漫才をよそに、千聖ちゃんがつんつんと私の背中を指で叩く。

「時計、飾ってくださるんでしょう?置く場所を決めてちょうだい」
「うー・・・わかったよう」

下手にマサキがこれに執着を持つ前に、さっさと終わらせよう。千聖ちゃんからのお願いだもん。

「場所かぁ」

ベッドサイドテーブル、枕もとの小さい棚、入り口の花瓶の横に、たんすの上。
この時計が映えそうなところはいっぱいあるけれど、私の目に止まったのは・・・


「千聖ちゃん、決めた!時計貸して!」
「まあ、本当に?ウフフ、気をつけて持ってね」

木の台座のところを持てば安定するわよ、とみずきちゃんからアドバイスを受け、慎重に足を進めていく。
“その場所”にゆっくり天使の時計を下ろすと、すぐに千聖ちゃんの隣に戻った。


「・・・どうかな、ここ?」

私が選んだのは、さっきマサキが強奪しようとした、ステンドグラスの出窓の前。
予想通り、そのカラフルな光を取り込んで、クリスタルもキラキラと輝いている。

千聖ちゃんはしばらく、じっとその場所を見つめていた。
こういう時の千聖ちゃんって、表情がなくなっちゃうから焦って、焦って思わず口数が多くなってしまう。

「ど、どうかな?だめだったら動かしてね、ハルこういうのよくわかんねーし」
「・・・」
「え、変えようか?変える?」
「・・・え?あら?ごめんなさい、私ったら。いいのよ遥、座ってちょうだい」

珍しく、手を握ってくれた。そのまま、顔を覗き込まれる。
私よりも背が低い千聖ちゃんだから、間近での上目づかいは意識が飛びそうなくらい可愛い。

「時計がとても綺麗で、見とれてしまったわ」
「ち、ち千聖ちゃんの方が綺麗だよ」
「プギャー」
「うるせーぞマサキ!」

気に入ってもらえたのならよかった。千聖ちゃんの笑顔が、ハルにとって何よりのご褒美なのだ(キリッ)。

「色々な色みが映えて、天使の装飾がより際立っているわ。素敵な感性ね、遥。たくさんの色を持っている、まるで遥ご自身の心のありようのようだわ」
「あ、ありがとう・・・」

こういう、女の子っぽいことで褒められると、どうしていいのかわかんなくなる。

「何か、お礼をしなくてはね」
「え!いいよ全然。ハルそういうつもりでやったんじゃないし」
「でも、千聖は嬉しかったから。なにかお望みがあれば言って頂戴」
「あー・・・」

あまり、遠慮をし続けるのも失礼にあたるって、昨日読んだマナーの本に書いてあった。
だけど、お金が絡む事はよくないと思うし、かりんみたいに妹にしてもらうっていうのも違う。
夕食のメニューを決めさせてもらうとか?いや、ハル子供じゃねーし(キリッ)

「まあ・・・私ったら、遥を困らせてしまって」
「あー!そんなことないよ。ごめん、えーと」

慌てた拍子に、ふとさっき千聖ちゃんが言っていた言葉が急に頭をよぎった。
――よし、これだ。

「遥?」
「千聖ちゃん、ハルのお願い事。
車の中で言ってた、千聖ちゃんのお気に入りの砂浜に連れてって」



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