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*****

「んま、ハルはそんなわけで、オトナの階段のぼったわけさ。どうよ、みずきちゃん!」

明けて、月曜日の中等部昇降口。
登校してきたところを捕まえて、別荘での思い出を鼻息荒くまくしたてると、みずきちゃんはあらあらうふふとか言いながら微笑んだ。

「よかったわねえ、遥ちゃん。でも、二人っきりだったらもっと良かったのにねえ」
「・・・ちょっとさぁ、よけーなこと思い出させないでくれるかな」

あいつ・・・枕投げのあともちさとちゃんにちょっかい出しやがって、足にへばりついて寝てたから、蹴ってやったぜ。
大体、何しに別荘行ったんだ?またどこの学校が聞き忘れたし・・・。

「うふふ、、遥ちゃんも意外なライバルの登場で、張り合いができたんじゃない?」
「はっ、あんな奴。別にハルの敵でもなんでもないね。ま、子分にならしてやってもいいけど」

まあ、ね。絶対絶対、口に出しては言わないけれど、ハルだってわかってるんだ。旅行中、あいつの突拍子もない行動で、何度も助けられていたってのは。
千聖ちゃんとどうしても仲良くなりたい。一番仲良くなって、ほかのライバルに差をつけてやりたい。
そう思うあまり、余裕がなくなっていた。
だって、初めてだったから。誰かの一番になりたい、なんて思ったことは。だから、どうすればいいのかわからなかったんだ。・・・まあ、そういう意味では、あいつの自由さには学ぶところがあったと思う。
べ、別に感謝とかしてねーけど!一応ね一応!

そうだ、それに・・・


“遥、またね”

お別れの時、千聖ちゃんはあの三日月の目でそう言ってくれた。

またね、っていうのは、バイバイやさようならよりも、かなりいい言葉だ。・・・だって、次があるって意味だと思うし。


綺麗な海も、魔法使いの家みたいなペンションも、ちさとちゃんと過ごした時間も、どれも夏のいい思い出だけれど、思い出っていうのはあくまでも過去のことだ。そこに、ちさとちゃんは未来につながる道を作ってくれた。
大げさかもしれないけど、“またね”っていうのは、私にとってはそれぐらい意味のある言葉だ。

「今度は、遥ちゃんのお家に、千聖様をご招待するというのもいいかもしれないわね」
「ハルんちなんか見たら、ちさとちゃんびっくりするんじゃね?うちのトイレと同じ大きさね!とか言われたりして」
「千聖様がそんなこと言うはずないでしょう?たとえそれが真実だとしても」
「おいコラ一言多いぞ」
「うふふふ。・・・まあ、それは冗談だけれど、千聖様は本当にお喜びになると思うわよ」

意地悪な顔をしていたみずきちゃんが、ふっと表情を改める。

「きっと、遥ちゃんが考えてるよりずっと、千聖様はあなたに関心があるんじゃないかしら」
「なんでそう思うの?」
「だって、そのほうが面白いじゃない」

ふいに、遠くを見るように目を眇めるみずきちゃん。
その視線をたどると、林道の真ん中を歩く集団が目に入った。

「あ・・・」

リボンがバリッとキマッてる風紀委員長と、空気がふわふわーってなってる鈴木さんって人の後ろ。
千聖ちゃんが、少し眠たそうに目をしょぼしょぼさせている。

「ちさとちゃ・・・」

駆け寄ろうとしたけれど、一歩踏み出したところで私の足はぴたっと止まった。
ちさとちゃんの肩を突っついたりして、執拗にちょっかいを出してる隣の野郎・・・いや、ええと、中等部の生徒。
ハギワラって人だ。まだ私がいるところまでは結構距離があるはずなのに、睨んできやがる。これみよがしに、千聖ちゃんにぴったりくっつきながら。

「うふふ、ほらね、面白いでしょう?」
「んだよ、ぜんぜん面白くねーし」

こういう、何気ないところで差を見せつけられるのが一番堪える。
ちさとちゃんにとって、ハギワラさんというのは、日常生活のなかに当たり前に存在している人で、ハルは・・・そう、ちょうどこないだの一泊旅行のように、たまーに気が向いたら、みたいな存在。

せめて、あの寮に入れたなら・・・(絶対無理だけど。うちからダッシュで12分だぜ、学校まで!)年下だけど、ちさとちゃんのこと守ってあげられるように、いつでも側にいるのに。

「ムホホホ、お困りのようですな」
「うおお!」

いきなり、背中に不愉快なむずがゆさが走った。
振り向くと、青色リボンの上級生が、不気味な笑みを浮かべながら私を見ていた。

なんだ、コイツ・・・。どっかで見たことある気がする。
ストレートのセミロングに、ちょっとキツそうな顔立ち。ハギなんとかとはまた違うけど、気が強いんだろうなあというのが伝わってくる。

「お嬢様狙いとは、なかなか目の付け所がいいかんな。センスいいよ、ハルぴょん」
「は?そりゃどうも。いや、つかなんでハルの名前・・・」

「まあ、有原先輩。ごきげんよう」

頭にいっぱい疑問符が浮かんだまま、ぼーっとその人を見つめていると、みずきちゃんがニコニコと話しかけた。

「ああ、フクちゃん。おはようだかんな。相変わらずそちらの発育も順調なようで。グヒョヒョ」
「あらあら、うふふふ。お褒めにあずかりまして光栄です」

――グヒョヒョヒョ
――ウフフフフフ

・・・な、なんだこいつら。薄気味悪い微笑みを浮かべながら、お互いの頭のてっぺんからつま先までを眺めあっている。
時々感じる、うっわきっもって思う、みずきちゃんの謎のオーラ。それがめっちゃ濃くなったような、鳥肌が立つような気配がびんびん伝わってくる。
思い出したぞ。こいつ・・・いや、この上級生、生徒会のメンバーだ。卒業式の日、千聖ちゃんと同じ並びにいたはず。
あの時は別に、これといって印象に残らなかった。フツーに真面目そうな、いかにも生徒会にいそうな顔。そう感じた。
だけど今、私のちょっとアレな友達と見つめあってるこの人は、明らかにあの時とは違う。
そう、みずきちゃんが初等部のお気に入りの子のことを話すときの・・・あと、ももなんとかっていうあのツインテールの変人について熱弁する時の、そういう感じそっくりだ。


「ああ、あいさつが遅くなったかんな。ハルぴょん、はじめまして。高等部2年の有原栞菜だかんな」
「っス。・・・いや、だからなんすかハルぴょんて。キモいんですけど」

私の抗議も涼しい顔で受け流し、あのヤバイい目つきでじろじろ見てくる。
優等生・・・じゃなかったんか、この人。でも女子ってこういう奴多いよな、普段はいい子にしてるくせに、もう1個全然違う顔用意してる系。
まさに、この二人がその極端な例なんじゃないか。普段はみずきちゃんのそういうとこが面白いって思えるけど、ダブルはきっついだろさすがに。

「ハルぴょんがお嬢様にラブラブズッキュンでお熱(死語)と聞いて、同士として黙っちゃいられないと思ったかんな」
「別にハルはそんな」
「まーまーまー、あたしはその辺はプロだから。隠してもムダムダムダァ!」

――あ、イライラしてきたぞ。全然人の話を聞かないどころか、ちょっと馬鹿にされてるふいんき(ryさえ感じられる。

そんな私の表情の変化に気が付いてくれたのか、みずきちゃんが「そうだ、」と少し明るい声を出した。

「うふふ、遥ちゃん、有原先輩はね、お嬢様の御家で経営なさっている学生寮で暮らしていらっしゃるのよ」
「へー。・・・って、ええっ!マジっすか!」
「ベタなリアクションだかんな、ハルぴょん。そうだかんな、あたしはお嬢様の第一側室として、あのぷにぷにたゆんたゆんな御方にありおりはべりいまそかりなわけで(ry」

なんということでしょう。こんな、こんなへんた・・・もごもごな奴が、寮に。
だって、ちさとちゃんちでやってる寮ってことは、きっと毎日顔を合わせているわけで。ハギなんとかも寮生だっていうし、ちさとちゃん、大丈夫かな・・・。落ち着いて生活できてるのかな。

「ああ、それは大丈夫。お嬢様の趣味であるお昼寝の時は、寮生全員、しずかーにしてるかんな」
「は!?なんでハル今何にも言ってn」
「その分夜は添い寝番長として、あたしがたっぷり楽しませて差し上げてるかんな。あのふにふにしたたゆんたゆんが(ry」

あ、頭が痛くなってきた。たゆたゆってなんのことだ?それに、心を読まれた気が・・・。あの寮にいる人の中じゃ、敵はハギなんとかだけだと思ってたのに。ある意味、こっちのほうがよっぽど厄介だろ。

私のそんな気持ちにも気が付かずに、有原とかいう人はさらにべらべらとしゃべり続ける。


「まー、それじゃ本題に入るか・・・ハルぴょん、あたしと手を組まない?」
「ええ?なんすか、それ」
「ほら、だってさあれ」

有原さんがアゴで示してきた林道。
ちょうど、ちさとちゃんとハギなんとかを中心とした、寮生軍団が通り過ぎていくところだった。

「見てよあれ。萩原の奴、当然みたいにお嬢様の隣陣取りやがって」
「・・・つか、いつもそんな口調なんすか。千聖ちゃんの前でも?」
「はーん?んなこたぁどうでもいいんだよ。それより、あの当然のようにお嬢様の横に並ぶあの態度、どう思うかんな」
「ぐえっ」

私のほっぺをぶにゅっとつかんで、再び方向をかえさせてくる有原さん。
ハギなんとかは、どうやら私たちの話題に気が付いているようだった。ちさとちゃんの視線がこっちに来ないように、体を張って視界を遮ろうとしている。
まあ、たしかに・・・じゃっかんちょっと、いや、かなりムカつくかも。

「キエーッ!なんだあの正妻気取りは!」
「さっき自ら側室とか言ってたじゃないすか」
「あげ足を取るんじゃないかんな!」
最近ちょーしこいてる萩原の野郎をギャフンと言わせるには、ハルぴょんの協力が不可欠だかんな」

ええと・・・要するに、この人と組めば、ハギなんとかに勝てるかもってこと?
それはいいかもしれない。だが、ハルよ。ほんとにいいのか。

「うーむ」

ちらっと、みずきちゃんの方を見る。・・・おやまあ、楽しそうに笑っちゃって。ってことは、やっぱしロクな話じゃないんだな。

「おやおや、ハルぴょん?案外弱っちいんだね、君は」
「ああん?」

私のビミョーな顔を読み取ったのか、いきなり有原さんが、ケンカを売ってきた。

「なんでハルが弱いんすか」
「はーん?だって、あたしのこと怖がってるんでしょ?ほんとは優しくてデリケートで一途なのに、いつもこうだよ。ああ、なんてかわいそうなあたし。キーッ!」

――ついていけない。私に話しかけてたはずなのに、今度はいきなりキレ出した。頭がいいんだか悪いんだか…。重ね重ね、ちさとちゃんの家での様子が心配でしょうがない。


「・・・いや、だ!か!ら!なんでハルがよわっちいんすか!」

とはいえ、さっきの暴言は見過ごせない。
ちょっと強めにもう一度聞くと、めんどくさそうに有原さんは頭の後ろを掻いた。

「だって、あたしと対等になれないで、どうやってお嬢様を守るつもり?
ハギワラは・・・あれは、地獄の使い魔だかんな。前世では大天使だったあたしと刺し違えて(ry」

だめだ、コイツ。
私がキレようとしても、すぐ妄想の世界に入ってしまって、怒りが続かない。


「あー・・・ちさとちゃんのことは、自分でどーにかするんで、他当たってください」

これ以上、付き合っていても仕方がない。
そう判断して、レインボー美少女プリンセスカンナとか叫んでいる有原さんに背を向けて歩き出す。

「あらあら、いいのかしら?」
「だってさぁ」

林道の入り口では、まだハギなんとかがちさとちゃんにベタベタ引っ付いている。
ほんと、小学生の特権で、間に突っ込んで行ってやりたくなる。・・・だけど、メーワクな奴だって思われたくないんだ。

ふと、みずきちゃんが足を止めて、私の手をギュっと握った。

「ふふふ。ねえ、遥ちゃん。遥ちゃんって、読まなくなった漫画とか、人にあげて、後でまた読みたくなって、後悔するタイプでしょう?」
「ん?何いきなり。・・・まあ、うん、そうだけどさ」
「私、遥ちゃんのそういうとこ、好きよ。・・・だから、遥ちゃんがこれいらないって私に投げたものも、極力捨てずに持ってるの」

話についていけずに、頭の中でその言葉を整理してるうちに、みずきちゃんは「じゃあ、私こっちだから」と手を放して、のんびりと去って行ってしまった。


「なんだー?もー、みんなハルにわかる言葉で話してくれよ」

一人になっちゃって、つまんないから、とりあえずちさとちゃんのとこに突撃してみることにした。
うー・・・強がって見せても、やっぱ緊張する。私はグッと拳を握りしめた。

「あれ?」

すると、さっきまでみずきちゃんにつながれていた、右手の手のひらに何かがチクッと刺さった。
手を開いてみると、小さな紙。


“有原先輩:090-****tayutayuojo-sama@***”

そこには、さっきのあの人の連絡先が書いてあった。


“遥ちゃんって、読まなくなった漫画とか、人にあげて、後でまた読みたくなって、後悔するタイプでしょう?”


それで、私はさっきのみずきちゃんの言葉の意味を理解した。・・・なんとなく気恥ずかしくて、悔しいような気持ち。
こんなのいらねーよ、なんてポイッと捨てられないあたり、みずきちゃんの言ってることが正しいって証明しているようなものだ。


「・・・別に、ハル頼んでねーし。みずきちゃんが勝手に」


――だけど、はたして、来てしまうのだろうか。この連絡先に、頼る日が。

千聖ちゃんはもうすぐそばにいる。あとは声をかければ、気が付いてくれるだろう。なのに、手のひらでカサッと音を立てるその紙を見つめながら、私は一歩も動けなくなってしまった。


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