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一通りいじられた僕は、今度はえりかさんのことを聞いてみる。

「専門学校の生活は厳しいって聞いてますけど、大変じゃないですか」
「うーん、厳しいは厳しいけど、楽しいよ。だって好きなことだからね」

そう言ったえりかさん、いいお顔をされている。
彼女の言ったこと、まさしくその通りだと思う。
好きなことだからつらくても耐えられるし、それを楽しめるんだ。

「そうですよね。うん、わかります!」
「だからウチは毎日が充実してるんだ。あなたはどうですか? 楽しい毎日を送ってる?」
「僕ですか? どうなんだろう・・・」

不意をつかれたその質問。
楽しい毎日かと聞かれると、どうなんだろう・・・
そう思うのは、脳裏にK井さんやM子さんやA原さんのことが浮かんできたからだが、必死でそれらを追い払う。


「あなたの楽しいことって何ですか?」

そうやって改まって聞かれると、ちょっと考えてしまう。
僕の楽しいこと? なんだろう・・・

僕は自分の生活の中で何を楽しみに毎日を過ごしているのか。
学校生活?友達や仲間との語らい?新しいことに出会う瞬間? すべて楽しい。それは間違いない。
だから、僕は今の毎日を十分にエンジョイできていると思えるけど・・・

でも、僕が毎日の生活を楽しいと心から思えるのは、ある存在があって、そのお陰でいつだって充実感を感じていられるからだ。

僕の心の中にいる、僕にとって天使のような存在の彼女。
そんな舞ちゃんの存在こそが、いついかなるときも僕を幸せにしてくれているんだから。
僕が毎日幸せに過ごせるのは、それは彼女のおかげ。ありがとう舞ちゃん!! 


一瞬でそんなことを考えて盛り上がってしまった僕は、えりかさんの聞いたことに対して即答していた。


「僕の楽しいこと・・・それはですね、舞ちゃんのことを思うことです!!」


言ってからすぐに気付いた。
自分のテンションが不意に上がってしまい、勢いで思わずとんでもないことを口走ってしまったことに。

なっ、何を言ってるんだ、僕は!
ストレートすぎるだろ! しかも、実名まであげて!!


僕の言ったことに、えりかさんが目を見開いている。
でも、優しいえりかさんは僕の言い放ったことを聞いても、それをからかってくるとかそんなことはしなかった。
(ちなみに、これが桃子さんだったらry)


そう、えりかさんは優しい表情を浮かべて僕の言ったことを聞いてくれた。


「そうなんだ・・・」


「本当に好きなんだね」


区切るように話す彼女のその言葉に、思わず真剣な気持ちにさせられる。
僕は真面目な顔をして大きく頷いた。


だが、そうやって自分の気持ちを再確認したあとに、いつも湧き上がってくる別の気持ちがあるのだ。
今もまた、その気持ちが襲ってきた。


「でも、僕が勝手に思ってるだけです・・・・」


「えっ? どういうこと?」
「僕が一方的にそうやって思ってるだけで。舞ちゃんは別に僕の存在なんかどうでもいいんだろうし・・・」


そう言うと、何かつらい気持ちがもたげてきて思わず下を向いてしまった。
自分で勝手に盛り上がって宣言しておいて、自らそれを落とすようなこと言って凹んだりして・・・
なんだかバカみたいだな、自分。

そんな僕に、えりかさんが言葉をかけてくれた。
それは、いつも通学路で見ていた寮生を温かく見守るような、そんなお姉さんのえりかさんだった。


「どうでもいいと思ってるのかどうかなんて、そんなのは分からないけど・・・ウチ舞ちゃんじゃないから」


「でもね、舞ちゃんは裏表の無い子なんだ本当に。もしあなたの存在を疎ましく思ってるなら、はっきりそうと分かるような態度を取るんじゃないかなあ」
「疎ましく思ってるのが分かるような態度・・・?」
「舞ちゃんの思ってること、一目でそれを分からせるような態度ね。舞ちゃん、容赦しないからね」


ちょっと苦笑を浮かべつつ、えりかさんが言葉を続ける。

「うん。だから、もし舞ちゃんが本当にそう思ってるんなら、舞ちゃん絶対にあなたに会わないようにするだろうし、
それどころか、会わないで!ってキッパリと言ってくるんじゃないのかなー。舞ちゃん、そういうの本当にハッキリとしてるから」


「そんなことされたりしたのかな?」


そう聞いてきたえりかさんのその言葉。
それは僕の気持ちを奮い立たせてくれるのに十分なものだった。気持ちがリカバーしてくるのを実感する。
だって、僕は舞ちゃんからそんなことを言われたことは無いし、学校への途中ほとんど毎日舞ちゃんの姿を見ているんだから!
(僕がはっきりと言われたのは「ちしゃとに近づくな」ということだけだ。それを守ってるのかは自分でもよく分からないけど)

えりかさんが聞いてきたことに、僕は首を横に振る。
僕の反応に、ふっ、と軽く微笑んだえりかさんは、視線を外すと窓の方をぼんやりと見やった。

少しのあいだ僕とえりかさんの間に沈黙が続いた。

視線を窓の外に向けていたえりかさんが独り言のようにつぶやく。


「とってもかわいい女の子だよね、舞ちゃん」


そう呟いたあと、僕に向きなおって微笑んでくれたえりかさん。


ありがとう、えりかさん。
今日僕は疲れ切っていたはずなのに、彼女のお話しを聞くことが出来た今、とても気力が充実して力がみなぎってきていた。
えりかさんに会えて本当に良かったなと思う。


「ありがとうございます。なんか、今日えりかさんに会えたのはとても大きかったような気がします僕にとって」


えりかさんは僕の言った礼を聞くと、一回頷いたのち、話題を変えてきた。
その話題は、僕の高ぶっている気持ちを一気に冷やしてくれるものだったのだ。


「それにしても、栞菜といつの間にか仲良くなってたんだね。そっちの方がウチにとっては驚きだったよ」

いま僕の頭からすっかり抜け落ちていたその名前。

舞ちゃんの話題で浮かれモードになっていた僕だったが、その名前が出てきたことで一気に現実へと引き戻された。
背筋に冷たい汗も流れてくる。僕の健康な体は、その名前を耳にしたことで条件反射を起こしているのだ。

その名前を聞くだけで、ここまで体が拒否反応を起こすとは。
もはや僕のアレルゲンになっているのか彼女の存在は。
恐るべし、有原栞菜。


この展開を狙ってるとしか思えないようなえりかさんの言動だけれど、そこに悪気など全く無いのは一目で分かるわけで。
これが天然さんの恐ろしさというものか。それをまざまざと見せられた。

動揺している僕とは対照的に、ピュアな瞳で僕を見ているえりかさん。
今もまだ僕を真っ直ぐに見据えている目の前の美人さんを見て、僕は思わず固まってしまったのだ。



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