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白い砂浜を、千聖ちゃんがすいすいと歩いていく。

「ちさとー!わんわん!」
「ウフフ、まーちゃん、こっちへいらっしゃい。綺麗な貝殻があるわ」

犬人間?人間犬?のマサキを傍らに、砂にちょこちょこと足跡をつけていくその後ろ姿がとてもまぶしい。
今は、隣に並べなくてもいいと思った。だって、後ろからなら、どれだけじーっと見つめていたって、誰にも気づかれないから。

目をキュッとすぼめて笑う顔も、短くした茶色い髪も、ちょっと体温の高い小さめな体も、全部が可愛くて、キラキラしている。

自分がこんな、女子が読むマンガの主人公みたいなテンションになるなんて、思っても見なかった。しかも、女の年上の人に。絶対、友達になんて言えない。私はこういうの、からかう側だったはずなのに。

「すどぅー、ヤドカリヤドカリ!」
「ああ?なんだよ、しょうがないなあ」

ぴょんぴょん跳ねながら私を呼ぶマサキを目指して移動する。
大人しくついていってやってるのは、そこに千聖ちゃんも一緒にいるようだったから。

「遥。」

たどり着いた、少し高めの岩場。
一足先に着いていた千聖ちゃんが、私の顔を見て、にっこり笑ってくれる。
メイドさんが言っていたとおり、いつもより明るくて無邪気な感じがする。あ・・でも足の指、ペディキュアとかしてるんだ。やっぱそういうとこは上級生って感じだな。大人っぽくてドキドキする。

「ほら、見て、小さなカニがいるの」
「おー、すっげー!」
「このエリアは、あまり人の出入りがないから、生き物も警戒せずに過ごせるのでしょうね」

声のトーンがとても柔らかい。千聖ちゃんは、なんだかお母さんみたいな優しい顔をしていた。

「動物とか、生き物好きなの?」
「ええ、そうね。父の教育方針で、昔から自然に慣れ親しんできたから。
とりわけ、ここの生き物には愛着があるわ」
「じゃあ、ハ、ハルのことも好き?」
「え?」

口に出してから、私は自分がとんでもないことを言ってしまったと気がついた。
スーッと体温が下がっていくのを感じる。

「あや、あ、あじゃなくて、つまり、ハルもここにいるからハルのことも入るのかなって・・・あーいいや!今のなしで!」

かっこわる・・・。どうもうまくいかない。
千聖ちゃんに、ちょっとは好いてもらいたいっていうのに、どうしてこうなるんだか。

「遥」
「うん」

あからさまにテンションダウンしていると、千聖ちゃんが少し体を寄せてきた。
そのまま、深い茶色の瞳でじーっと見つめられる。

「な、なに?」
「あのね、私、好きよ。遥のこと」

肩をすくめて、はにかんで笑うその顔。
す・・・好きって、言われちゃった。私のこと。まあ、そういう意味じゃないのはわかってるけどさ、でも好きって、好きって言われた!過剰な悦びは禁物だけど、千聖ちゃんが私を(ry

“うふふふ、遥ちゃんは妙なところ冷静なんだから”

うっさいぞ、脳内みずき。あんまりぬか喜びすると、あとで落胆が大きかったりするもんなんだぜ、ハルは大人だから知ってるんだ(キリッ

「うふふ、なんだか幸せだわ。大好きな場所で、大好きな人達と一緒に過ごせるんですもの。
遥に、まーちゃんに、め・・・村上さん。みずきさんも、今度はここに立ち寄れるといいのだけれど」

――ほーら見ろ。ハルだけじゃないだろ。過剰な期待はナントカなのだ。
でも、今はこれでいいんだ。私はガンガンいくタイプに見られがちだけれど、結構慎重派なのだ。
たくさんいる、千聖ちゃんの大好きな人カテゴリーから、頭一歩抜けられるように頑張ろう。

「そうだ、千聖ちゃん。さっき、ここにいる生き物は、特に好きって言ってたでしょ。あれは、何で?」
「ああ、それはね・・・」


「やーどーかーりー!!!」
「ぐえっ」

いきなり、絶叫とともに、マサキが私の背中に覆いかぶさってきた。
やっべ、存在すら忘r・・・いやいや、千聖ちゃんと話すのに夢中だったから、すっかり放置していた。

「まーちゃんやどかり見つけました!やどかりまーちゃん!」
「わかったってば!」
「ウフフ、珍しい生き物もたくさんいるから、2人でよく観察していらっしゃい」

そういうと、千聖ちゃんはウーンと伸びをして、岸壁に頭を寄せて深く息を吐き出した。

「千聖ちゃん?」
「少し休憩するわ。あまり遠くに行ってはだめよ」
「うん」

ほんとはヤドカリとかどうでもいいけど、無理を言って千聖ちゃんを困らせるわけには行かない。
寄せては返す波を、岸壁に座り込んだまま、ぼーっと見つめている千聖ちゃん。はしゃいだと思ったら、急に静かになったりして、不思議な人。

ほんと、綺麗だなあ。魔女で、天使で、人魚姫だ。

「・・・んで?どこにヤドカリがいるんだって?」

千聖ちゃんからのお願いだし、ということで、私はマサキの方を向き直った。

「ヤッドヤドヤドカリー♪」
「おい、ハルの話聞いてる?ヤドカリどこにいるの?」

すると、マサキの歌がピタッと止まった。


「ヤドカリはいないですよ」
「・・・・はああああ?おっまえ、なんなんだよ!あたしは千聖ちゃんと」
「なりひらさんは言いました。“ヤドカリは、誰の心の中にでもいるんだかんな。お前の・・・そして、あたしの心の中にもな!!!11”」
「なんの話だよ。なんもいないならハル戻るからな」
「だめええええんだああああいやああああ」

こいつ・・・またわけのわかんないこといいやがって。

「なんでヤドカリいないのにいるとかいったんだよ」
「まーちゃんすどぅと遊びたいです」
「ハルは千聖ちゃんと話したいの!」
「ちさとーはすどぅがまーちゃんと遊ぶ事を欲しているのでしょう、とまーちゃんは思いました」
「なんだその日本語翻訳サイトみたいな喋り方。とにかく、戻るからな」

くるっと方向転換して、千聖ちゃんの方へ行こうとしたその時だった。

ガシッ


「・・・おい、離れろよ」

マサキが、私の腰にガッチリ抱きついてきていた。

「どぅふふふ」

キモい笑いを浮かべるマサキ。
こいつ、何考えて・・・そう警戒した、次の瞬間。


「どっせーい!」

体が、ぶわんと宙を舞う。
マサキが自分の体ごと、私を岩場からぶん投げたのだと、1.5秒ぐらい遅れて理解した。
こ、こいつ・・・イタズラ好きってレベルじゃねーだろ、マジで!テロリストか!

目的のためなら手段を選ばない、なんて言ったらかっこよく聞こえるけれど、こいつは、いきなりリミッター解除されるタイプだ。楽しいことを思いつくと、それを実行せずにはいられない。
そして、そこには周りの目とか、相手の・・・そう、ハルの都合なんてお構いなしになってしまうのだ。さっきの犬の真似の時点で、気づいておくべきだった。

ヒューッと風を切る音が耳元を通過していく。
ああ、こんなところで、人生が終わってしまうなんて・・・。もう少し体重つけとけば、マサキの野郎を振りほどけたかな。もう遅いけれど・・・。こういうの、何ていうんだっけ。みずきちゃんが言ってた。ボンがどうの・・・ええと


バシャーン!


派手な音とともに、体が水の中に沈んだのがわかった。鼻に水が入って痛い。服がまとわりついてきてうっとうしい。
だが、どうやら天国行きは免れた模様。すぐに体が浮かんでくるのがわかった。
頭をぶつけるほど浅くもなく、沈んで戻れなくなるほど深くもないエリアだったらしい。

ええと・・・あんまり慌てて動いちゃいけないんだ。こういう時は、冷静に。・・・水泳やっててよかった。
ゆっくり平泳ぎで体を引き上げていくと、すぐに水面から顔を出すことができた。

「ぷはー!マジやばいかと思ったぜ!おい、てめーマサ・・・あれ?マサキ?」

早速文句を言ってやろうとしたのに、私にまとわりついていたはずの、マサキが見当たらない。

「おい!」

波を避けながら方向転換を試みる。すると、ちょっと遠いところで、マサキがバチャバチャと波音を立てているのが見えた。

「あひゃひゃひゃ」
「ったく、脅かすなよ!戻るぞ」
「・・・すね」
「あん?」
「まーちゃん、泳げないですね!あひゃひゃひゃ」
「・・・・おい、マジかよ!笑ってる場合か!」

ふざけているのかと思ったら、どうやらガチで危ないところらしい。笑いながら沈み、また笑いながらバチャバチャを繰り返すマサキ。
慌ててそっちへ向かおうとしたところ、グイッと腕を引かれた。


「あん?」
「・・・服のままだと、危ないから。先に浜に戻ってて」

いつのまにか、知らない女の人が、そこにいた。
目がクリッと丸くて、丸いほっぺたがリスみたいだ。千聖ちゃんと同じ年ぐらいだろうか。可愛らしい顔だなあ。

「お友達、なんともないから安心してね。ああ、少しおでこぶつけてるかも。でも、うん、心配ないかな。」

この距離で、何でそんなことわかるんだろう。でも、この人の言う事には妙な説得力があって、私はぼーっと見とれてしまった。



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