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「だいたいねー、君たちはもぉに対するリスペクトが足りてないんだよね!」

別荘の食堂。
海辺から戻った私たちは、千聖に着替えを借りて、そのままティータイムに誘われた。
さっきネタにされてしまったももは、ぶーぶーと口を尖らせながら、執事さんお手製のメープルスコーンにかじりついている。

「だって、ももちゃんなのに。千聖とそんなところで共通点があるなんて、想像ができなかったのよ。ウフフ」
「ちょぉ、それ褒めてないでしょ。絶対もぉのこと珍獣扱いしてるでしょ!」
「あら、違ったんですか?とかいってw」
「もう、メイドさんまで!嗚呼、なんて可哀想なプリンセスピーチっち・・・なぇ、舞波?」
「あははははははは」
「ムキーッ!!」

ももの大爆発に、食堂に笑い声が弾ける。
ふと、私の隣に据わっている、私服に着替えためぐぅさんと目が合って、どちらともなくエヘヘと照れ笑いを交わした。・・・こちらも、すごくお久しぶり。

「舞波さん、御無沙汰してました。元気そうでよかった」
「いえいえ、めぐぅさんこそ。ますます大人っぽくなられて」

そう返すと、めぐぅさんのクールな口元がヒクッと引きつった。


「・・・私、舞波さんに“年上かと思った”って言われたの、昨日の事のように覚えてますからね」

――あらら、さすがの記憶力。

「でも、めぐぅさんはすごく大人っぽかったから。落ち着いていて、ふわふわしてた私とは大違いでうらやましかったんですよ」
「あら、そう?何か、舞波さんの言葉だと素直に入ってくるわ。嗣永さんに同じこと言われたらちょっと・・・とかいってw」
「ちょっと、今もぉ関係なかったでしょー!」

ああ、何かめぐぅさん、明るくなった。
出会った当所から、年に似合わない聡明さとオーラを放出していたけれど、そこに柔らかさが加わった感じ。
私も千聖もそれぞれ問題を抱えていたあの頃、はっきりそうとは言わなかったけれど、めぐぅさんも何かに思い悩んでいる様子だった。
思い人がいるのかな?なんていつもの直感みたいなので思っていたけれど、もしそうであるなら、きっと2人の関係に、嬉しい変化が生じたということなんだろう。
ふと、いつか、そんなお話も聞いてみたいななんて思う。努めて、あまり人と係らずに生活してきた私にとっては、自分でも意外に感じてしまうような願望だ。

「ふふ」
「また舞波笑ってるー!」
「もものことじゃないよ、あはは」

ただ話しているだけで、自分自身の変化を感じさせてくれる友達。
私は素敵な人達に支えられて生きている。何気ない日常の中で、そんなことを感じさせてくれる。

「舞波ちゃん、本当に笑顔が増えたのね」

なんだか嬉しいわ、なんて千聖はつぶやく。
このタイミングで、私の心を見透かしたかのような千聖の発言。思わず顔が綻んでしまう。


「・・・何か、私よりずっと、千聖のほうが不思議な力を持ってる気がするなあ」
「まあ、千聖が?考えたこともなかったわ。でも、舞波ちゃんがそう言ってくれるなら、そうなのかもしれないわね。・・・それで、千聖にはどんな力があるのかしら?」

――千聖の力。欲しい言葉を素敵なタイミングでくれる。話してるだけで、安心させてくれる。
その神秘的な色の瞳で、人の心を裸にしてしまう。

「面白いね、千聖」
「まあ、千聖が面白いの?よくわからないわ」
「あはは、そっか、うん」

――そして、そんな自分の魅力に全然気がついていないことこそ、ある意味千聖の一番不思議な“力”なのかもしれない。
千聖の周りに集まってくる誰もが、その魅力に引き寄せられているんだろうに。
生きてるだけで、誰かの力になれるなんて。私の自慢の友達ときたら、やっぱり只者じゃない。

「・・・お嬢様、そろそろ」

しばらくの歓談の後、めぐぅさんがふと柱時計に目を遣った。

「ええ、そうね」

言葉少ななコミュニケーションだけれど、2人はお互いの意思を確認しあえたらしい。同時ぐらいに椅子から腰を浮かす。
その慣れた感じのコミュニケーションに触発されたように、私の口も無意識に動いていた。

「よろしく伝えておいてもらえるかな?」
「え?」

言ってしまってから、あららまたやっちゃったと気がついた。
どうも、好きな人達の前だと油断してしまって、この早合点とも言えるような力を披露してしまう。

「・・・さすが舞波さん!」
「そうね、ウフフ」

そして、そんな唐突すぎる私の意図を、瞬時に読み取ってくれるお二人さん。

「まだ、私は会わないほうがいいかなって」
「まあ、残念だわ・・・。でも、舞波ちゃんがそう言うのなら、そうなのでしょうね」
「でも、私が勝手にそう思ってるだけだから、叱ったりしちゃだめだよ」

そんな私たちの会話を、しばらく首をかしげながら横で聞いていたもも。

「・・・あー、そういうことね。ふむふむ」

こちらもさすがの察しのよさで、「行ってらー」なんてひらひらと千聖とめぐぅさんに手を振ってお見送り。
やがて2人の足音が遠ざかり、階段をタンタンと上っていく音が聞こえたところで、私はくるりとももの方へぶりかえった。


「「じゃあ、帰ろうか」」

声が揃って、2人同時にぷっと吹き出す。

「絶対そう言うと思ったんだー」
「あはは、タイミング合ったねー」

ももは本当にすごい。頭がよくて、勘もよくて。


「1時間34分」
「ん?」
「・・・前に千聖に会った時より、今日は長く、一緒にいられた」

その何の脈絡もない私の言葉に、ももはスッと目を細めて軽くうなずいてくれた。

「2人の約束事なの。お互いに成長できたって思えたときに、会おうねって。
私も進路に関してようやく気持ちが定まってきたところだし、千聖も、そう・・・ほら、慕ってくれる年下の子ができたり、変化が生じている時期だったのかな」


大きな窓の外に目を向けると、もう太陽は夕日へと変化して、室内を淡い朱色へと変化させていく真っ最中のようだった。人恋しいような、うっすら寂しいような・・・もう少し喋りたい。そんな気持ちが湧き上がってくる。

「私、千聖のことが大好き」
「うん、もぉもだよ。
千聖には何度も助けてもらってるもん。あの子、そんな気、全然ないんだろうけど」

適当に人に合わせたりなんかしないももの、殊更はっきりとした声で告げられたその思い。
こういう、直球な思いを話してくれるのは、珍しい事のように感じる。
千聖を通じて、また1つ、人の心の大切な場所に触れられたような気がする。

――そう、これもきっと、千聖の魔法。

「もも、1駅歩けるかな?私の話、ももに聞いて欲しいな」
「うん?」

言葉にしないでもわかりあえるって素敵だけれど、言葉にするからわかりあえるっていうのも、それはそれでいいことなんじゃない?

「バイバイ、またね。千聖、めぐぅさん」

ステンドグラスとキノコの総力の、かわいいドアをそっと開けて、なんとなく忍び足で外へ出る。
次は2時間?はたまた15分?私たちの逢瀬の時間は、お互いの成長のバロメーター。
お別れのすぐ後だっていうのに、今度会う時の、千聖の変化がすでに楽しみになってしまっている。

「うふふ、それじゃ、歩こっか!これからのアイドルはぁ、体力づくりも必要でぇ(ry」

波の音をBGMに、ももと方を並べて歩く。

「・・・もも、突然なんだけど、私って、昔宇宙人だったみたい」

私のいきなりの発言を受け、スッと真顔に戻り、その後すぐににっこり笑うもも。・・・ああ、千聖だけじゃない。私の周りには、素敵な魔法使いさんが、まだまだいたようで。

「最初はあまり、良い意味じゃなかったと思うんだけど、今は結構気に入ってるかも。・・・千聖が、素敵だって言ってくれたからね」
「へー、それで、舞波のどの辺が宇宙人なの?」

過去のこと、現在のこと、未来のこと。
包み隠さず話せる友達の存在が、また私を変えていく。

夏の夕暮れ、オレンジと朱色の中間色に染められながら、私のほっぺたはいつになく綻んでいた。



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