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いま僕は舞ちゃんと座卓に向き合って座っている。
これは夢なんかじゃない。
この部屋、僕の目の前には、あの舞ちゃんがいるのだ。

舞ちゃんと一緒に勉強をするなんて。夢のようだ。でも夢じゃない。
嬉しい。嬉しすぎる。
そう、とても嬉しいはずなのに。

ただ一点だけ僕の心に引っかかっていることがあるのだ。

それは・・・
僕の右隣に座っているこの人の存在。


「さあ、張り切って勉強するよーー!! なんか合宿でもしてるみたいで高まるねー。あははは」


何故この人までここにいるんだろう・・・・


 * * * * 


今日、僕の家に舞ちゃんがやって来る。舞ちゃんが僕に勉強を教えてくれるために!
手術から入院生活の間も頑張ってきた僕に、こんな幸せが待っていたとは!
文字通り、怪我の功名とはこのことじゃないか。

お姉ちゃんにそれを聞いたときからもう興奮を隠せないぐらいだった僕だが、昨日からはいよいよその興奮もピークに達した。
悶々とした気持ちで寝付けないぐらいにして、明け方近くまで布団の中でジタバタとするはめに。
それでもちゃんと今朝早くにはスッキリと目覚めて、朝から部屋の隅々まで完璧に掃除をしたりして彼女を迎える準備を万端整えた。
そして今、呼び鈴の音が鳴り響いたんだ。

来た!!
舞ちゃんだ!!!

興奮を隠し切れない僕が玄関のドアを開けると、そこには確かに舞ちゃんの姿が。

「来てくれてありがとう! 舞、ちゃ、ん・・・・」

ただ、そのとき同時に僕の目に入ってきたのは・・・・

「やっぱりうちがついててあげないとダメなんだろうなと思って。そう思って来てあげたんだから感謝しなさいよ?」
「・・・・・・」

今日も華麗に上から目線(色々な意味で)。
そう、何故か舞ちゃんの隣りにはドヤ顔の大きな熊さんがいたのだ。
高まっていたところに一気に冷や水をぶっ掛けられた気分・・・
彼女は今日もテンションが高いご様子で、僕の耳に入ってくるのはその熊井ちゃんの声ばかり。
そのせいで、僕の目の前には舞ちゃんがいるというのに、舞ちゃんの声はここまで全く聞けずとかそれはどうなのよ・・・

「ま、まぁ、とにかくどうぞ上がってください・・・・・」


2階の僕の部屋へと、お2人をご案内する。
想定外の事態が起きてしまったけれど、気を取り直していこう。そうだよ、人生切り替えも大事だ。
だって、夢のようなことがいま現実になろうとしてるんだから。舞ちゃんが僕の部屋に来てくれたんだよ。舞ちゃん、ようこそ僕の部屋へ!!

部屋に入り座布団に腰を下ろした熊井ちゃんが僕に聞いてくる。

「あれ? 家の人は誰もいないの?」
「今日はみんな出かけてるから。夜まで帰ってこないって」
「家族がみんな出かけてる隙に、舞ちゃんを家に連れ込んでるってこと? ふーん?意外とやるじゃん」
「そういういやらしい言い方はやめてくれないかな、熊井ちゃん」

栞菜ちゃんじゃあるまいし。そんなやり取りをここでするとは思わなかったよ。
だいたい僕にそんな下心があったとしたら、あなたを家に入れるわけないでしょ。
そうだよ、せっかく舞ちゃんと2人っきりになれる機会だというのに。

はぁ・・・
なんでこの人までここにいるんだろう。
言ってもしょうがないことは言ってもしょうがないことだけどさ・・・

僕がどんなに気分を切り替えても、その都度この人が僕の心を乱してくれる。
そんな感じで僕の気持ちが少し下向きになりそうになったとき、熊井ちゃんが舞ちゃんに聞いたこと。

「舞ちゃんは初等部から学園で過ごしてるんだよね。じゃあ男子と一緒に勉強することなんか無かったんじゃない?」

熊井ちゃんの聞いたその質問に、小さく頷く舞ちゃん。
か、かわいい・・・・ やっぱり舞ちゃんが一番かわいい!
こんなかわいい子が、いま僕の家に来ているなんて。まだ信じられないような気分。

そんな舞ちゃん、さっきウチに来たときから、ちょっと緊張気味のように見える。
それはきっと、いま熊井ちゃんが聞いた通りのことに起因するんだろう。
でも、そのちょっと緊張気味の様子がまたとってもかわいくて。妙に真顔の舞ちゃんの何と言う美少女っぷり。凛々しすぎる!
もうかわいすぎるよ舞ちゃんは。

頭が一気に沸騰しそうになったが、いま熊井ちゃんの言ったこと。そうだったのか。
初等部からずっと学園で過ごしてるんだ、舞ちゃん。ということは、ずっと女子校育ちだったってことか。
またひとつ舞ちゃんのことに詳しくなった。

よし、いいぞ熊井ちゃん。その調子でもっと舞ちゃんの話しを引き出してくれ。
今だけはこの場にいる熊井ちゃんの存在を有難く思った。

「ひょっとして男の子の家に来るのも初めて?」
「初めてでしゅけど・・・」
「えー? 緊張してるの?舞ちゃん?」
「し、してないでしゅよ、これぐらいで緊張なんか」

ようやく舞ちゃんのかわいらしい声を聞くことができた!
舞ちゃん特有の舌足らずのようなその声その喋り方。か、かわいい・・・・ かわいすぎるよ!!
やっぱり舞ちゃんが一番(ryなんてエンドレスで思っている、そんな僕の耳に入ってきたのは熊井ちゃんのクマクマ声だった。

「でも大丈夫だよ、舞ちゃん。食べられたりはしないからw」

食べられたりって・・・ なんだよ、それ。赤ずきんちゃんに出てくる狼かよ、僕は。
彼女はあくまでも軽い冗談のつもりでその発言をしただけなんだろうけど、偶然にもそれは深読みも出来る言葉だったわけで・・・・
もちろん熊井ちゃんのその言葉は文字通りの意味であって、いつだって彼女の言葉に裏の意味などありません。
でも、僕はその言葉を聞いて思わず妄想の世界に旅立ちそうに(ry



ところで、僕には今ちょっと疑問なことがある。
前にお嬢様のお願いでお姉ちゃんが僕の勉強を見てくれると言ったとき、僕にとって願っても無いその好意を熊井ちゃんは即答で断った(何であなたが断る・・・)。

それって、熊井ちゃん、お姉ちゃんが僕に優しくしてくれることに対してヤキモチを焼いたということか・・・
参ったな。こんな超絶美人のふたりが僕を巡ってやりあったりするなんて。僕も罪な男だ。
お願いだから、僕のために争ったりなんかしないでほしいよ、ふたりとも。

・・・・なーんて思って妄想を膨らませてみたりもしたけど、もちろんそんなことあるはずもない。当たり前だ。
ちょっと言ってみたかっただけです。

この間、僕の退院のときにお姉ちゃんと熊井ちゃんのやり取りを見ていて分かった通りだよ。
熊井ちゃん、舞美さんのことを自分の力ではコントロールしきれないほとんど唯一の人だと思ってるみたいなんだ。
だから、舞美さんのそのありがたい提案を熊井ちゃんはキッパリと断ってしまったわけで(繰り返しになるが、何であなたが断る・・・)。

で、疑問というのはここからだ。
と言うのも、僕の勉強を舞ちゃんが見てくれること、それについては熊井ちゃん何も言ってきたりはしないんだな。

これは何故なんだろう。
僕に勉強を教えてくれるのが舞ちゃんっていうのは構わないのか?
そんなことを考えていると、ひとつの仮定が思い浮かぶ。

ひょっとして・・・
熊井ちゃん、まさか僕の舞ちゃんへの思いを汲んでくれたとか?
だから舞ちゃんが僕に勉強を教えてくれるということに対しては何も言わないんじゃないだろうか。
さっきだって、緊張気味の舞ちゃんをリラックスさせるように声を掛けていたようだし、ひょっとして彼女なりに気を使ってくれてるのかな。

あ の 大きな熊さんがそんな気を使ってくれるなんて・・・


「勉強を見てあげてって舞美ちゃんに頼まれた。あと、ちしゃと、からも・・・」

舞ちゃんの言葉で我に返った。
脳内フル稼働であれこれ考えている僕に、ようやく舞ちゃんが話しかけてきてくれたのだ。
舞ちゃんのその表情は相変わらず固かった。さっき言ってた緊張ってのもあるのかもしれないけど、やっぱりここに来ることはあまり気が進まないことだったのかも。
それに、千聖お嬢様のお願いがそれだっていうのが、舞ちゃん的に複雑な気持ちにさせてるのかもしれないな。

でも、僕にはそうやって舞ちゃんが声をかけてきてくれたことが嬉しくて。それが僕を有頂天にする。
だから、それに対する僕の返答もつい力が入ってしまった。

「ありがたいです。僕もこれで遅れを取り戻すつもりで一生懸命やりますのでよろしくお願いします!」
「で、何を教えればいいわけ?」
「僕は英文法が苦手なんで、そこをお願いできますか」
「英語、苦手なの?」
「英語自体は好きなんだけど、文法だけは苦手なんです。だから、舞ちゃんに是非そこを教えていただいて完璧にしたいな、と」
「ふーん・・・」

僕の勉強机を一瞥した舞ちゃん。
そこにあった一冊の参考書を手に取った。

「じゃあこの構文150っていうのをちょっとやってみるでしゅ」

ひとつひとつ例に取りながら舞ちゃんが解説をしてくれる。なんという幸せ。
しかも、天才さんだから普通の理解力しかない凡人に教えたりするのはひょっとして苦手なのかな、なんて思っていたが全然そんなことはなくて。
どうしてそうなっているのか理由を解説しながら教えてくれるからとても理解しやすいのだ。何かもう、さすが舞ちゃんだ。


だが、幸せな時間なんてものは長くは続かないのだった。
僕のこの幸せな時間は、ものの1分15秒ほどで終わった。
それは、この傍らにいた熊井さんが大きな声で僕らに割り込んできたからだ。

「うちにも教えてよー、舞ちゃん!!」

こうして、大きな熊さんが首をつっこんできたのだ。
こうなると、あとはもうひたすら舞ちゃんを独占する大熊さんの図式になるのは当然のこと。

「ここはどうしてこうなるの?舞ちゃん」
「それはでしゅね・・・

舞ちゃんを質問攻めにする熊井ちゃん。その質問に丁寧に解説を加えながら答えていく舞ちゃん。
熊井ちゃんはというと舞ちゃんのその教えに対して素直に頷いている。
猛獣を完全に手なずけている様子の舞ちゃん。カッコイイなあ。

でも、こうやって見るとこの2人ってなかなかいいコンビに見えるんだよな。

ひととおり熊井ちゃんに講義した後、簡単なテストを僕らに作ってくれた舞様。
舞ちゃんの教え方のお陰で、僕は出された問題に対し気持ちいいぐらいに答えを導き出せた。
おぉっ!こんなに成果を実感できるとは! 最強の家庭教師だよ、舞ちゃんは!!
隣りの熊井ちゃんも鼻歌交じりに問題を解いている。

回収した僕らの答案を採点する舞ちゃん。
熊井ちゃんの答案用紙をじっと見ていた舞ちゃんだったが、そのお顔が険しくなった。

「予想以上に出来が悪いでしゅ」

そうなの?鼻歌交じりだったし軽々解いてるように見えたのに。
だが舞ちゃんの顔は険しいままだった。熊井ちゃんのあまりの出来の悪さに驚愕の舞ちゃん。
舞ちゃんが丁寧に教えたのにも関わらず、この出来なのだ。
だが、それが舞ちゃんの負けず嫌いに火をつけた。

「こうなったら意地でも成績を上げてみせるでしゅ。いい?熊井ちゃん」


こうして、ここにいる大きな熊さんのせいで、舞ちゃんはもう完全に熊井ちゃんにつきっきりになってしまった。
お陰様で、僕はすっかり放置プレイになってしまったのだ。

だから、舞ちゃんには僕の勉強を見て欲しかったのに・・・・
なんで僕の家で熊井ちゃんが舞ちゃんからつきっきりで勉強を教えてもらってるんだよ。
舞ちゃんが何のためにここにやってきているのか、分かってますよね熊井さん?
・・・・・ホント空気読んで欲しい、この人。

もちろん、僕には嫌と言うほど分かっているんだけどさ。それが出来るような方ではないことってことぐらいは・・・



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