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「鈴木さんは、まーちゃん、いないほうがいいんですか」

ゆっくり言葉を区切るようなその言い方。それで、なんとなく察した。
まーちゃんは今、ものすごく怖いことを聞いてきている。
今この瞬間、まーちゃんにいてほしくないかどうかじゃなくて・・・

「なんでそんなこというの!」

私はたまらず、大きな声を出した。

「そんな大事なこと、私に聞かないでよ。私は今、田中さんの用事を伝えに来ただけだったのに、なんでこうなっちゃうんだよぉ・・・」


私にはめったに頼みごとをしない田中さんからのお願いごとだったり、その相手が大きな秘密を抱えてる人なのに、ペースのわからないまーちゃんがついてきちゃったり、・・・挙句の果てに、矢島さんと岡井さんに、とんでもない内緒ごとがありそうだったり。そこへ来ての、まーちゃんからのこの一言だ。
もう、たくさんの要素が重くのしかかってきて、私の容量をあっという間に超えてしまった。

「あわわあ、鈴木さんがわわ」

気配で、まーちゃんがドタバタ足音を立てて、私の周りを走り回ってるのがわかる。
――私だって、まーちゃんが、本気で私を困らせようとイジワルしてるわけじゃないのは知ってる。
ただ、まーちゃんのペースをつかみきることができなくて、発する言葉の意味をどう取っていいのかもわからなくて・・・

「はわわ、岡井さーん」
「あのね、まーちゃんここにいていいけど、お口閉じててね!」

岡井さんがまーちゃんにそう言い放ったと同時に、むぎゅっと抱きしめられる感触がした。

「よしよし、そんなに泣くなー」

まるで赤ちゃんを落ち着かせるように、岡井さんはゆっくりと私の体を揺らす。
背中をぽんぽんと叩かれると、不思議と高ぶっていた感情が静まっていくようだ。

「まーちゃんもぽんぽん!」
「わーかったよ、なんだよ、千聖はママじゃないんだからねっ」

ああ、そうか・・・小さい妹さんがいるんだっけ、岡井さん。
あったかい胸に顔をうずめると、ごく自然に頭を撫でてくれる。
“千聖って、いいお母さんになりそう”なんて先輩たちが言っているのを、結構よく聞いたりする。
料理が上手だからかな?なんて思ってたけど、それだけじゃなくて・・・。きっと、こういうところも含めて、なんだろう。

「いろいろさ、娘。で言いにくいことがあったら、いつでも千聖のとこ来てよ。ま、全然何もできないけど、気晴らしになるかもしれないし」
「はい・・・すみませんでした」
「じゃ、田中さんとこ行くか!」

岡井さんがそう言って楽屋のドアに目を向けた。

「あ・・・はい。でも、その前に。あの・・・まーちゃん」

岡井さんにカクカクした動きでまとわりつく(・・・)まーちゃん。
私の呼びかけに、彼女らしくもない神妙な顔を浮かべる。

「さっきの、あの・・・。私、いらないなんて思ってないから」

言いながら、また涙がこみ上げてきそうになってしまう。
でも岡井さんがいてくれるからか、逃げ出したいとか、そういう気持ちにはならない。
まだ話せそう。そう思って、私はまた口を開いた。

「さっきは、その・・・なんで、まーちゃんが私なんかのとこに来るのか、わかんなくて、状況的にも慌ててたから、きつい態度になってたならごめんね」

「じゃあ、まーちゃんはいなくならなくていいんですか?」
「もちろん」
「でもくどぅーが岡井さんの写真眺めてニヤニヤしてたからその写真にチューしたら、お前ガチでうせろって言われました」
「なんだそれ、おい!」
「・・・・・・・それは、私の言ってることとは別問題じゃないかな」

ともあれ、話しているうちに涙はとっくに乾いて、もう気持ちも静まってきた。

「ちっさー、かのんちゃん!!!お待たせ!」

すると、そこに矢島さんが戻ってきた。

「なかなかなくてさー、はい、これ使ってね!」

満面の笑顔で差し出したのは、タオル・・・でもぞうきんでもなく、・・・・大量の、エアーパッキン(プチプチつぶすやつ)だった。

「舞美ちゃん、これどうすんの?」
「??・・・・あぁー、そっか!似てるから間違えちゃった!あははは、どうしよう、ねえ?」
「はは・・・」

――すごい。天然のスケールが違いすぎる。
仮に見た目がタオルに似てたとしても、触ればわかるし、大きさがありえないだろうに。

「もー、知らないよ?スタッフさんが使うんじゃないの?」
「そうだよね!ステージに敷いたりとか」
「いや、それはない」
「あひゃはははは」
「まーちゃん、つぶしちゃだめだよ!おい!」

プチプチとパッキンが弾ける音、岡井さんと矢島さんのぼわーっとした会話。またわけがわからなくなっていく。

そして、私はあまりのことに忘れてしまっていたのだ。
私の重要なミッションのことを。



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