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岡井さんと矢島さん、二人の間に流れていた、ほんわかした空気が変わったような気がした。
ケンカとか、そういうんじゃないけれど、決してよくない感じの・・・。それがなんなのか、私にはよくわからないけれど。

「あの、えと・・・そろそろ、一人で寝られるようにしないと、と思って。年齢も年齢ですし」

岡井さん、寂しがりだってブログでも言ってたっけ。一人部屋が割り当てられちゃった時には、矢島さんの部屋で眠ってるっていうのも、どこかで見たような気がする。
その話なのかな。確かに、ずっと部屋に来てくれてた人が急にそうしなくなると、不安になっちゃうかも。

「でも、なっきぃの部屋には行っているんでしょ?なっきぃがそう言ってたよ」
「ふがふがふが」

なんだか、意外な気がした。
私的に、矢島さんってこんなにガーッと迫ったりするタイプじゃないのかなって、思ってたから。
℃-uteの皆さんの中では少し年齢が上だから、後ろから見守るポジションっていうか。


「私、ちっさーの嫌がることしちゃったかな?」
「あの、そんなことはないです。ただ、舞美さんのご迷惑になるかと・・・」
「ううん、全然!ちっさーが来てくれると、嬉しいよ。だって、気持ちいいから、抱いてると」

――おお、びっくりした。矢島さん、すごい言い回しするんだなあ。
中学生としては、だいぶ深読みしてしまうお言葉だけど・・・まさか、そんな、ねえ?矢島さんが完璧美人すぎるから、一瞬少女漫画に出てくる超カッコイイ男の子みたく思えちゃったけど。


「矢島さんは岡井さんを抱いている・・・」
「ちょっと、まーちゃん!あれは抱き枕っぽい意味だからね?またそーやって」
「まーちゃん知ってますしおすしさやし。何で慌ててるんですかー」
「なっ・・・もう、ほんとなんなの!」


思わず大きな声を出すと、二人の先輩は、同時にこっちを振り返った。


「あっ!ご、ごめんなさ・・・」
「ぎょえー岡井さーん」

私のわきをすり抜けて、まーちゃんが一直線に岡井さんの懐へ飛び込んでいこうとする。
これはやばい。今までの経験から、この後の展開は容易に想像できるというもの。
しかも、岡井さんは今、まーちゃんをかまってくれるあの岡井さんではないんだ。頭の中で状況を整理していくうちに、かなりやばい状況なんだってことに気が付く。


「だめ、まーちゃん!」

とっさに、まーちゃんの前に立ちはだかる。
イノシシのように、前傾姿勢で頭から私のみぞおちに突っ込んでくるまーちゃん。ボグッと嫌な音がおなかの中に響いて、そのまままーちゃんとともに、楽屋の玄関に倒れこんでしまった。

「もっ・・・信じらんない!」

思いっきり打った背中が痛いし、まーちゃんがひっついてきて思い。
私がとめなかったら、まーちゃんはあの獰猛な野生動物じみた動きで岡井さんに突進していたんだろうか。


「え、大丈夫?どうしたの?」

矢島さんと岡井さんがあわててこっちに駆け寄ってきた。


「まーちゃんこっちおいで!」
「うおおおお」


あ・・・岡井さんの口調が変わってる。あえて演技でそうしてるのか、入れ替わっちゃったのかは私にはちょっとわからないけど。
引っ付いてきたまーちゃんを岡井さんがあやしてる間に、矢島さんが私の体を起こしてくれた。


「ころんじゃったの?」
「え?・・・はい」
「痛いところあったら言ってね!ちっさー、湿布あったっけ?足に貼るやつ!」
「いや、足は別に・・・」
「他に痛いところある?指は?グーパーできる?頭は打ってないかな?」

1つ質問するたびに、舞美さんの綺麗すぎる顔が近づいてきて慌てる。
娘、にはいない感じの独特のキャラクター。
本当に、どこまでも一途でまっすぐで・・・・・そして、全力で間違っている。

「救急車で大丈夫かな?あ、でもその前にご両親?」
「あの、ほんと大丈夫です!」
「あああ、そっか、まず道重さんに言わないと」

ど、どうしよう。
矢島さんがどんどんシリアスな表情になっていく。
すると、別に何ともなかったはずの自分の体のあちこちが痛くなってきたような気がして、不安になってきた。


「ずっき、どっかやっちゃったの?」

すると、岡井さんがまーちゃんを背中に貼りつけたまま、私のそばにしゃがみ込んでくれた。


「えっと・・・」
「我慢するとよくないから、言いたいことは言っちゃいな?」


今度は岡井さんに、じっと目を見つめられる。
不思議なことに、矢島さんの時のような、パニック状態には陥らないですんだ。
矢島さんが美人すぎるってのもあるかもしれないけれどΣリ・一・リ、岡井さんの目には、人を落ち着かせる不思議な力があるような気がする。

「あの・・・私、田中さんに、岡井さんを呼んでくるように言われて」
「おお、そうだったの!」
「はい、あの・・・でも、なんかまーちゃんもついてきてしまって、うるさくしないでって言ったのに」

あれ・・・どうしたんだろう。声がうわずっている。なのに、言葉がどんどんあふれて止まらない。


「早く、早く伝えなきゃいけないって思って、でも矢島さんと岡井さんが話してて、邪魔しちゃいけないから・・・でも、タイミングわからないし、岡井さんが・・・その違っていたら、まーちゃんが・・・」


かなり支離滅裂な私の言葉を、矢島さんも岡井さんも真剣な表情で聞いてくれた(ただし岡井さんは肩に噛みついたまーちゃんの鼻の穴に指を突っ込んでお仕置きしていた)。

「違う、まーちゃんは関係なかったです。やだ、八つ当たりしちゃった。こんな簡単な用事なのに、私、なにやってるんだろう。あはは・・・」


笑いながら言葉が詰まって、いきなり目がら涙がぽろっと落ちた。


「あ、どうしよ・・・」

一度あふれてしまった感情も涙も、急には止まってくれない。
こんな小さな用事ひとつできなくて、しかも違うグループの先輩の前で意味不明な理由で泣いて・・・そうだ、今朝もダンスのことで怒られたんだった。思い出したらさらに泣けてきた。

「ずっき、目こすっちゃだめだよ」

ひっくひっくと耳障りにしゃくり続ける私の頭を、岡井さんがぽんぽんって撫でてくれた。

「腫れちゃうからね。せっかくかわいいんだからさあ」
「だって、私なんて、どうせ誰も見てないです」
「見てなくなんかないよ!てゆーか、千聖が見てるし!」
「私も見てるよ!」
「まーちゃんも常に監視してます!」

みんな、全力で励ましてくれてる。だけどそれが余計に自分のふがいなさを突き付けられてるみたいで、また新しい涙がこみあげてきてしまう。


「…舞美ちゃん、ちょっと濡らした布かなんか持ってきてくれるかな」
「あ、そうだね!わかった、ぞうきんでいい?」
「ずっきの目冷やすの!なんでぞうきん!」

岡井さんが、はじけるような声でケタケタ笑う。

「あー、あ、目か!みんなで掃除するのかと思って」
「何でこのタイミングで!もー、舞美ちゃんはぁ」

いそいそと、タオルを持った矢島さんが部屋を出ていく。
残ったのはグズ泣きの私と、岡井さんと、岡井さんの胸を触ろうとしては手をはたかれているまーちゃん。


「・・・ずっきってさ、自分でもわけわかんなくなるまで、気持ち溜め込んじゃうタイプでしょ」

無言でうなずくと、岡井さんは少しため息をついた。

「普段、こんなことぐらいじゃ、泣かないもんね。これはたんなるきっかけでしょ」
「そして、今日という日を境に、暗黒の力に目覚めたズッ=キーは、世界を闇の彼方に・・・」
「目覚めねーよ!てかまーちゃん、静かにできるの?できないならくどぅーんとこ戻って遊んでもらいな?Σハ´。`oル千聖はずっきとい話してるんだからね」

おお・・・まーちゃんの扱いがうまい。さすが長女。さすが大家族の柱。
するとまーちゃんはふと思案顔になり、次に私の顔をじっと見た。

「まーちゃん、いない方がいいですか?」



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