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その晩、僕はずっと落ち着かない気分でいたんだ。

だって、あのりーちゃんから電話がかかってくるかもしれないのだから。
情報源が桃子さんであるということは確かに引っかかっている。
でも、電話を掛けてくるのが梨沙子ちゃんなんだと思うと、やはり心の平静が保てるはずもない。

もぉ軍団一般人部門の梨沙子ちゃん。あの軍団にあって唯一の常識人。
そんな梨沙子ちゃんが僕に何の用なんだろう。

何もなければ電話なんかしてくるわけがない。何かあるから電話をしてくるわけで。
それを桃子さんから聞いたとき思い至ったことが、僕の頭の中を支配する。

そう、僕と梨沙子ちゃんの間にはこれから何かが起こるわけだ。
僕がその電話を受けることで、僕らの間にこれから何かが始まる。


この電話をきっかけにして、ひょっとして梨沙子ちゃんと親密になってしまったりするのかな・・・ムフフ。
りーちゃん。あんな超絶カワイイ子と!!


梨沙子ちゃんのことに思いをめぐらせると、僕の脳内は一気に妄想の世界へといざなわれてしまいそうになる。
桃子さんのあの意味ありげな微笑みでさえもすっかり忘れてしまうぐらい、僕はもう高まりまくりになってしまった。
だって、これから僕がお相手をするのは、あの梨沙子ちゃんなんだから!

普段、たまに会えるときもその事は意識してなるべく考えないようにしているんだが、梨沙子ちゃんって本当にかわいいよね。
実は彼女は結構僕のタイプだったりする(舞ちゃんには内緒)。
会うたびに見とれそうになるのを、僕はいつも必死で自制しているのだ。

そんな彼女と今まで以上に仲良くなれるなんて。
いや、ひょっとして、それ以上の仲になっちゃったりして?・・・・!!
っていうか、状況を考えると、それはもう間違いないような。うん、きっとそうなんだろう。
どんな人間にも一生に一度はあるという、そんなモテ期がついに僕にもやってきたんじゃないでしょうか!


いやいや、落ち着け、自分。
まだ付き合ったりしちゃったりすることが決まったわけじゃない。

って、付き合ったり、って言った?いま僕は。
お付き合いするのか!あのりーちゃんと?梨沙子ちゃんが僕の彼女!!


世の中薔薇色!!



・・・って、ダメだろ。
僕には舞ちゃんがいるんだから。

でも、現実的に梨沙子ちゃんとそういう方向に展開するようなことになったら、いったい僕はどうすればいいんだ。

りーちゃんの想いは大切にしてあげたい。
それでも、僕の中での舞ちゃんは・・・・

そんな舞ちゃんのことは、僕が一方的に想ってるだけ。舞ちゃんの方は僕のことなんか・・・
一方、梨沙子ちゃんが僕のことをそんなに想ってくれてるのなら・・・
それなら、いっそ・・・

でも、でも・・・

僕の脳内は高度な難問によって煮詰まってしまう。
そんな僕の脳内劇場に、いままた登場人物が一人増えてきた。
その人が僕に問いかけてくる・・・


「あなたは舞とすぎゃさんのどちらを選ぶおつもりなの?」
「お嬢様、僕は苦悩しているんです。考えても答えが全く分からなくて・・・」
「あら、じゃあ私が答えを教えてさしあげるわ」
「お嬢様が?教えてください!!僕はどうすればいいんでしょう!?」
「ウフフ。じゃあ教えてあげるわね。あなたは千聖を選ぶの。そうすればもう悩まなくてもいいでしょう?」


「そう。これからは千聖以外の人のことを考えたりしては駄目。命令よ!」


おっ、お、お嬢様ぁ!!!

僕の中で何かがはじけた。




・・・・夏の夜、妄想が止まらない。
頭の中で繰り広げられる物語にすっかり酔いしれてしまう。
最高潮に盛り上がった僕は、部屋の中ひとりバタバタと転げまわっていた。


まさにそのとき、僕のケータイが鳴った。

液晶に浮かんでいるのは、登録をしていない電話番号。
これか!

来た!梨沙子ちゃんだ!!


かかってきたその電話。緊張感がMAXに達しているなか、僕は震える指で通話ボタンを押す。
聞こえてきたその声は確かに梨沙子ちゃんのものだった。

「あの、すがゃですけど・・・・今ちょっといいですか・・?」

なんというかわいらしい声!
その声を聞くだけで、自分の顔がだらしなく弛緩してしまうのがわかる。
いつまでも聞いていたい、そのかわいいお声。この人がもぉ軍団だなんてホント信じられない。

「いっ、いいですとも!全然大丈夫ですから!!」
「あ、あのね・・・・突然ですけど、明日ヒマですか?」
「明日ですか?ヒマといえばヒマですね。講習も終わったし、特に用事も無いですから」

この話しの切り出し方。そんなことを聞いてくるなんて!これはやはり!!
この話しの流れだと、これはやっぱり梨沙子ちゃん、僕と・・・・・
桃子さんが絡んでいるんだ気を抜くなというのも忘れて、瞬間的にそんな妄想に入ってしまいそうになった。
いや、妄想なんかじゃない。これは現実なんだ。そう、これは現実!

梨沙子ちゃんが話しを続ける。

「明日、花火大会があるでしょ。良かったらさ、一緒に見に行かない?」

きたこれ!!
これはつまり、一緒に花火を見に行って、梨沙子ちゃんはそこで僕に・・・
そこから始まる物語。そして、梨沙子ちゃんと僕にとって、ひと夏の思い出が!!

一気に舞い上がりそうになった僕だったが、そんな僕の耳に聞こえてきたこと。


(ダメだよ、梨沙子ー。もうちょっと妹っぽく甘えた感じで!)


なんだ?今の余計な声は?


「えっ?なんですか?」
「だからね、あのぉ、花火を一緒に見に行きたいな、と思ってぇ、電話したの」

かわいい・・・・
その声は本当に記憶がすっ飛ぶくらいかわいかった。
思わず余韻に浸ってしまい、返事を返すのも忘れてしまった。

「どうかな?」

どうもこうもないっスよ。
梨沙子ちゃんと花火を見に行けるなんて、なんという忘れたくない夏!


だが、その直前に聞こえた声が僕の理性を呼び戻してくれる。
そう、りーちゃんのかわいい声に舞い上がりそうになった僕の耳に入ってきたその声。
これは確認しておく必要がある。


「ひとつ聞きたいんだけど、一緒に花火を見に行きたいって、梨沙子ちゃん、僕と2人で?」
「・・・・・・」

(そうだよ、って答えて。えー私やだよー。大丈夫、言うだけだから。ウソは良くないってぇ。嘘も方便だからいいんだよ!でもでも・・・いいから早く!バレちゃうでしょ!)


梨沙子ちゃんとの通話の合間合間で聞こえてくる、このクマクマとした声。


なるほど、そういうことか・・・・
何が「バレちゃうでしょ!」だよ。モロバレだよ。

無言の中にも、梨沙子ちゃんが渋っている気配が伝わってくる。
すると、電話の向こうの大きな熊さんの声が更に大きくなった。声が電話に入らないようにしなきゃ、とかそういう意識は無いようだ。

(王様の命令は絶対でしょ!梨沙子ったら罰ゲームなのにいつまでも実行しないとかさー、そんなのももだって納得しないよ)


ここに至って、僕の頭の中で全ての符号が一致した。
昼間のあの桃子さんの微笑の意味もこれで分かった。

もぉ軍団め・・・・
また僕をこき使おうとしているんだな。その手には乗るかよ。
あと、熊井!梨沙子ちゃんを責め立てたりするのはやめろ!梨沙子ちゃん、僕がいま助けてあげるからね!


そんなことに思い至っている僕の耳に入ってきたそのお声。
それは僕の思考を停止させるに十分な天使の囁きだった。

「りぃのお願い・・・・・ダメかな?」

「もちろん行きます!行きますとも!!」

こんなかわいい声でそんなこと言われたら、こう答えるに決まってる。
だって、悪い王様(熊井)に苦しめられている梨沙子ちゃんに救いの手を差し伸べるのは騎士(僕)の義務で・・・
そのためなら僕が犠牲になることも厭わないかr


(よし!その答えを引き出せればもういいよ。あとは適当に説明しておいてー)
「じゃあお願いします。それでね、場所取りしておいて欲しいの。えっと、朝イチから並んで最高の場所を取っておいてって。あ、あと、明日はすごく暑くなるみたいだけど頑張ってね」

もう早く会話を終わらせたいのだろう。梨沙子ちゃんは早口でまくし立ててきた。しかも微妙に棒読み。
いまのところはあらかじめ用意されていた台本なんだろう。
そうやって用件を伝えるだけ伝えてくる梨沙子ちゃん。早く通話を終わらせたいというのがありありと分かる。
彼女との電話はそれで終わった。


さっきまでの熱い妄想からの落差に、部屋の中で呆然と立ち尽くす僕。

つまり、僕は明日の花火大会の場所取りを命じられたということか。
平気で僕をこき使おうと考えるもぉ軍団。そのためだけに小芝居をうってきたりして。
軍団長のあの笑顔を思い出すと、猛烈に腹立たしくなってくる。
もぉ軍団!!僕の純情な心をもてあそびやがって(泣


でも、今の電話の最後に梨沙子ちゃんが僕に向かって言ってくれた言葉。

「頑張ってね!」

りーちゃんが、そのかわいい声で僕を励ましてくれたんだ。
それだけで言われた通り頑張れる僕は単純だなあと自分でも思うよ。



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