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「・・・・なんで余計なことをするの?」
「えっ?どういうこと?余計なことって?」
「せっかくリハビリの計画をうちが考えてきたっていうのに!」

僕は、彼女の言ったその言葉で事態を把握することができた。
そうか、ひょっとして僕は熊井ちゃんの考えていることに反するようなことをしてしまったと、そういうことなのかもしれない。
そしてその熊井ちゃんの見下ろしてくる視線に、ようやく自分たちの置かれた立場を理解した友達連中。
お気楽なおまえらでも、どうやら気付いたようだな。来るぞ、とばっちりが。もう知らないからな。

しかし、だ。
余計なこと?病院のメニュー通りにリハビリをすることが余計なことなのか?と、常識的に考えるとそう思うんだけど。
だけど、そんな正論はこの唯我独尊ちゃんの前では全く意味をなさないんだ。
それぐらいのこと、僕にはもう嫌と言うほど十分わかってる。

あくまでも熊井ちゃんの考えたストーリー通りにコトが進んでいないこと、それが今彼女の中で問題視されているのは間違いないわけで。
ことここに至って、それを理解した僕の顔は完全に引きつってしまう。


「考えてきたって、リハビリの計画を熊井ちゃんが?そんな知識持ってたっけ?」
「手術の後の一発目なんだよ。どうせビビッてたんでしょ、立つのが怖くて」

僕の聞いたことはサクッと無視され、御自分の脳内設定を一方的に話してくる。


「そう、きっとこんな感じで怖がってるんだろうな、って考えたから・・・



----<熊井ちゃんの妄想(僕目線)ここから>------


「やっぱり、ダメだよ。・・・・・怖い。怖くて立てないよ」

そんな僕のそばに付き添ってくれている長身美少女のこの人が優しく励ましてくれる。

「何も怖いことなんかないよ。さぁ、怖がらないで歩いてみて」

優しく微笑んでくれる熊井ちゃん。
それに比べて、怖くて立つことさえ出来ない僕の、なんて情けないことか。
彼女がその天使とも思える姿で、僕を見守ってくれているというのに。

そんな彼女の見せてくれる優しさに対して申し訳ないような気持ち。
だけど、どうしてもダメなんだ。力を入れるふんぎりがつかない。


「勇気を出して立ってみて!さぁ!!」

そうは言われても、そんないきなり。
やっぱり怖くてたまらない。

「でも、でも・・・」

椅子に座ったまま立とうとしない僕を見て、熊井ちゃんの表情が変わった。
次の瞬間、熊井ちゃんの怒号が部屋に響く。

「意気地なし!もう知らないから!」

怒ったような声を張り上げた熊井ちゃんが踵を返して部屋を出て行こうとした。

待って!熊井ちゃん!!見捨てないで!!
熊井ちゃんのその後ろ姿に、僕は反射的に声が出る。

「待って、熊井ちゃん。ちゃんとやるから!一緒にいてよ!!」

そう言った僕に、振り向いた熊井ちゃんが優しく語りかけてくる。その天使のような微笑みとともに。

「ほら、ちゃんと立てるじゃない」
「本当だ・・・」
「それだけじゃないでしょ。いま歩いたよ、ちゃんとしっかり」


熊井ちゃん・・・・・


「ありがとう!熊井ちゃんのお陰だよ。本当に熊井ちゃんは僕の恩人だよ!!何とお礼を言っていいのか・・・」
「ううん、うちは当たり前のことをしただけ。うちのことをそんなに言ってくるのも分かるけど、うちはいつも通りにリーダーらしいことをry


----<熊井ちゃんの妄想(僕目線)ここまで>------


・・・っていうシナリオを考えてきたのに、無駄になっちゃったじゃない!!」


「・・・・・」
「どうすんのよ!!!」

どうすんのよ(怒)!って言われても・・・

だいたい何だよ、そのシナリオは。どこのハイジとクララだよ。
なるほど、熊井ちゃんは「立った立った、クララが立った!!」みたいな感動的なことがやりたかったんだな。
それなのに、既にリハビリが開始されてて、しかもそれが物語的に何の刺激もない普通のリハビリであること。
彼女はそれが気に入らないわけだ。それで、こんなに不機嫌になってるってことか。

でもなあ・・・
漫画やアニメの世界じゃないんだから、彼女の思い描いてるようなそんな劇的な展開になることなんてそうそう無いと思うよ。


そもそも、そのシナリオ、全面的におかしいでしょ。
だって、熊井ちゃんが優しく僕を励ましてくれるなんて、ありえない。
そこが、まず第一におかしい。そう、決定的におかしい。
もし熊井ちゃんが僕のリハビリに関与するようなことがあるとするなら、それはそんな感動的な物語ではなく、もっとこう直接的に僕に苦痛を与えるような・・・

(そんな僕の感じた疑問が正しいことは、このあとすぐ立証されることになるのだが・・・)


「ふん、まあいいか・・・」

とりあえず、その話しはここで収めてくれる様子の熊井ちゃんだったが、その鋭い視線はそのままだった。
ジャックナイフのようなその視線。

だが彼女はその厳しい表情とは裏腹に、こんな意外なことを言ってきたんだ。

「うち思ったんだけどね、早く良くなるようにお百度参りをしようと思って」
「お百度参り?」
「栞ちゃんから聞いてさー。よし、それやろうと思って。やれることは何でもやるべきだよねー」

「やっぱり気持ちって大事だからさ」

熊井ちゃん・・・

そんなに僕のことに親身になってくれて。
この直前、熊井ちゃんの言動に対して疑問を感じたりしていた自分がいたことを心の底から恥じた。
ごめん、こんなに僕のことを思ってくれている熊井ちゃんのことを疑ったりしてしまって。僕はなんてバカなんだ・・・

「熊井ちゃん・・・」
「この近くの神社に行ってお百度参りするつもりなんだ」
「そんな。そこまでしてくれなくても・・・その気持ちだけでもう十分だよ、熊井ちゃん」
「なに言ってるの?自分のためじゃない。これもリハビリだからね!」

自分のため?リハビリって?
どういう意味なんだろう、それ??

「あのー、熊井ちゃん?」
「なによ」
「リハビリって、どういう意味?」
「何といっても百往復だよ。それだけ歩けば相当鍛えられるでしょ。過ぎたるは及ばざるが如し!!」

・・・・・・・・・

「あの・・・熊井ちゃん?」
「なに?」
「今の言い方だと、お百度参りをやるのは僕みたいに聞こえたんだけど・・・それ、僕が自分でするの?」
「当たり前でしょ!!他に誰がやるのよ!?」

「・・・・。ってかさ、鍛えるって言っても、素人判断でそんなこと勝手にリハビリに組み込んじゃダメでしょ」
「そんな甘い気持ちでどうするの?そんなことで全国を目指せるわけないじゃない!!」

なんだよ、全国大会って・・・もう訳が分からない。
熊井ちゃん、なんか盛り上がっちゃってるんだな・・・
御自分の中で僕の理解の範疇を超えてるような何か壮大なくまくまストーリーが。
もう僕にはその情熱を止めることは出来ないのかもしれない。


「これからはうちの立てたスケジュールに沿ってリハビリをするんだよ!」


するんだよ!って言われても・・・
素人がそんなこと勝手に決めるのはどうなのかと。
ちゃんと先生が立てた計画に沿って僕はやりたいんだけど、と強く思います。
そんな、僕が常識的に考えることなどお構いなし、熊井ちゃんのテンションはどんどん熱くなってゆく。

・・・マジ怖いよ。


「よし!これからすぐに行くよ!うちの考えてきたプラン通りに、さっそく今からやるからね!」

これから?
ちょ・・・・待っ・・・・

「い、今から?だって今日のリハビリはもう終わったんで・・・そもそも初日からそんな負荷をかけたら・・・・」
「さっきから黙って聞いてれば何をゴチャゴチャと言ってるの?やる気あるの?」

僕には、彼女の言ってることが、思いっきり無茶振りをかましてきてるみたいに聞こえるんだけど・・・
この一方的に僕を言いこめてるここまでのやりとりでさえ、黙って聞いてあげているという認識だったんだ、熊井ちゃん的には。

「い、いや、僕が思うのは医学的見地から見てどうなのかであって、やる気とかは関係ないんじゃ・・・」
「あ?」
「・・・・・やります」
「分かればいいけどさ。いい?真剣にやりなさいよ!!遊びじゃないんだからね!!!」


・・・・無茶苦茶だ、この人。

(入院中に女の子がお見舞いに来るとか、なんというフラグ!!)
・・・なんて、そんなことはウソだということがよく分かった。ちょっとは期待もしちゃった僕がバカだったよ。
フラグが立つどころか、友人たちの前でひたすら罵倒されている僕。
この僕の硬派なイメージが・・・←

そんなやりとりをしている僕らに、傍らから遠慮がちな声がかかる。

「「「あのー・・・」」」

眼前で繰り広げられる超大型熊井台風にすっかり圧倒されて固まってしまっている友人たち。
なんだおまえら、目が点になってるぞ。今ごろになって気付いたのか。危機察知能力の薄い奴らだ。
言っておくけど、こんなのまだ序の口だぞ。

引きつった表情の友人たちが、おそるおそる熊井ちゃんにお伺いを立てる。
熊井ちゃんが、その鋭い視線を彼らに向けた。

「なに?」
「「「ぼ、僕らはこの辺で失礼しようかなー、と・・・」」」

こいつら!僕をおいて逃げるのかよ!!
彼女が来たときは勝手に盛り上がってたくせに、雲行きが怪しくなったらすぐこれだ。
いいな、お前らは。さっさと逃げることが出来て。
僕も一緒に逃げることが出来たらどんなにいいか。

****

なぜ僕は病院を抜け出して、いま神社に来ているのか・・・

彼女の言うリハビリと称するものを、さっきからずっと黙々とこなしている僕。
そんな僕をずっと見守ってくれている熊井ちゃん(っていうか監視・・・)。
でも、何だその見るからに僕を上から見下ろす熱血コーチ目線は。

「男でしょ。しっかりしなさい!根性見せなさいよ!!」

熊井ちゃんは容赦なくハッパをかけてくる。
さっき聞いた僕のリハビリに対する熊井ちゃんの脳内シナリオと全く違うんだけど!
そこでは御自分のことを「天使」って形容していたように聞こえたけど、今目の前にいるこの人のどこが天使?
全然優しくなんかないじゃないか!!話しが違うよ!!



でも、そんなことを思いつつも、これで正解なんだとも思うわけで。

熊井ちゃんは知ってるのかな。
人のやる気を引きだす方法ってものを。

僕みたいな性格の人間は、優しくされるとそれに甘えてしまうんだ。
だから、優しくされるよりもこうやってハッパをかけられる方がやる気が出てくるってこと。
部活やってたときもそうだった。そして、それは部活動に限らず万事全てに関しても同じことなんだ。

そのノリ、僕は決して嫌いじゃない。
そう、もともと僕は体育会系だから。そのノリの方がしっくりくるんだよな。
だから、そんな僕のやる気を引き出すために、熊井ちゃん、わざとそう振舞ってくれたんじゃないだろうか。

熊井ちゃん・・・・

・・・いや、違います。

うん、違うよ。
全く違う。
体育会系のノリが僕に合っているとか、そんなこと彼女には全く関係ないこと。


熊井さんはあくまでも、彼女自身がそうしたいと思ったから僕にそう言ってきただけです。
そこに余計な感情は一切ありません。


短気な熊井ちゃんだもん。自分の思い通りにさっさと事を展開させるため、そう言ってきただけなんだ。
そう。気の短い彼女がそうしたかったからそうしただけ。ただそれだけ。

全ての進行は彼女の脳内で描かれているであろう熊井ワールドの脚本通り。
その素晴らしいストーリーは、残念ながら僕の理解の範疇を超えてるんだけどさ。


でも、まぁ、それが結果的に僕へ気合を注入してくれる結果になっているわけで。
そこに理屈も何もないわけで。

そんな結果オーライだけど、これも熊井ちゃんらしいや。
本当にストレートな人だ。
むしろ気持ちいいぐらい・・・

そんなことを考えながら境内を往復している僕だったが、さっきから熊井ちゃんの檄が飛んでこなくなったことに気付いた。
そういえばさっきからは熊井ちゃん妙に静かだな。

そう思って彼女に目をやると、相変わらず鬼コーチのような顔で仁王立ちしている熊井ちゃんの姿が目に入る。
だが、いま彼女のその視線は遠くの一点に固定されているように見える。どこ見てるんだ?

あれ?
熊井ちゃん、動きが止まってる?

そんな熊井ちゃんがつぶやいた。


「飽きた・・・」


そして僕を見下ろして、こう言ってきたんだ。

「あとは一人で出来るよね?うちはもう帰るけど、うちがいなくても最後までちゃんとしっかりやりなさいよ!」

「ハイ・・・」

去っていくその後ろ姿からは、子分思いのうちカコイイ!と満足げに自画自賛されている様子が見え隠れしている熊井さん。
さすがだよ、熊井ちゃん・・・さすがもぉ軍団自称リーダー・・・
それを見送りながら、暗くなってきた境内に一人たたずむ僕。


あとまだ46往復だ。頑張ろう・・・

腹減った・・・・



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