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それにしても熊井ちゃん、受験生なのに勉強もしないからそんな成績なんだよ。

「熊井ちゃん、もっと危機感を持ってやらないと」
「うちに意見する気なの?」

そんな鋭い目で睨みつけてくるなよ。怖いよ。

「そ、そうじゃないけどさ。もしこれで大学に合格できなかったらどうするんだよ」
「大丈夫だよ。うち本番に強いタイプだから」

自信満々な表情で迷いなく答える大きな熊さん。その根拠の無い自信はどこから出てきてるんだろう。
何もしてない人が本番だけ上手くいくなんて、そんなわけがないとは思わないのかな。
練習で出来ないことが本番で出来るわけが無い、と教わってきた僕には全く理解できない。


「大体さー、そんなに必死でやる必要も無いような気がするんだよね。あははは」

受験勉強を必死でやっている人たちに謝れ。
そんなこと、なかさきちゃんに聞かれたりしたら大変だぞ。

「えっ? 必死でやる必要も無いって、どういうこと?」
「うち、推薦で進学できないかなと思ってるから」
「推薦って・・・・熊井ちゃん、が・・・・?」
「推薦の要件って、学業ならびに人物の優秀な生徒でしょ。それって、うち当てはまってるんじゃないかな?」
「・・・・・・」

この人の学校生活のどこをどう見れば、学校推薦が貰えるような優秀かつ模範的な生徒だと思えるんだろう?
あなたが推薦なんか貰えるはずないじゃないか。
彼女のためにも、そのことはハッキリと分からせてあげたほうがいいと思う。
でも、それをどうやってこの人に伝えたらいいんだろう。
猫の首に鈴を付けようと考えた鼠さん達の心境っていうのはこういう感じだろうなと、どうでもいいことだけどそんな気分を正にいま僕は味わっていた。

座卓は舞ちゃんの横でテキストを広げた大きな熊さんによって占領されてしまった。
「ちょっと!邪魔なんだけど! そっちの机でやりなさいよ!!」と僕に言い放つ身体(からだ)も態度も大きな熊さん。
それで、はじき出されて僕は勉強机でひとり黙々と問題を解いているのだ。
でも、この問題集は舞ちゃんが作ってくれたもの。それだけがいま僕の心の支え。


「ねー、舞ちゃん、この問題はどうやって考えるのー?」

「あっ、なるほど! そういうことかー」

「舞ちゃんに教えてもらうと、分かりやすくていいんだよねー。あははは」


部屋の中、大きな熊さんの明るい声が響く。
なんで、あなたがずっと舞ちゃんの横で勉強を見てもらってるのか。
おかしいでしょ! 舞ちゃんは僕の勉強を見てくれるために、ここへ来てくれたんだぞ。

あぁ、こんな近くに舞ちゃんがいるのに・・・
舞ちゃんのその綺麗な髪の毛の一本一本までハッキリと見える。それぐらい近いのに。
それこそ手を伸ばせば舞ちゃんの柔らかそうなほっぺに触れられそうな。
つやつやとした、その、く、くちびるだって! そして、そのふっくらとした膨らみ(ry


でも・・・・ 良かったのかもしれない。ここに熊井ちゃんがいてくれて。
だって、もしこの部屋で舞ちゃんとふたりっきりだったとしたら、僕は舞い上がってしまって勉強にならなかったかもしれないから。
それに、僕も男だからさ・・・・ それこそ衝動的に舞ちゃんを抱きしめry


・・・なんてことを妄想しても、そんなこと僕には決して出来ないのも当たり前なわけで。
僕は舞ちゃんに決してそんなことはしない(キリッ)! だって、僕がどれだけ舞ちゃんのことを大切に思っていることか!
そりゃ、いつかはそれが許される立ち位置につきたいと思ってるけど・・・・


でも、今の僕は決してその立場にはいない訳で。そんなのは自分でも分かってるから・・・
舞ちゃんはこんなに近くにいるのに、舞ちゃんが遠い。
なまじ舞ちゃんを目の前にしているだけに、もどかしいような狂おしいようなこの気持ちがつらい。


そんな、ひとり葛藤を抱いて苦悶している僕のことを、気付いたように熊井ちゃんがじっと見ていた。
僕の葛藤に気付いたのか気付かないのか。
まぁ、彼女のかけてきた声は、いつも通りののんびりとしたクマクマボイスだったんだけど。

「なんかひとりで寂しそうだねー」


なんだよ、そんなの分かってるくせに・・・
でも、熊井ちゃんは別に嫌味を言ったわけではない。彼女はそんなことは言わない。そこは分かる。
あくまでも、これは素の感想を述べただけなのだろう。
だが、次に彼女の言ったこと、それには一言申し上げたい気分になったのだ。


「しょうがないなー。じゃあ、うちが教えてあげるよ!」

だから、僕は舞ちゃんに教えてもらいた(ry


「結局うちが勉強を見てあげることになるのかー。昔っからそうだったもんねー」

だから、それは僕の記憶とは若干の食い違いが(ry


彼女の言うことにいちいちツッコミを入れつつ、でも今の熊井ちゃんの発言で分かったことがある。
なるほどそうか、彼女の中では、熊井ちゃんは僕に勉強を教える側というスタンスなんだな。あくまでも御自分の方が上という認識で。
この間も、小学校のときの思い出話では、僕にいつも勉強を教えてくれたことになってたし。

勉強を見てくれるというお姉ちゃんの申し出をきっぱりと断ったというのは、そういう意味もあったのかもしれないな。
僕の勉強を見るのは自分の仕事だということなんだろう。
昔のことでは色々と事実誤認もある気もするけど、僕に対してそんなに熱心になってくれるなんて、そこは素直に嬉しい。


熊井ちゃん・・・・


なんて、ちょっと感動しそうになってしまったが、目の前の熊井さんはそんな僕の心の中には全く感心が無い様子(まぁ、当たり前だけど)。
そんなことを考えてる僕に、熊井さんが高らかに宣言する。


「しょうがない。リーダー自ら教えてあげるから感謝するのね!」


「ごめんね舞ちゃん。うち、こいつに教えなきゃいけなくなったから、舞ちゃんは本でも読んでて!!」


・・・・・・


分かってる。これは彼女が純粋に親切心から言ってること。
それでも、その宣言は僕のテンションを一気に萎えさせるのに十分な絶望的な言葉だった。
違うだろ、熊井ちゃん・・・ そこはこうだろうよ、常識的に考えて。

×・・・・・うち、こいつに教えなきゃいけなくなったから、舞ちゃんは本でも読んでて!!
○・・・・・舞ちゃん、こいつの勉強を見てあげて。うちは本でも読んでるね!

せっかく舞ちゃんが僕の勉強を見るためにこの部屋まで来てくれているのに、そんな舞ちゃんに本でも読んでろとか。
これじゃあ舞ちゃんに来て頂いた意味がないじゃないか。
僕は舞ちゃんに教えてもらいたいのに。ほんっと空気を読んで欲しいよ、この人。


もちろん、熊井さんの脚本に僕が訂正をはさめるわけもなく。
物語は大きな熊さんの言った通りに進んでいくのだった。


自称リーダーが言ったセリフを聞いて、手を休めた舞ちゃんは僕の部屋にある本棚に注目された。
そこに並んでいる本をじっと吟味されているようだ。
(見得を張るため、親の書棚から持ってきた難しい本を差し込んでおいた甲斐があった)


「よし!国語をやろう! 国語だったら、うち得意だからね。しっかり教えてあげる!」
「いや、僕は舞ちゃんから教えてもらいたいんだけど・・・」
「なに?聞こえない! ほらさっそくこの問題を解いてみる。制限時間は3秒」
「3秒て・・・ ちょ、待っ」
「はい終了! もう!なんでこんな簡単な漢字も書けないかなー!? やる気あるの?」
「書けるわけないでしょ!たった3秒で・・・そんなの物理的に無理d
「言い訳は無用! だいだい何その態度?うちに反論するつもり?」


結局こういうやりとりになるのか・・・
せっかく舞ちゃんとの勉強会だっていうのに。


「だいたいさー、なってないよね。勉強に対する姿勢が。本当に受験生の自覚があるの?」
「いや、それは熊井ちゃんの方が・・・」
「あ?」
「いえ。熊井サンの仰る通り、僕は受験生の自覚をしっかり持ってちゃんとやろうと思いマス」
「分かればいいけどさ。じゃあ覚悟はいい? ビシビシ行くからね!」

大きな熊さんが一方的に僕をやりこめてくる、このいつもの(無茶苦茶な)やりとり。
そのやりとりに、本棚を眺めていた舞ちゃんが、そのかわいいお顔をこちらに向けた。
大きな目を更に見開いて、超絶熊井理論の展開される様子を見ていた舞ちゃん。
そのお顔にはだんだんと笑いがこみあげてきているようだ。

「ぷっ・・・・ うふ、うふふ、うふふふふふw」


そしてついに、こらえきれないように舞ちゃんがはっきりとした笑い声をあげた。


「あははははは。ほんとーに面白いでしゅ」


舞ちゃんが、舞ちゃんが笑ってくれた!

舞ちゃんが僕の部屋で笑っている。その笑顔のなんと可愛らしいことか。
こんな屈託のない笑顔を見ることができるなんて。しかも、それをここ僕の部屋で。
その笑顔を引き出すことができたのだから、この熊井ちゃんの無茶苦茶な言動さえも受け入れられるような気分にすらなったのだ。


いま僕は幸せの絶頂を味わっていた。頭が爆発するかと思ったぐらい。それぐらい舞ちゃんの笑顔というのは僕にとって・・・
そして自然に感謝の念が頭に浮かぶんでくる。お嬢様、お姉ちゃん、ありがとう。お陰様で舞ちゃんの笑顔が見れました。
今日こんな最高に幸せな気分になれるなんて・・・ やっぱり舞ちゃんは天使だ。
穏かな気持ちで、この幸せを噛みしめていた。


だが、そんな幸せは長くは続かないのだ、もちろん。


だって、今この部屋にはこの人がいるのだから・・・・



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